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村でも孤児院でもリリアはずっとこんな感じだった。

『クズ無加護!まだ終わってないのかい!そんな音をたてたら皆が起きちまうよ!』

『ごめんなさい!』

すぐ大声で怒鳴りつけては無理難題を言いつける院長のマチルダがリリアは怖かった。
皆が起きる前、早朝から孤児院の清掃、朝ごはんの準備、冬であれば暖炉に火を入れて。
勿論薪の準備もリリアの仕事だ。

皆が寝静まった夜は洗い物や繕い物や修繕、孤児院運営の雑務が待っている。
洗濯や、物量のある仕事は子供たちの仕事でもあるが、
一番キツい仕事はいつだってリリアに割り振られたし、意地の悪い孤児には裏で仕事を押し付けられた。

マチルダはそれを知っていて何も言わない。

それでも嫌いにはなれなかった。
普通の人には無加護は忌むべきものであるのに、マチルダはリリアを追い出さないでいてくれた。

ちょっとふくよかで、リリア以外の孤児には優しいお母さんみたいな人なのだ。

『すぐ終わらせますね』

『本当に無加護ってのはどんくさいね。早く出ていくか興行師にでも引き取られちまいな!』

リリアだって必要とされるならされたかった。

幼かったり、見目が良かったり、一芸のある子供はすぐ引き取り手がつく。
だがリリアは際立った美貌や技術があるわけでもなく、ちょっとした孤児院運営のいろはと人より家事が得意というだけの女の子である。

さらに『無加護』というのは致命的だった。

誰もが4つに分類される「精霊の加護」を受け、その証が身体のどこかへ色彩として現れる世界。
その世界でリリアはどの精霊の加護も持たずに生まれた。

『きっと何か理由があるに違いない』

『あの子は悪魔に違いない』

『前世で大罪人だったんだろう』

『今に本性を現すぞ、気を付けろ。』

『消えろ!忌まわしい無加護め!』

精霊に嫌われるほどの人間だ。
生まれてきたのが間違いであるのは当然であった。

間違いの存在でも生かしてくれる人々と世界にリリアは感謝していた。

昔は容赦のない罵倒や誹りに傷ついては泣いていたが、リリアは15歳だ。
15歳になると、次期院長を選ぶ以外はどんな孤児でも出ていかなければならない。

次期院長の枠は空いていたが、リリアは出ていくことにした。

感謝はしているが、自由が欲しくないのかと言われればやはり欲しい。
一人で生きていくのは大変だろうが、それはやってみないとどうなるかも分からない。

分からない事なら賭けてみよう。
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