68 / 83
準備
しおりを挟む
ステラを地下室に閉じ込めたあと、ブリジットは張り切って部屋に戻っていった。
(今までの人脈を全力で使って、グレアム家史上一番のパーティーを開いてみせるわ。そのためにまず、私が一番美しくなくっちゃね)
ドレスルームを歩き回り、鼻を鳴らす。
やはり既に着たものではだめだ。
盛大なパーティーには新しいドレスを作らないといけない。
ハウンドからステラへ贈られたドレス類はあらかた自分のものにしたのだが、ブリジットには似合わないものだった。
社交界の顔なじみにも『あなたが大人しくしてても面白いだけ』と笑われた。
それでもこのドレスが彼の好みなのだろう。
誰に笑われたところで関係なかった。
「私に着こなせないものはないわ。……仕立てたのは、マリオンね」
マリオン。
この国の女の子なら、いや国外の女の子の誰だって憧れている仕立屋だ。
しかし一代で王室御用達にまで上り詰めた天才モードのマリオンが作るドレスは、生半可には手に入れられない。
このドレスの価値も分からずただ可愛いからと着ていたステラがブリジットには憎かった。
「あんた、マリオンに手紙を出してちょうだい」
「は……マリオン、ですか?」
自室のカウチにどっかり座ったブリジットは侍女を見もせずに指示をだした。
しかし侍女はぐだぐだと突っ立っているばかりで、なかなか動こうとしない。
「なによ。ハウンド様好みのドレスで誘惑した方が、彼も嬉しいでしょ? はやくしなさい!」
「で、ですがお嬢様。マリオンのドレスは向こう五年待ちなのは有名なお話で……」
「それをどうにかしなさいよ。ハウンド様は最近王都に着てこんなに用立てたのよ? やりようがあるに決まっているじゃない」
「ではせめて指示を頂けませんか? 私の立場ではハウンド様がどのようにされたのか分からないのです」
ブリジットは押し黙った。
それが分かれば苦労はしない。
(ハウンド様経由で頼むのが一番簡単で確実だけれど……パーティーのことがバレたら警戒されるかも。あくまでサプライズで襲うんだもの)
さすがのブリジットも現段階でハウンドをどうにか出来るとは思っていなかった。
しかし自分のような美しい女にベッド上で迫られたら、男は拒否はできない。
ハウンドも例外ではないだろう。
(そういえばステラにサイズを合わせているのよね。採寸したってことは会ったことがあるはず)
ブリジットは己の計画ににやりと笑った。
「ステラの名前で手紙を出しなさい。グレアム家に歓迎するってね」
侍女は不安そうに眉を寄せたまま、ややあって頷いた。
「ああそう、招待状も出しておかないといけないんだったわ。あんた、リストは作っておいてあげるから招待状を書いて出しておきなさい」
「えっ、私がですか?」
侍女が驚くのも無理はなかった。
選び抜かれた紙に、きちんと教育を受けた美しい文字。
文章の中に挨拶や教養を込めて交流をする招待状の作成は貴族の大事な仕事だ。
「だって私忙しいんだもの。この肌に磨きをかけなくっちゃいけないんだから。あ、あと他の使用人も呼んできなさいよ。まったく、あいつら指示しないと動けないんだから困っちゃうわ」
侍女は不満がばれないよう小さくうなずいた後、すぐに部屋を出て使用人たちを呼んだ。
「あんたは花の手配ね。あんたは……あーめんどくさ。そうだ! あんた」
指を突き付けられたブリジット付きの侍女は私ですか? とこわごわ確認する。
「そうよ。あんたをリーダーにするからあんたが全部指示をだしなさい。ハウンド様を呼ぶパーティーだから手抜かりは許さないわ。私の好みは当然分かっているわよね?」
集められた5人ほどの使用人は顔を見合わせた。
グレアム家でパーティーを開いたことなど、ここ数年ない。
なにを用意すればいいのかなど、誰も知らないのだ。
なにしろブリジットも知らなかった。
知り合いが主催の大変さの愚痴をこぼすから花や料理など、ところどころ知っているだけだ。
参加した回数が多いだけで、手順や構成など全く考えていない。
「なにぼけっとしてるの? こういうのは早めに動いても時間が足りなくなるものなのよ。さっさと動きなさい!」
ブリジットはまた聞きかじった知識で使用人たちに指示を出す。
指示とはいえない、ぼんやりとした命令だった。
使用人たちは慌てて部屋を出て、使用人部屋に集まる。
「……」
「ねえ、どうする? ここ辞める? 給料も良くないし」
「えー……でもステラ様を殺すような家だし怖くない?」
「あれ怖すぎだって! まさか本当に殺すわけないわよね? だとしたらそれこそ、殺される前に辞めたいんだけど」
「なんにせよパーティーは成功させないとヤバそうだよね。あー……奥様ならまだ主催経験があるかも」
「通常業務に上乗せでなにも指示のないパーティーの準備って……最悪すぎる」
使用人たちはこれからのことを考えては項垂れてそれぞれの仕事へ向かっていった。
(今までの人脈を全力で使って、グレアム家史上一番のパーティーを開いてみせるわ。そのためにまず、私が一番美しくなくっちゃね)
ドレスルームを歩き回り、鼻を鳴らす。
やはり既に着たものではだめだ。
盛大なパーティーには新しいドレスを作らないといけない。
ハウンドからステラへ贈られたドレス類はあらかた自分のものにしたのだが、ブリジットには似合わないものだった。
社交界の顔なじみにも『あなたが大人しくしてても面白いだけ』と笑われた。
それでもこのドレスが彼の好みなのだろう。
誰に笑われたところで関係なかった。
「私に着こなせないものはないわ。……仕立てたのは、マリオンね」
マリオン。
この国の女の子なら、いや国外の女の子の誰だって憧れている仕立屋だ。
しかし一代で王室御用達にまで上り詰めた天才モードのマリオンが作るドレスは、生半可には手に入れられない。
このドレスの価値も分からずただ可愛いからと着ていたステラがブリジットには憎かった。
「あんた、マリオンに手紙を出してちょうだい」
「は……マリオン、ですか?」
自室のカウチにどっかり座ったブリジットは侍女を見もせずに指示をだした。
しかし侍女はぐだぐだと突っ立っているばかりで、なかなか動こうとしない。
「なによ。ハウンド様好みのドレスで誘惑した方が、彼も嬉しいでしょ? はやくしなさい!」
「で、ですがお嬢様。マリオンのドレスは向こう五年待ちなのは有名なお話で……」
