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「花精霊祭かあ」

ブライアンに毛布を届けた後、リリアは小屋から少し離れた所で月を見上げていた。

(まさか無加護の私が参加する事になるなんて)

エレスと出会い祝福されてから、彼女にとって驚くことばかり起きる。

「花精霊祭に本物の精霊王がいるなんて、本当に大丈夫なのかしら」

リリアは花精霊祭がどんなふうに行われるのかは知らない。
アエラスの口ぶりからすると精霊や大精霊はお祭りを楽しむ事もあるようだし、誰も心配していないから問題はないのだろう。

無加護に対する村での扱いについても、ひとまずはブライアンを信じる事にする。
後は初めてのお祭りを楽しむだけなのだ。
きっと、自分が楽しそうにしている事が精霊達にとっても嬉しいのだろうとリリアも分かっている。

急遽決まった花精霊祭の参加だがそれでも、リリアにはまだ一番気になる事がある。

(……建国の花乙女ってどんな人だったんだろう)

精霊曰く今はリリアこそが花乙女という立場らしいが、まるで実感がない。
エレスと話しあったりもしたが、リリアはリリアなのだ。
ブライアンに伝えたように、この小屋で静かに暮らしていければそれでいいと思っている。


(エレスには自分の他に大切な人がいたのよね)

そんな当たり前の事がこんなにも苦しい。
むしろ、おそらく自分は花乙女の代わりなのだろうとリリアは考える。

(建国の花乙女はもういないから)

自分はエレスが本当に愛した花乙女の代替でしかないのだ。
そう思うと彼女は体から力が抜けるような感覚になる。
心臓にチクリと針を刺され、そこからしゅうしゅうと全身の空気が抜けていくようだ。

だがリリアはショックを受ける立場ではないとも理解していた。
精霊王からの祝福され、今こうして慎ましく楽しく暮らしている。

エレスは側にいなかった15年分、これから祝福してくれるとも約束してくれた。
精霊と縁遠くても、いやむしろ精霊を近くに感じなかったからこそ、それがどんなに凄い事なのか分かる。
だから何に対し満たされないと思ってしまっているのか、リリアには分からない。
身に余る幸福を確かに感じているはずだ。

(変な感じ。心臓がお腹空いたって言ってるみたいで落ち着かないわ)

何が不満なのだろう。何を不安に感じているのだろう。
リリアは生まれて初めて感じる情動に困惑していた。

自分の心が騒ぎ立てて空腹時のように音を出さないように。
上からそのまま抑え込むようにリリアはぎゅう、と心臓のあたりの布を掴んだ。
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