48 / 77
47
しおりを挟む
リリアは日の出前に目が覚める。
これはもう沁みついた習慣だった。
精霊達は微睡んだりどこかへ行ったりと好きなようにしているが、朝食が出来る頃には小屋に集まっている。
それが大体日の出すぐくらいの事だから、それまでに朝食の準備をしたり簡単な掃除を行うのだ。
しかし今日は違う。
村へは人が少ない内に向かうことになった。小屋の前で簡単な予定を共有する。
「ドレスは店にあるんです。あの……それで、精霊様方にはリリアが店に入る手伝いをしてほしく、存じます」
早めに村に入ってしまえば、後は誤魔化せるとブライアンは考えていた。
お祭りの日はどうだか知らないが、リリアも村の人が多くなるのは市場が開く時間だと知っているのでそれに異論はない。
ブライアンは精霊の視線にひるむが、なんとか口に出す。
精霊達がどの程度人間社会に詳しいのかは分からないが、下手に突っ込まれない内に言葉を重ねる。
「リリアは一度村から出た身です。俺たちの村は外に出た人間に厳しくて……。人気のない内に村に入る予定ですが、リリアは目立つんです。なので店の中でちょっとした小火を起こして人目を引きつけて頂きたくて……。リリアが森に来た理由は加護を得られなかったからなんです。なので協力、していただけませんか」
(それにしても、よくこんなにすらすら出てくるわね)
ブライアンの言葉全てが嘘というわけではないが、だからこそ真実味がある。
実際リリアは無加護だからと元々疎外され虐げられていたのだが、上手く理由がすり替わっている。
そもそも村の中でも特にリリアに暴力を振るっていたのはこのブライアンに他ならない。
自分にもこの世渡りの上手さがあればもう少し生きやすかったのかもしれない、とリリアは心の中でこっそり思った。
しかしブライアンの申し出に対して精霊の反応は冷たい。
「断る」
精霊王はもはや気だるげに、相手をするのも面倒といった風情だ。
視線も動かさず、まるで年齢を重ねた巨木のように泰然とリリアの側に在るだけだ。
ブライアンは完全にひるみ、自慢の口も回らないらしい。
「なぜお前如きの頼みを聞かねばならん。一介の人間が精霊を動かせるなどと思い上がるな」
「で、ですが」
「くどいねえ。あんたの頼みなんか誰も聞きゃしないさ。事情があろうがなかろうが、あたしらはリリアのいう事しか聞かないよ」
フォティアが牽制するように口を出す。
これ以上精霊王を刺激しないようにという、人間の近くにいた精霊なりの配慮なのだが、ブライアンの表情を見るにあまり通じていないようだ。
フォティアは内心少し呆れてしまうが、これだけの精霊を前に口を開けるだけ肝が据わっているのかもしれないとも思う。
「お願いよエレス。皆と花精霊祭を楽しむに力を貸してほしいの」
リリアがそういうとエレスは相好を崩す。
「もちろん。乙女の願いであれば断る理由もない」
精霊にとっては申し出の内容より誰が頼んだかの方が重要らしい。
精霊が気難しく、また気に入られたのがリリアで良かったとブライアンは改めて思ったのだった。
これはもう沁みついた習慣だった。
精霊達は微睡んだりどこかへ行ったりと好きなようにしているが、朝食が出来る頃には小屋に集まっている。
それが大体日の出すぐくらいの事だから、それまでに朝食の準備をしたり簡単な掃除を行うのだ。
しかし今日は違う。
村へは人が少ない内に向かうことになった。小屋の前で簡単な予定を共有する。
「ドレスは店にあるんです。あの……それで、精霊様方にはリリアが店に入る手伝いをしてほしく、存じます」
早めに村に入ってしまえば、後は誤魔化せるとブライアンは考えていた。
お祭りの日はどうだか知らないが、リリアも村の人が多くなるのは市場が開く時間だと知っているのでそれに異論はない。
ブライアンは精霊の視線にひるむが、なんとか口に出す。
精霊達がどの程度人間社会に詳しいのかは分からないが、下手に突っ込まれない内に言葉を重ねる。
「リリアは一度村から出た身です。俺たちの村は外に出た人間に厳しくて……。人気のない内に村に入る予定ですが、リリアは目立つんです。なので店の中でちょっとした小火を起こして人目を引きつけて頂きたくて……。リリアが森に来た理由は加護を得られなかったからなんです。なので協力、していただけませんか」
(それにしても、よくこんなにすらすら出てくるわね)
ブライアンの言葉全てが嘘というわけではないが、だからこそ真実味がある。
実際リリアは無加護だからと元々疎外され虐げられていたのだが、上手く理由がすり替わっている。
そもそも村の中でも特にリリアに暴力を振るっていたのはこのブライアンに他ならない。
自分にもこの世渡りの上手さがあればもう少し生きやすかったのかもしれない、とリリアは心の中でこっそり思った。
しかしブライアンの申し出に対して精霊の反応は冷たい。
「断る」
精霊王はもはや気だるげに、相手をするのも面倒といった風情だ。
視線も動かさず、まるで年齢を重ねた巨木のように泰然とリリアの側に在るだけだ。
ブライアンは完全にひるみ、自慢の口も回らないらしい。
「なぜお前如きの頼みを聞かねばならん。一介の人間が精霊を動かせるなどと思い上がるな」
「で、ですが」
「くどいねえ。あんたの頼みなんか誰も聞きゃしないさ。事情があろうがなかろうが、あたしらはリリアのいう事しか聞かないよ」
フォティアが牽制するように口を出す。
これ以上精霊王を刺激しないようにという、人間の近くにいた精霊なりの配慮なのだが、ブライアンの表情を見るにあまり通じていないようだ。
フォティアは内心少し呆れてしまうが、これだけの精霊を前に口を開けるだけ肝が据わっているのかもしれないとも思う。
「お願いよエレス。皆と花精霊祭を楽しむに力を貸してほしいの」
リリアがそういうとエレスは相好を崩す。
「もちろん。乙女の願いであれば断る理由もない」
精霊にとっては申し出の内容より誰が頼んだかの方が重要らしい。
精霊が気難しく、また気に入られたのがリリアで良かったとブライアンは改めて思ったのだった。
24
お気に入りに追加
6,013
あなたにおすすめの小説
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです
珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。
そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。
日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる