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舞踏会4
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手を重ね、腰に腕を回されて、力強いホールドを感じるとハウンドの男性らしさを意識させられた。
見ているだけだとその繊細な美貌から女性的な印象も受けるのだが、こうして近くにいると力強さを感じる。
逃げた手前気まずくて少しでも距離を取ろうとすると、それを上回る力で引き寄せられてしまう。
音が鳴る前の独特の緊張感と期待感が満ちる時間も、ステラにははじめてのことだった。
ヴァイオリンが柔らかな旋律を奏ではじめると、自然とステップを踏み出せていた。
床をすべるように進み、ワルツの拍子に合わせてくるりと回る。
少しのブレもない正確なリードだった。
彼の右足がしなやかに床を蹴り、左足を引き込むように進めると、ステラもその動きに引き込まれ、足が自然とついていく。
ハウンドのリードに合わせて軽やかにステップを踏み、優雅にターンをするとドレスの裾が花のように美しく広がった。
周囲から羨望のため息が聞こえる。
「お上手ですよ」
「あなたが上手いからよ」
ステラがダンスを練習したのはもう何年も前の子供のころのことだ。
こんなに見事に踊れているのはパートナーであるハウンドの力量がたしかなことの証左である。
「あのティアラを着けてきてくれたのですね。ドレスもよくお似合いですステラ様」
「あなたの贈ってくれたドレスが良いのよ。礼儀だからって無理して私まで褒めなくていいのよ」
ハウンドはなにがおかしいのかふっと笑う。
「実を言うと、今日はずっと無理をしていました。あなたを心のままに賞賛するとさっきみたいに逃げられてしまうかもしれないと思って。でも今なら逃げられませんよね」
え、と思う前に強く引き寄せられた。
もはや胸に抱きしめられているような距離である。
「今日のあなたは夏の太陽のようですね。あなたを目にするだけで体温が上がってしまうので、情けないところを見られないようなるべく視界にいれないようにしていたのですが……もったいないことをしました。この身を焼き尽くしてでもあなたのそばにいたい」
身体を密着させてそう囁かれると、ふいに心臓が高鳴って足がもつれそうになった。
しかしハウンドは強引に支えて何事もなかったかのように踊り続ける。
(なんだか恥ずかしいことを言われている気がする!)
しかし深く考える前に大きくターンをするからそちらに意識を持っていかれた。
「あなたの美しい首筋を他の人間も目にしたのかと思うと一人一人目を潰したくなります」
なにかを小声でつぶやいているが、喧騒の中では聞き取れない。
聞こうとすると逆に尋ねられた。
「そういえばネックレスはお嫌いなのですか?」
「嫌いというか……あんまり派手なのは似合わないから」
「そんなことはありませんが、あなた自身が最も美しい美術ですから宝飾品も必要ないかもしれませんね」
ハウンドの視線が肌をなぞるたび、ステラはぞくりと震えた。
マナーで仕方ないとはいえ、大きく開いた襟ぐりが急に恥ずかしくなる。
見ているだけだとその繊細な美貌から女性的な印象も受けるのだが、こうして近くにいると力強さを感じる。
逃げた手前気まずくて少しでも距離を取ろうとすると、それを上回る力で引き寄せられてしまう。
音が鳴る前の独特の緊張感と期待感が満ちる時間も、ステラにははじめてのことだった。
ヴァイオリンが柔らかな旋律を奏ではじめると、自然とステップを踏み出せていた。
床をすべるように進み、ワルツの拍子に合わせてくるりと回る。
少しのブレもない正確なリードだった。
彼の右足がしなやかに床を蹴り、左足を引き込むように進めると、ステラもその動きに引き込まれ、足が自然とついていく。
ハウンドのリードに合わせて軽やかにステップを踏み、優雅にターンをするとドレスの裾が花のように美しく広がった。
周囲から羨望のため息が聞こえる。
「お上手ですよ」
「あなたが上手いからよ」
ステラがダンスを練習したのはもう何年も前の子供のころのことだ。
こんなに見事に踊れているのはパートナーであるハウンドの力量がたしかなことの証左である。
「あのティアラを着けてきてくれたのですね。ドレスもよくお似合いですステラ様」
「あなたの贈ってくれたドレスが良いのよ。礼儀だからって無理して私まで褒めなくていいのよ」
ハウンドはなにがおかしいのかふっと笑う。
「実を言うと、今日はずっと無理をしていました。あなたを心のままに賞賛するとさっきみたいに逃げられてしまうかもしれないと思って。でも今なら逃げられませんよね」
え、と思う前に強く引き寄せられた。
もはや胸に抱きしめられているような距離である。
「今日のあなたは夏の太陽のようですね。あなたを目にするだけで体温が上がってしまうので、情けないところを見られないようなるべく視界にいれないようにしていたのですが……もったいないことをしました。この身を焼き尽くしてでもあなたのそばにいたい」
身体を密着させてそう囁かれると、ふいに心臓が高鳴って足がもつれそうになった。
しかしハウンドは強引に支えて何事もなかったかのように踊り続ける。
(なんだか恥ずかしいことを言われている気がする!)
しかし深く考える前に大きくターンをするからそちらに意識を持っていかれた。
「あなたの美しい首筋を他の人間も目にしたのかと思うと一人一人目を潰したくなります」
なにかを小声でつぶやいているが、喧騒の中では聞き取れない。
聞こうとすると逆に尋ねられた。
「そういえばネックレスはお嫌いなのですか?」
「嫌いというか……あんまり派手なのは似合わないから」
「そんなことはありませんが、あなた自身が最も美しい美術ですから宝飾品も必要ないかもしれませんね」
ハウンドの視線が肌をなぞるたび、ステラはぞくりと震えた。
マナーで仕方ないとはいえ、大きく開いた襟ぐりが急に恥ずかしくなる。
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