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薄く目を開ければ、雨のような細い銀糸が光をまとって輝いているのが視界一杯に広がっていた。

「おはよう、私の黄金草」

「……? えれす……?」

よく見ると銀の光はエレスの髪だった。
エレスが既に起きていて、リリアの寝顔を眺めていたらしい。

完璧に整った美貌に穏やかに微笑まれ、妙な居心地の悪さを覚えながらリリアは慌てて体を起こす。
身体を動かさないとリリアこそいつまでもエレスに見惚れてしまいそうだった。

「やだ、そんなに寝ちゃったのかしら。ごめんなさい、今支度するわ」

「いや、私が寝ていないだけだ。まだ朝も早い。リリアはもっと眠るといい」

「寝てないって……」

精霊でも人の形をとれば眠る必要があると言ったのはエレスだ。
よくよく見ると朝日に照らされて浮かぶ白い顔のその目の下に、うっすらとだが隈が透けているように見える。

「まっ心配しないでいいよ! 肉体を得た後はしばらく慣れる必要があるってだけだからさ! 限界まで起きて眠れば次からコツが掴めるさ!」

足元で文字通り羽を伸ばして寝ていたアエラスが会話を聞いたのか、パチリと目を開けて起きた。
起きてすぐ飛びあがり、羽音を響かせながらすさまじい勢いで喋る様子にリリアは少々面食らう。

「おはようアエラス。その限界まで起きているのが心配なんだけど……。あなたもそうなの?」

「おはようリリア! ボクはこの姿に慣れてるから普通に寝るよ! 王様も心配いらないって! 別に死ぬことはないんだからさ!」

では、出会った日に一緒に眠った時エレスは起きていたのだろうか。
確かに眠ったのを確認したわけではないが、そもそも確認のしようもない。

寝不足の辛さはリリアもよく理解しているつもりだ。
どうしたって心配になるが同じ精霊の事はリリアには分からない。
同じ精霊のアエラスの言う事なのだからそちらを信じるべきだろうか。

「アエラスの言う通りだろう。人の形を取っていても普通のヒトとは違うようだな。どうもあまり疲れないし、やたら頑丈に出来ているとでも思ってくれ」

「そうなの……? でも、辛かったらすぐ教えてね」

「ああ。私の乙女は優しいな」

エレスはリリアの手を取りうっとりと優しいまなざしを投げる。

「あ、当たり前の事よ」

「いやー精霊を心配するって相当珍しいよ!」

当然の事をしてもどうやらそれは当然ではないらしい。
不勉強が明かされるのは正直恥ずかしい。

「それよりご飯食べようよお腹減ったなー!」

「アエラス」

無邪気な物言いに、たしなめるようにエレスが名前を呼ぶ。

「そうね、私もお腹減ったわ。今準備するわね」

アエラスの言葉でベッドから降りて外へ向かう。
汲んでおいた水で顔を洗い、伸びをすると気持ちが良い。

そういえば私もこの小屋に来てから随分すっきりしているわね。

ここへ来てから用事を言いつけられる事もなくぐっすり眠る日々だ。
身体が軽いし、気力に満ちているような気がする。

(エレスもゆっくり眠れればいいけど)

そのまま暖炉へ向かう。
孤児院ではキッチンが別にあったが、この狭い小屋ではむき出しの暖炉が台所だ。

「アエラス、お前は自分で用意できるだろう」

何が気に入らないのか、不機嫌そうにエレスがアエラスを横目で睨めつける。

「でもリリアのご飯を王様が夜中これでもかって自慢してくるからさー! ボクだって食べたい!」

これにはリリアも焦った。
人が寝ている間に何を吹き込んでいるのだろう。

「ちょっとエレス、何を言ったの? 私はそんな期待してもらうようなものは出せないわよ」

「そうかもしれんな。期待以上のものだから想像するだけ無意味だ」

困った事にどんどんハードルが上がっていく。
勿論自分の料理が美味しくないとは思わないが、どうやらエレスは久しぶりに人の身体で料理を食べた事で必要以上に感動しているようだ。

しかし今の姿に慣れているというアエラスはきっと素直に感想を述べるだろう。
そこでけちょんけちょんに言われてしまったら落ち込みそうだ。

(あ、落ち込みそう、だなんて。……私ったらこの短い間ですっかりエレスに甘やかされるわね)
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