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「そうだリリア。こっちも見てみろよ」

ブライアンは別の荷台の掛布をばさりと落とす。

「な、なにこれ!」

そこにあったのは布の山であった。布、というよりありとあらゆる服なのだが食材と違って衣服の見分けがあまりできないリリアには布の山に見える。
孤児院で修繕していた服はどれも大体簡素な作りだったのだ。

「服だよ、服。皆がドレスとか祭事用衣装とか詰め込むもんだから、頑張って動きやすい服を多くしたんだぜ?」

「色が沢山あってよく分からないわ」

「まあ一人で着られないものは着なくていいだろ。隣町で売って金にするのもいいんじゃないか?」

「それは失礼だと思うわ」

「気にすんなよ。あの小屋じゃ仕舞う所もないだろうし、手入れも分からずだめにするよりよっぽどマシじゃないか」

仕立屋の息子の言はあまりに正論だった。
おそらく喜々として用意してくれたものを返すというのも気が引ける。

「それもそうね……」

荷台の後ろの方にあるものが日常用のスカート類らしい。
他にもコートや手袋、夏用の薄手のものまで揃っている。
今着ている雑巾色のスカートしか選択肢が無かったリリアには何が何やらだった。

「あら?」

よくよく見ると成人男性用のサイズらしきものもあった。

「エレス用のかしら」

(そういえばエレスは最初から服を着ていたけれどどこかから調達してきたのかしら)

エレスはたっぷりの布で作ったようなゆったりした白い服を着ている。
分厚そうな存在感のある布だが、風に揺らめいたりたまに余っている裾布が透けたりと不思議な素材だ。

「ああ、それは王様用だと思う。普通の丈より随分長いから後で調整する用のやつだな」

確かにエレスは長身だ。そして昨日の印象が強いのか、生成りや白い布が多かった。

「けど……精霊王の着ている服の素材、分からないんだよな。人間の作った服を着るのか?」

リリアとブライアンがこそこそと話していると件の布のはためかせながら精霊王が近づいた。

「着る事自体は出来るだろうが、必要性は感じないな」

「じゃあエレスのその服ってどこで見つけてきたの? やっぱり教会に?」

ふむ、と精霊王が少しの間思案する。

「説明が難しいな。この服に見える部分は人間で言えば髪や爪になるのだろうか」

「それは少し印象が変わってくると思いますよ。とはいえ確かになんと言えば良いのかは……」

ウォネロが口を挟むが、歯切れが悪い。ヒレを器用に動かしおそらくあごあたりに沿わせ、うーむと悩む。

「私がヒトの姿を得る時にヒトの概念が形質化したもの、というのが近いのだろうな」

ゆる、と優美にエレスはその場に足を組んで腰掛ける。
勿論椅子などはなく浮いているのだがローブのような服の裾は地面に着くほど布が余っている割に土や草が動く気配はない。
ちゃんとよく見れば服の裾の先は風に溶けるように、水が滴るように薄くなっていた。

「不思議だわ。でも人の服を着られるって事は脱ぐことも出来るのね」

リリアが何気なく疑問を呈するとエレスはにっこりと微笑む。

「ああ。だからリリアが求めるならいつでも肌同士を合わせる事が出来る」

「そんな時ないから!!!」

やり取りを聞いていたブライアンは胸やけで倒れた。
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