「それをどうにかしなさいよ。ハウンド様は最近王都に着てこんなに用立てたのよ? やりようがあるに決まっているじゃない」
「ではせめて指示を頂けませんか? 私の立場ではハウンド様がどのようにされたのか分からないのです」
ブリジットは押し黙った。
それが分かれば苦労はしない。
(ハウンド様経由で頼むのが一番簡単で確実だけれど……パーティーのことがバレたら警戒されるかも。あくまでサプライズで襲うんだもの)
さすがのブリジットも現段階でハウンドをどうにか出来るとは思っていなかった。
しかし自分のような美しい女にベッド上で迫られたら、男は拒否はできない。
ハウンドも例外ではないだろう。
(そういえばステラにサイズを合わせているのよね。採寸したってことは会ったことがあるはず)
ブリジットは己の計画ににやりと笑った。
「ステラの名前で手紙を出しなさい。グレアム家に歓迎するってね」
侍女は不安そうに眉を寄せたまま、ややあって頷いた。
「ああそう、招待状も出しておかないといけないんだったわ。あんた、リストは作っておいてあげるから招待状を書いて出しておきなさい」
「えっ、私がですか?」
侍女が驚くのも無理はなかった。
選び抜かれた紙に、きちんと教育を受けた美しい文字。
文章の中に挨拶や教養を込めて交流をする招待状の作成は貴族の大事な仕事だ。
「だって私忙しいんだもの。この肌に磨きをかけなくっちゃいけないんだから。あ、あと他の使用人も呼んできなさいよ。まったく、あいつら指示しないと動けないんだから困っちゃうわ」
侍女は不満がばれないよう小さくうなずいた後、すぐに部屋を出て使用人たちを呼んだ。
「あんたは花の手配ね。あんたは……あーめんどくさ。そうだ! あんた」
指を突き付けられたブリジット付きの侍女は私ですか? とこわごわ確認する。
「そうよ。あんたをリーダーにするからあんたが全部指示をだしなさい。ハウンド様を呼ぶパーティーだから手抜かりは許さないわ。私の好みは当然分かっているわよね?」
集められた5人ほどの使用人は顔を見合わせた。
グレアム家でパーティーを開いたことなど、ここ数年ない。
なにを用意すればいいのかなど、誰も知らないのだ。
なにしろブリジットも知らなかった。
知り合いが主催の大変さの愚痴をこぼすから花や料理など、ところどころ知っているだけだ。
参加した回数が多いだけで、手順や構成など全く考えていない。
「なにぼけっとしてるの? こういうのは早めに動いても時間が足りなくなるものなのよ。さっさと動きなさい!」
ブリジットはまた聞きかじった知識で使用人たちに指示を出す。
指示とはいえない、ぼんやりとした命令だった。
使用人たちは慌てて部屋を出て、使用人部屋に集まる。
「……」
「ねえ、どうする? ここ辞める? 給料も良くないし」
「えー……でもステラ様を殺すような家だし怖くない?」
「あれ怖すぎだって! まさか本当に殺すわけないわよね? だとしたらそれこそ、殺される前に辞めたいんだけど」
「なんにせよパーティーは成功させないとヤバそうだよね。あー……奥様ならまだ主催経験があるかも」
「通常業務に上乗せでなにも指示のないパーティーの準備って……最悪すぎる」
使用人たちはこれからのことを考えては項垂れてそれぞれの仕事へ向かっていった。
143
あなたにおすすめの小説
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。
里海慧
恋愛
わたくしが愛してやまない婚約者ライオネル様は、どうやらわたくしを嫌っているようだ。
でもそんなクールなライオネル様も素敵ですわ——!!
超前向きすぎる伯爵令嬢ハーミリアには、ハイスペイケメンの婚約者ライオネルがいる。
しかしライオネルはいつもハーミリアにはそっけなく冷たい態度だった。
ところがある日、突然ハーミリアの歯が強烈に痛み口も聞けなくなってしまった。
いつもなら一方的に話しかけるのに、無言のまま過ごしていると婚約者の様子がおかしくなり——?
明るく楽しいラブコメ風です!
頭を空っぽにして、ゆるい感じで読んでいただけると嬉しいです★
※激甘注意 お砂糖吐きたい人だけ呼んでください。
※2022.12.13 女性向けHOTランキング1位になりました!!
みなさまの応援のおかげです。本当にありがとうございます(*´꒳`*)
※タイトル変更しました。
旧タイトル『歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件』
竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜
四葉美名
恋愛
「危険です! 突然現れたそんな女など処刑して下さい!」
ある日突然、そんな怒号が飛び交う異世界に迷い込んでしまった橘莉子(たちばなりこ)。
竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。
そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。
それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。
その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた!
『ママ! 早く僕を産んでよ!』
「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」
お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない!
それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――!
これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。
設定はゆるゆるです。他サイトでも重複投稿しています。
【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係
ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる