「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井

文字の大きさ
上 下
28 / 77

27

しおりを挟む
先回りして落ち込んでおく事で心を守るのはリリアの癖だ。
だが、村にいた時はそれが常態だったのでその癖を意識した事があまりない。

先に崖から落ちておけば誰かに「突き落とされる」事はない。
それがリリアなりの処世術だったのだが、この短い間に少し優しくされただけで心の鎧が剥がれている。

(だめね。しっかりしないと)

リリアはひっそりと気合を入れなおしながら、昨日仕込んでおいた鍋を取り出す。
鍋の中にはリリア特製の肉の煮出し汁を仕込んであった。

もう食べる所がない鶏と牛の骨を乾燥させたもの、クズ野菜を布に入れて煮たものに孤児院の裏庭で個人的に育てていた香草ハーブを入れたものを、灰汁を取って一晩ゆっくり煮出した。
それを丁寧に濾すとリリア特製の出汁になる。

この特製出汁はリリアが偶然見つけたものだ。
孤児院では夜中まで起きていたリリアはお腹が減る事が多かったのだが、院の共有財産である食材に手を付けるわけにもいかない。

そこで目を付けたのが温かいスープだ。
白湯でもお腹は落ち着くが、いらない食材を入れてみたらどうだろうと思ったのだ。
村では食事に使った後の骨は普通捨てているが、それを入れてみた。

うっすらとだが肉がついているし、美味しいかと思ったのだが当然というか、さすがに美味しくはなかった。
生臭いし、油が浮いている。味もついていない。香りの強いハーブを入れてみてもだめだった。
良い考えだと思ったリリアだったが、意気消沈してその日は眠る事にした。

しかしうっかり片付け忘れていた鍋の中を翌朝見てみると良い香りがしていたのだ。
その残り汁を使ったスープは大人気。
美味しいスープと皆の反応に凄まじい手ごたえを感じたリリアはそれから少しずつ改良を重ね、今に至る。

その出汁に刻んだ土玉ねぎ、エーコンを入れ火が通るまで数分煮る。
味を調える為に岩塩をひと振りと蜂蜜酢を少し。

ここに芋や豆をいれればそれだけでメインになるが今回は黒パンを使う。
黒パンをちぎってスープ皿に入れておき、チーズをふりかけてそこへ熱々のスープを入れる。

こうすれば硬い黒パンがスープをよく吸ってふかふかとろとろになって美味しいのだ。

他人が作ったものを食べる機会は少なかったが、美味しくなるように研究した積み重ねがリリアのちょっとした自信になっている。
料理を始めた頃はマチルダ院長にズタボロに貶されたが、そんな院長がどんどん何も言わなくなっていったのが証拠と言ってもいい。
マチルダ院長は隙あらばリリアで憂さ晴らしをするので、それをしないという事は充分以上に合格ラインを超えているという事だ。

「出来たわよ」

「良い匂いがするーっ!」

調理中も落ち着きなくリリアの手元を眺めていたアエラスは、今度は配膳されたお皿の周りをぐるぐるしている。
なぜかエレスもリリアの傍に立ち、手際を見つめていた。
どうやら二人は待ちきれずお皿をテーブルに運びたいらしい。
対した距離ではないし、運ぶだけなのだから座ってくれていてもいいのだが、その気持ちが嬉しい。

リリアも席について食前の祈りを唱える。

「あっそれ知ってる! 人間がよく言ってるやつだ!」

「ふふ、そうよ。私たちのお祈り、ぜひ受け取ってちょうだい」

「うん!」

「熱いから気を付けてね。ふーふーするのよ」

「待てアエラス」

「ふーふー?」

エレスが止めたがアエラスはもう目の前の料理しか見ていない。
リリアを真似て小さな口をめいっぱい開ける。

「おやおや、風の精霊にそんな事をさせてはどうなるか分かりませんよ」

そしてアエラスがふー、と息を吐く前に、スープとアエラスの間にひらりと涼やかな青色が舞った。
翻る尾びれの優雅な、青い金魚だ。
金魚は見た事がある。
ただし目の前の金魚は空中を泳いでいた。それにどうやら帽子のようなものを被っている。

(な、何かしら? 精霊様?)

「ウォネロじゃん!」

「ご無沙汰しております」

アエラスが元気よく名前を呼ぶ。ウォネロ、という事はどうやら水精霊のようだ。
空を泳ぐ不思議な金魚は水そのもので出来ているかのように、ひれや帽子の先が透けている。

「初めまして乙女。水の大精霊のウォネロと申します。いやあ、驚かせてしまって申し訳ない」

ウォネロはその場でくるりと回ってひれで器用に帽子を持ち上げる。
孤児院に寄付をしにきてくれる人の挨拶のような、紳士然とした金魚だ。

「あたしにも挨拶させてくれよ」
そしてそんなウォネロの隣で、何もないのに溌剌とした声と共に炎が燃え上がった。

「初めまして乙女。あたしは炎の大精霊フォティア」

炎が収まるとそこに現れたのは真っ赤なドラゴンだった。
ドラゴン。院にあった絵本でしか知らない存在だ。
大きさこそアエラスとそう変わらないが、艶やかなウロコや口を開けるたびにちらちらと炎が見える。

「いえこちらこそはじめまして……。リリアと申します」

「あっはは、そんな畏まらなくてもいいって」

炎の大精霊、フォティアは小さい手をリリアに差し出す。
快活な女性を思わせる精霊は、そっと握って握手をするとほんのり温かくぷにぷにしていた。
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~

日之影ソラ
恋愛
【小説家になろうにて先行公開中!】 https://ncode.syosetu.com/n9071il/ 異世界で村娘に転生したイリアスには、聖女の力が宿っていた。本来スローレン公爵家に生まれるはずの聖女が一般人から生まれた事実を隠すべく、八歳の頃にスローレン公爵家に養子として迎え入れられるイリアス。 貴族としての振る舞い方や作法、聖女の在り方をみっちり教育され、家の人間や王族から厳しい目で見られ大変な日々を送る。そんなある日、事件は起こった。 イリアスと見た目はそっくり、聖女の力?も使えるもう一人のイリアスが現れ、自分こそが本物のイリアスだと主張し、婚約者の王子ですら彼女の味方をする。 このままじゃ聖女の地位が奪われてしまう。何とかして取り戻そう……ん? 別にいっか! 聖女じゃないなら自由に生きさせてもらいますね! 重圧、パワハラから解放された聖女の第二の人生がスタートする!!

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。 ――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの? 追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※序盤1話が短めです(1000字弱) ※複数視点多めです。 ※小説家になろうにも掲載しています。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

処理中です...