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「最後に、これをご覧ください」
イヴェットは録画魔動機を神査官に渡す。
補助神査官にも集まってもらい、録画を再生する。
それはかつての殺害会議だった。
『だから船で言ったんだ! もっと計画をよく練ってからやろうって!』
『アンタも結局同意しただろう! 愛人とはやく一緒になりたいからって。しかも母親に殺人をさせるなんて本当に意気地のない子だよ』
『あの人がいなくなったら私はどうやって生きていけばいいのよお……。大金持ちになって帰ってくるって言っちゃったのにこれじゃ詐欺じゃない!』
『ね、ねえ私たちどうなっちゃうの? まさかつかまらないよねお母さん』
『少なくともあの小娘の証言だけじゃ足りないはずよ……』
「あんたが、なんで、それを……」
静まり返った会場に、絞り出すようなダーリーンの声だけが落ちた。
パウラはその場に座り込み、ヘクターとカペル夫人は死人よりも血の気がない。
「ヘクターには愛人の証拠もあります」
録画魔動機を操作し、かつて撮っていたヘクターの浮気現場を流した。
豊満な美女と人目もはばからず睦あっている様は当時も滑稽だったが、こうした場で見ると馬鹿らしさ感じる。
「我が家はしばらく今は亡き父と暮らしていた事もあり、私とヘクターに夫婦関係はありませんでした。それは彼らが金銭目当てで婚姻を企んだからです。よって、神に婚姻関係の解消を求めます」
例え夫の不貞であっても女性側からの離縁は難しい。
だが不貞に限らず殺人未遂もあるとなれば事情は変わってくる。
神査官は眼鏡を持ち上げ、さらさらとペンを走らせて警護官に渡す。
警護官は紙とサインを認めると会場の外へ向かった。
「婚姻関係の解消はこの場で認めましょう。とはいえあなたは元々オーダム家の人間ですから、ヘクター・オーダムが『ヘクター・バルテル』になりますね」
(や、やったわ!)
「そ、そんな一方的な……」
ヘクターの声が小さく聞こえたがイヴェットはそれどころではない。あまりにも嬉しくて踊りだしたいくらいだ。
離縁が先に受理された事で、ヘクターはバルテル姓になりオーダム家の不名誉ではなくなる。
人々がどう受け止めるのかまでは分からないが、時が過ぎればそういった「事実」が重要になったりもする。
ヘクターはオーダム家の人間であり夫である事を盾にて減刑を求めようとしたのだろうが、そんな隙は与えない。
神の認めた結婚は神によってのみ分かたれる。
彼はもう神の名のもとに正式に無関係な人間だ。
やがて神査官の声が告げる。
「神の裁きは下りました」
ダーリーン・バルテル 有罪 殺人未遂により労働後死刑
ヘクター・バルテル 有罪 殺人共謀、姦計の罪により労働後死刑
バーサ・カペル 有罪 殺人共謀 無期限労働従事
パウラ・バルテル 有罪 殺人共謀 無期限労働従事
罪状と刑が神査官から述べられるとイヴェットは安堵の余りよろめいてしまった。
(勝った……。勝ったのね)
ダーリーンは憑りつかれたように意味不明な事をわめいていた。
「このままじゃ済まさないから! 覚えておきなさい小娘、お前は絶対に殺す! あは、あははははは! 地獄でお前の血を飲むのを楽しみにしているわ!」
(なぜ地獄に付き合わなきゃいけないのかしら。あなたがなにを言っても今はもう怖くないわ)
いつの間にか握り締めていた手を開く。
その中には見えないが自由がある気がして、またそっと握り締めた。
半狂乱になって泣き叫び、慟哭する彼らを他人だと断ずることが出来る喜びは想像以上だった。
イヴェットは録画魔動機を神査官に渡す。
補助神査官にも集まってもらい、録画を再生する。
それはかつての殺害会議だった。
『だから船で言ったんだ! もっと計画をよく練ってからやろうって!』
『アンタも結局同意しただろう! 愛人とはやく一緒になりたいからって。しかも母親に殺人をさせるなんて本当に意気地のない子だよ』
『あの人がいなくなったら私はどうやって生きていけばいいのよお……。大金持ちになって帰ってくるって言っちゃったのにこれじゃ詐欺じゃない!』
『ね、ねえ私たちどうなっちゃうの? まさかつかまらないよねお母さん』
『少なくともあの小娘の証言だけじゃ足りないはずよ……』
「あんたが、なんで、それを……」
静まり返った会場に、絞り出すようなダーリーンの声だけが落ちた。
パウラはその場に座り込み、ヘクターとカペル夫人は死人よりも血の気がない。
「ヘクターには愛人の証拠もあります」
録画魔動機を操作し、かつて撮っていたヘクターの浮気現場を流した。
豊満な美女と人目もはばからず睦あっている様は当時も滑稽だったが、こうした場で見ると馬鹿らしさ感じる。
「我が家はしばらく今は亡き父と暮らしていた事もあり、私とヘクターに夫婦関係はありませんでした。それは彼らが金銭目当てで婚姻を企んだからです。よって、神に婚姻関係の解消を求めます」
例え夫の不貞であっても女性側からの離縁は難しい。
だが不貞に限らず殺人未遂もあるとなれば事情は変わってくる。
神査官は眼鏡を持ち上げ、さらさらとペンを走らせて警護官に渡す。
警護官は紙とサインを認めると会場の外へ向かった。
「婚姻関係の解消はこの場で認めましょう。とはいえあなたは元々オーダム家の人間ですから、ヘクター・オーダムが『ヘクター・バルテル』になりますね」
(や、やったわ!)
「そ、そんな一方的な……」
ヘクターの声が小さく聞こえたがイヴェットはそれどころではない。あまりにも嬉しくて踊りだしたいくらいだ。
離縁が先に受理された事で、ヘクターはバルテル姓になりオーダム家の不名誉ではなくなる。
人々がどう受け止めるのかまでは分からないが、時が過ぎればそういった「事実」が重要になったりもする。
ヘクターはオーダム家の人間であり夫である事を盾にて減刑を求めようとしたのだろうが、そんな隙は与えない。
神の認めた結婚は神によってのみ分かたれる。
彼はもう神の名のもとに正式に無関係な人間だ。
やがて神査官の声が告げる。
「神の裁きは下りました」
ダーリーン・バルテル 有罪 殺人未遂により労働後死刑
ヘクター・バルテル 有罪 殺人共謀、姦計の罪により労働後死刑
バーサ・カペル 有罪 殺人共謀 無期限労働従事
パウラ・バルテル 有罪 殺人共謀 無期限労働従事
罪状と刑が神査官から述べられるとイヴェットは安堵の余りよろめいてしまった。
(勝った……。勝ったのね)
ダーリーンは憑りつかれたように意味不明な事をわめいていた。
「このままじゃ済まさないから! 覚えておきなさい小娘、お前は絶対に殺す! あは、あははははは! 地獄でお前の血を飲むのを楽しみにしているわ!」
(なぜ地獄に付き合わなきゃいけないのかしら。あなたがなにを言っても今はもう怖くないわ)
いつの間にか握り締めていた手を開く。
その中には見えないが自由がある気がして、またそっと握り締めた。
半狂乱になって泣き叫び、慟哭する彼らを他人だと断ずることが出来る喜びは想像以上だった。
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