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(昨日から思ってたけど、もしかして精霊の王様は口説き魔なの!?)

まるで村で見かけた、恋した人がその好きな人にかける言葉のようだ。
何度かそういう場面に遭遇してしまい気まずくなったのを覚えている。
だいたいは二人ともうっとりとして、世界に二人だけだという感じだったので見つかる前にこっそり避けていた。

だがリリアは自分が精霊から愛されているとは思えなかった。
きっと目にかけて貰えているのだろうとは思う。

でもきっと、無加護だから逆に珍しいってくらいの事よね。

髪を抑えながら、赤くなった顔を落ち着かせる為に当初の用事である果物を指さす。

「ところでこれどうしたの!?」

「ああ、人間の身体をとっていると腹が減ったからな。食べごろを用意した」

確かに食べごろだ。どれもこれも美味しそうで、つやつやとしている。
孤児院では食べた事がないような高級品だ。野生種ではない。

どこから持ってきたのだろう、とリリアが不思議に思っていると。

「リリアは食べないのか?」

「えっ!?」

既に美しき精霊王は宝石のようなファイアベリーをヘタごと無造作に食べていた。
甘くてうまいな、などと呑気に感想を述べている。

「用意したって、そういうのは多分すっごく手間暇かけて育ててるの!野生種はあんまり美味しくないし、虫や鳥につつかれた後があるはず……だから……」

「だから?」

「困ってる人がいるんじゃないかなって……」

形が良く傷もない、そんな果実は一般家庭にも出回らないだろう。
高級なものはだいたいが奉納用だ。

「……だが、私の甘く小さいファイアベリーよ」

「……もしかしてそれ、私の事?」

「ああ、リリアも美味しそうだからな」

……精霊って人間が食べ物に見えるのかしら。

そんな話は聞いたことがないが、人間を食べたりするのかもしれない。
精霊に詳しくない事を自覚しているリリアは少しだけ警戒する。

「ここにあるものは全て私に捧げられたものなのだが」

「あ」

そうだ、この方は精霊王だった。

各地の精霊教会で毎日のように色んなものが捧げられているはずである。
なんならリリアのいた村、ルーペス村でもその日の恵みを精霊への感謝の印に捧げていた。
あげる、というのだから貰っても、何も問題はない。

「一番量が多かった首都から持ってきたのだが問題あったか?人間のルールは良くわからないものが多くてな」

リリアが力説したせいなのか、精霊王は少し不安げにしている。

(精霊の王様が私みたいな人間の言葉でうろたえるなんて、意外だわ)

リリアはくすくす笑って、精霊王ににっこりと向き合った。

「私も、精霊の事全然知らないし、人間社会のルールも同じくらい分かってないわ。これから一緒にすり合わせていきましょう。
それと、あなたに捧げられたものならきっとあなたの好きにしていいはずよ。何の想像もせず非難しちゃってごめんなさい」

「いや、私こそいきなりすまなかったな。リリアと、なるべく人の世界を混乱させないようには努めよう」

「ありがとう。私にも精霊の事、教えてちょうだい」

二人で笑いあう。
こんなに穏やかな日々はリリアには初めてだった。
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