上 下
34 / 62

舞踏会4

しおりを挟む
 手を重ね、腰に腕を回されて、力強いホールドを感じるとハウンドの男性らしさを意識させられた。
 見ているだけだとその繊細な美貌から女性的な印象も受けるのだが、こうして近くにいると力強さを感じる。

 逃げた手前気まずくて少しでも距離を取ろうとすると、それを上回る力で引き寄せられてしまう。
 音が鳴る前の独特の緊張感と期待感が満ちる時間も、ステラにははじめてのことだった。

 ヴァイオリンが柔らかな旋律を奏ではじめると、自然とステップを踏み出せていた。
 床をすべるように進み、ワルツの拍子に合わせてくるりと回る。

 少しのブレもない正確なリードだった。
 彼の右足がしなやかに床を蹴り、左足を引き込むように進めると、ステラもその動きに引き込まれ、足が自然とついていく。

 ハウンドのリードに合わせて軽やかにステップを踏み、優雅にターンをするとドレスの裾が花のように美しく広がった。
 周囲から羨望のため息が聞こえる。

「お上手ですよ」

「あなたが上手いからよ」

 ステラがダンスを練習したのはもう何年も前の子供のころのことだ。
 こんなに見事に踊れているのはパートナーであるハウンドの力量がたしかなことの証左である。

「あのティアラを着けてきてくれたのですね。ドレスもよくお似合いですステラ様」

「あなたの贈ってくれたドレスが良いのよ。礼儀だからって無理して私まで褒めなくていいのよ」

 ハウンドはなにがおかしいのかふっと笑う。

「実を言うと、今日はずっと無理をしていました。あなたを心のままに賞賛するとさっきみたいに逃げられてしまうかもしれないと思って。でも今なら逃げられませんよね」

 え、と思う前に強く引き寄せられた。
 もはや胸に抱きしめられているような距離である。

「今日のあなたは夏の太陽のようですね。あなたを目にするだけで体温が上がってしまうので、情けないところを見られないようなるべく視界にいれないようにしていたのですが……もったいないことをしました。この身を焼き尽くしてでもあなたのそばにいたい」 

 身体を密着させてそう囁かれると、ふいに心臓が高鳴って足がもつれそうになった。
 しかしハウンドは強引に支えて何事もなかったかのように踊り続ける。

(なんだか恥ずかしいことを言われている気がする!)

 しかし深く考える前に大きくターンをするからそちらに意識を持っていかれた。

「あなたの美しい首筋を他の人間も目にしたのかと思うと一人一人目を潰したくなります」

 なにかを小声でつぶやいているが、喧騒の中では聞き取れない。
 聞こうとすると逆に尋ねられた。

「そういえばネックレスはお嫌いなのですか?」

「嫌いというか……あんまり派手なのは似合わないから」

「そんなことはありませんが、あなた自身が最も美しい美術ですから宝飾品も必要ないかもしれませんね」

 ハウンドの視線が肌をなぞるたび、ステラはぞくりと震えた。
 マナーで仕方ないとはいえ、大きく開いた襟ぐりが急に恥ずかしくなる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十三月の離宮に皇帝はお出ましにならない~自給自足したいだけの幻獣姫、その寵愛は予定外です~

氷雨そら
恋愛
幻獣を召喚する力を持つソリアは三国に囲まれた小国の王女。母が遠い異国の踊り子だったために、虐げられて王女でありながら自給自足、草を食んで暮らす生活をしていた。 しかし、帝国の侵略により国が滅びた日、目の前に現れた白い豹とソリアが呼び出した幻獣である白い猫に導かれ、意図せず帝国の皇帝を助けることに。 死罪を免れたソリアは、自由に生きることを許されたはずだった。 しかし、後見人として皇帝をその地位に就けた重臣がソリアを荒れ果てた十三月の離宮に入れてしまう。 「ここで、皇帝の寵愛を受けるのだ。そうすれば、誰もがうらやむ地位と幸せを手に入れられるだろう」 「わー! お庭が広くて最高の環境です! 野菜植え放題!」 「ん……? 連れてくる姫を間違えたか?」 元来の呑気でたくましい性格により、ソリアは荒れ果てた十三月の離宮で健気に生きていく。 そんなある日、閉鎖されたはずの離宮で暮らす姫に興味を引かれた皇帝が訪ねてくる。 「あの、むさ苦しい場所にようこそ?」 「むさ苦しいとは……。この離宮も、城の一部なのだが?」 これは、天然、お人好し、そしてたくましい、自己肯定感低めの姫が、皇帝の寵愛を得て帝国で予定外に成り上がってしまう物語。 小説家になろうにも投稿しています。 3月3日HOTランキング女性向け1位。 ご覧いただきありがとうございました。

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理
恋愛
 伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。 父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。  何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。  不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。  そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。  ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。 「あなたをずっと待っていました」 「……え?」 「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」  下僕。誰が、誰の。 「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」 「!?!?!?!?!?!?」  そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。  果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

処理中です...