16 / 67
家にて2
しおりを挟む
「デリック君が殴られた? だ、大丈夫だったのか」
ステラが自室へ上がった後、ブリジットは昨日あったことを両親に話していた。
「大丈夫じゃないわ。私がせっかくあの子をパーティーに招待してあげたのに、あの子ったら身支度も出来ずに浮いちゃって。それでデリックは仕方なく婚約解消をその場で発表したのよ。あの子、伯爵夫人に相応しくないでしょ?」
グレアム男爵家は元々伯爵家だった。
数十年前の天災で領土をほぼ失ってしまい、以前のような税収が期待できないうえまともな政策も打ち出せないため降格したのだ。
しかしグレアム家は伯爵に戻ることを諦めていない。
より良い家格の者と結婚し、領地が上がる税収をほぼ家の見栄えにつぎ込んでいる。
いずれ伯爵家に戻るその時のために、デリック・フィンリーとの結婚は絶対に成し遂げねばならなかった。
当初はステラとの結婚だったが、デリックは顔合わせの後からブリジットに惹かれていた。
ブリジットは昔から美しく、より条件のいい婚約者を探していたのだがここら辺でデリックに落ち着こう、ということになったのだ。
ブリジットがデリックを惹きつけ続けられるよう、全ての愛情はブリジットに向けられることになる。
「ステラには困ったものね。昔から気が強くて婚約者が決まらないし、年頃になればおしゃれの一つでもするかと思えば……」
「あれじゃあ我が家の不良債権だ。良縁が難しいなら富豪の年寄りの元へでも送って金にするしかない」
せめて今までの養育費分は取り戻さんとな、と父親は深いため息をつく。
そこではっと気が付いた。
「ま、まさかステラがデリック君を殴ったのか?」
「違うわよ。綺麗な殿方がやってきて、ステラを連れ出したのよ。それで、帰り際に殴ったの」
「そ、それはすぐに謝罪に向かわなければ……! 場合によってはステラを使用人に差し出して」
「まあ、それはだめよ。手紙くらいにしておかないと。デリックはあれを蒸し返されたくないんですって。我が家が謝罪に向かったら社交界でまた笑われてしまうわ。」
顔色が一気に青ざめる両親のことなど興味ないとばかりに、とブリジットは夢見る乙女の様にうっとりと胸の前で手を組む。
「あの方の美しいことといったら……! 濡れたような黒髪に薄赤色の瞳をしていたのよ。あんな美しい人は見たことないわ。本当、どなたなのかしら。でもステラも知らないみたいなのよね。まあ、知っていたらあんなダサい恰好し続けられないもの」
それは、昨日言い争っていた男のことだろうかと両親は顔を見合わせる。
話を聞くに、当日はその後まっすぐ帰ったようだし男とは面識もないらしい。
しかし貴族の子女としてはふしだらな娘を想われかねない。
そんな顔だけの男がステラに興味を持つとも思えないが、だからといって我が家に近づかれるのも困る。
特にブリジットの様子には今の時点でも嫌な予感がするのだ。
「今まで大人しくしていたのに、どうして面倒を持ち込むんだあの子は……」
ステラが自室へ上がった後、ブリジットは昨日あったことを両親に話していた。
「大丈夫じゃないわ。私がせっかくあの子をパーティーに招待してあげたのに、あの子ったら身支度も出来ずに浮いちゃって。それでデリックは仕方なく婚約解消をその場で発表したのよ。あの子、伯爵夫人に相応しくないでしょ?」
グレアム男爵家は元々伯爵家だった。
数十年前の天災で領土をほぼ失ってしまい、以前のような税収が期待できないうえまともな政策も打ち出せないため降格したのだ。
しかしグレアム家は伯爵に戻ることを諦めていない。
より良い家格の者と結婚し、領地が上がる税収をほぼ家の見栄えにつぎ込んでいる。
いずれ伯爵家に戻るその時のために、デリック・フィンリーとの結婚は絶対に成し遂げねばならなかった。
当初はステラとの結婚だったが、デリックは顔合わせの後からブリジットに惹かれていた。
ブリジットは昔から美しく、より条件のいい婚約者を探していたのだがここら辺でデリックに落ち着こう、ということになったのだ。
ブリジットがデリックを惹きつけ続けられるよう、全ての愛情はブリジットに向けられることになる。
「ステラには困ったものね。昔から気が強くて婚約者が決まらないし、年頃になればおしゃれの一つでもするかと思えば……」
「あれじゃあ我が家の不良債権だ。良縁が難しいなら富豪の年寄りの元へでも送って金にするしかない」
せめて今までの養育費分は取り戻さんとな、と父親は深いため息をつく。
そこではっと気が付いた。
「ま、まさかステラがデリック君を殴ったのか?」
「違うわよ。綺麗な殿方がやってきて、ステラを連れ出したのよ。それで、帰り際に殴ったの」
「そ、それはすぐに謝罪に向かわなければ……! 場合によってはステラを使用人に差し出して」
「まあ、それはだめよ。手紙くらいにしておかないと。デリックはあれを蒸し返されたくないんですって。我が家が謝罪に向かったら社交界でまた笑われてしまうわ。」
顔色が一気に青ざめる両親のことなど興味ないとばかりに、とブリジットは夢見る乙女の様にうっとりと胸の前で手を組む。
「あの方の美しいことといったら……! 濡れたような黒髪に薄赤色の瞳をしていたのよ。あんな美しい人は見たことないわ。本当、どなたなのかしら。でもステラも知らないみたいなのよね。まあ、知っていたらあんなダサい恰好し続けられないもの」
それは、昨日言い争っていた男のことだろうかと両親は顔を見合わせる。
話を聞くに、当日はその後まっすぐ帰ったようだし男とは面識もないらしい。
しかし貴族の子女としてはふしだらな娘を想われかねない。
そんな顔だけの男がステラに興味を持つとも思えないが、だからといって我が家に近づかれるのも困る。
特にブリジットの様子には今の時点でも嫌な予感がするのだ。
「今まで大人しくしていたのに、どうして面倒を持ち込むんだあの子は……」
187
お気に入りに追加
1,379
あなたにおすすめの小説
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~
しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。
とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。
「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」
だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。
追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は?
すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。
小説家になろう、他サイトでも掲載しています。
麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!
これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!
【第一章完結】半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)
夕立悠理
恋愛
伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。
父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。
何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。
不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。
そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。
ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。
「あなたをずっと待っていました」
「……え?」
「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」
下僕。誰が、誰の。
「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」
「!?!?!?!?!?!?」
そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。
果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる