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以前のリリアであれば大人しくブライアンやキャロルの言う事を聞いていた。
おそらく花冠を受け取り、その後キャロルに渡してしまっていただろう。
だが精霊達との小屋での生活を経て、リリアには目の前の女の子の事を怖がる事が出来なかった。
むしろ同情してしまいそうになる。
(でもそれはキャロルも望んでいないもの)
無加護から同情されたなどと分かると、キャロルがどう出るか分からない。
往々にして、村の人々は無加護であるリリアが抵抗したり気遣いを見せると激高したり怯えたりする事があった。
それよりもリリアにはもっと気がかりな事があるのだ。
(キャロルの言葉を聞いて私の村での立場を知る事がないといいんだけれど)
花精霊祭の後で、恋慕の情に巻き込まれただけだという説明をするつもりではいる。
だがそれで精霊達が誤魔化されてくれるかは怪しくなってきた。
まだ言い訳出来る内にキャロルから離れたいリリアは別の話題で気をそらすことにした。
「もうすぐ花乙女を選ぶ祭事が行われるんでしょう。そっちへ言った方が良いんじゃないかしら」
出店で食材を見ていた時から人々の噂にのぼっていたが、花乙女に選ばれたい少女たちは舞台の最前列でずっと待っているそうだ。
精霊王が舞台の上から花乙女に会いに生き、その手を取って壇上に上がる。
今年はブライアンが精霊王役だからキャロルが選ばれるだろう、という話もされていた。
実際キャロルも選ばれるつもりでいたのだろう。
だからこそ最前列で待たずこうして余裕をもって花精霊祭を楽しんでいたのだ。
(なんにせよ、もう買い物は無理ね)
調味料も充分とは言えず帽子も買えなかったが仕方ない。
せめて人に見つからないように村を出るしかないだろう。
幸い皆村の中心の大篝火の方へ向かっているようで、こんな物置の影に誰も注意を払っていない。
キャロルと別れさえすれば大丈夫そうだ。
そのキャロルはリリアを睨みつけて何事か呟いている。
「……は……、花乙女は私なのよ……!」
『リリアだが?』
「ややこしくなるから黙ってて」
エレスは至極真面目に口を出しているのだが、リリアは今それどころではない。
「どうせ無加護のあんたが、変なまじないか何かでブライアンの心を操ってるんでしょう」
「ま、まじない……? 想像力豊かなのもいい加減にしてちょうだい」
「まだ終わってない。いえ、……始まってない」
自分に言い聞かせるように呟いているキャロルにはリリアの言葉は聞こえなかったようだ。
キャロルはキッとリリアを睨みつけると踵を返して駆けていく。
(よく分からないけどここから離れてくれたのはありがたいわね。花乙女選びに向かったのかしら)
リリアは汚れてしまった帽子とレースを拾ってエレスに向き直る。
「今のうちに小屋へ戻りましょう、エレス。日も暮れてるし思ったより長居しちゃったわね」
その時祭りの中心からキャロルの声が響き渡った。
「皆、リリアが来てるわ! あの無加護が! 悪魔の生まれ変わりがお祭りをめちゃくちゃにしようとしてる!」
一瞬の静寂の後、村の中心からざわめきはじめた。
それは徐々に大きくなっていく。
日ごろから村の人間全体と仲良くしていたキャロルの信用は高い。
人々はすぐに信じたようだ。
「無加護? この間出て行ったんじゃないのか?」
「せいせいしてたのにもう戻ってきてたのかよ」
「まさか呪いにきたんじゃない? あの子不気味だし」
「こんなめでたい日に困るよ。あの悪魔の生まれ変わり追い出してしまわないと」
「そうだ追い出そう!」
「無加護はどこだ?」
おそらく花冠を受け取り、その後キャロルに渡してしまっていただろう。
だが精霊達との小屋での生活を経て、リリアには目の前の女の子の事を怖がる事が出来なかった。
むしろ同情してしまいそうになる。
(でもそれはキャロルも望んでいないもの)
無加護から同情されたなどと分かると、キャロルがどう出るか分からない。
往々にして、村の人々は無加護であるリリアが抵抗したり気遣いを見せると激高したり怯えたりする事があった。
それよりもリリアにはもっと気がかりな事があるのだ。
(キャロルの言葉を聞いて私の村での立場を知る事がないといいんだけれど)
花精霊祭の後で、恋慕の情に巻き込まれただけだという説明をするつもりではいる。
だがそれで精霊達が誤魔化されてくれるかは怪しくなってきた。
まだ言い訳出来る内にキャロルから離れたいリリアは別の話題で気をそらすことにした。
「もうすぐ花乙女を選ぶ祭事が行われるんでしょう。そっちへ言った方が良いんじゃないかしら」
出店で食材を見ていた時から人々の噂にのぼっていたが、花乙女に選ばれたい少女たちは舞台の最前列でずっと待っているそうだ。
精霊王が舞台の上から花乙女に会いに生き、その手を取って壇上に上がる。
今年はブライアンが精霊王役だからキャロルが選ばれるだろう、という話もされていた。
実際キャロルも選ばれるつもりでいたのだろう。
だからこそ最前列で待たずこうして余裕をもって花精霊祭を楽しんでいたのだ。
(なんにせよ、もう買い物は無理ね)
調味料も充分とは言えず帽子も買えなかったが仕方ない。
せめて人に見つからないように村を出るしかないだろう。
幸い皆村の中心の大篝火の方へ向かっているようで、こんな物置の影に誰も注意を払っていない。
キャロルと別れさえすれば大丈夫そうだ。
そのキャロルはリリアを睨みつけて何事か呟いている。
「……は……、花乙女は私なのよ……!」
『リリアだが?』
「ややこしくなるから黙ってて」
エレスは至極真面目に口を出しているのだが、リリアは今それどころではない。
「どうせ無加護のあんたが、変なまじないか何かでブライアンの心を操ってるんでしょう」
「ま、まじない……? 想像力豊かなのもいい加減にしてちょうだい」
「まだ終わってない。いえ、……始まってない」
自分に言い聞かせるように呟いているキャロルにはリリアの言葉は聞こえなかったようだ。
キャロルはキッとリリアを睨みつけると踵を返して駆けていく。
(よく分からないけどここから離れてくれたのはありがたいわね。花乙女選びに向かったのかしら)
リリアは汚れてしまった帽子とレースを拾ってエレスに向き直る。
「今のうちに小屋へ戻りましょう、エレス。日も暮れてるし思ったより長居しちゃったわね」
その時祭りの中心からキャロルの声が響き渡った。
「皆、リリアが来てるわ! あの無加護が! 悪魔の生まれ変わりがお祭りをめちゃくちゃにしようとしてる!」
一瞬の静寂の後、村の中心からざわめきはじめた。
それは徐々に大きくなっていく。
日ごろから村の人間全体と仲良くしていたキャロルの信用は高い。
人々はすぐに信じたようだ。
「無加護? この間出て行ったんじゃないのか?」
「せいせいしてたのにもう戻ってきてたのかよ」
「まさか呪いにきたんじゃない? あの子不気味だし」
「こんなめでたい日に困るよ。あの悪魔の生まれ変わり追い出してしまわないと」
「そうだ追い出そう!」
「無加護はどこだ?」
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