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裁判開始
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まずはアンカーソンが訴えのあらましを述べた。
これに関しては「悲劇の令嬢」にまつわる感情的な部分は当然ない。
しかし内容は殺人計画。
そして未遂に終わったものの相当危険であった事が事実として並べられると人々は一層イヴェットに同情を寄せた。
「でたらめに決まっているわ! 証拠だって無いじゃない」
「今はあなたの陳述を述べる時間ではありません。邪魔をするようであれば沈黙を命じますよ」
ダーリーンが何を言っても神査官は動じない。
初老に差し掛かっている神査官はこんなことはよくあるのだろう。
「急がずとも証拠であれば今から提示しますよ」
「それは楽しみね」
アンカーソンは困ったように優しく話しかける。
穏やかな態度にダーリーンは小者だと判断したらしい。明らかに見下していた。
「まずは魔動馬車の貸し出し契約です。これはダーリーン・バルテルが求めたもので、イヴェット・オーダムが方々掛け合って借りたものです。そうですよね?」
「それがなによ」
「そして魔動馬車は専属御者がついています。まずは彼の証言を求めます」
「良いでしょう。入場させてください」
御者が何を語るのだろう。ダーリーン達は訝しんでいたがすぐに顔色が変わった。
「ああ、覚えていますよ。馬車に乗ってすぐ馬車の二階に上がって、鍵を閉めていたんですよ。嫌がらせだと思うんですが。それで雨が降ってきてそこのお嬢さんのせいだと騒いでいたものですから」
「そうですか。日時と行先は間違いありませんか?」
「間違いありません。その日に、ピスカートルへ向かいました。着いてからは別の仕事でその場にはいませんでしたが、帰りにはお嬢さんだけでした」
「イヴェット・オーダムだけですか? それはなぜでしょう」
神査官が眼鏡を直しながら訪ねても御者には分かるはずもない。
アンカーソンが口を挟んだ。
「それについては後ほど証拠を提出致します」
御者はぺこりとお辞儀ををして帰っていった。
入れ替わるようにピラート島の船員たちが呼ばれ、証言を求められる。
「はい、確かにその方々をピラート島にお連れしました。魔獣の話と柵の外にはいかないようにという事もお伝えしてます。ですが観光地の目玉である遺跡に入った時、我々の目を盗んで森の中へ進まれたようです」
「いなくなっていたんですね? 誰がいなくなったかは分かりますか」
「はい。そこのお嬢さんと、体格のいい男の人、そしてそこの女性です」
グスタフとダーリーンのことだ。
「森は見通しが悪く、どこにいったのかまでは……。あっ、もちろん周囲の捜索はしていました」
「なるほど。ありがとうございます」
そして船員と入れ替わるように今度はフランシスが現れた。
「アークリエ騎士団所属。騎士団長フランシス・コルボーンです」
ペンの音が大きくなる。悲劇の令嬢と噂の騎士団長だ。
爽やかな容姿と真っすぐな姿勢。
普段は人好きのする雰囲気が今は真面目で精悍な騎士団長の表情だ。
傍聴席からほう、と熱っぽいため息がもれるのが聞こえる。
反対にダーリーンは顔を青くしていた。ぶるぶると震えて手を握り締めている。
「あなたはピラート島の魔獣を討伐したそうですね」
「はい。討伐対象は魔獣ナックラヴィー。現在は討伐完了しております」
「そこでイヴェット・オーダムを助けた? どういう状況だったかご説明頂けますか」
フランシスは頷く。
これに関しては「悲劇の令嬢」にまつわる感情的な部分は当然ない。
しかし内容は殺人計画。
そして未遂に終わったものの相当危険であった事が事実として並べられると人々は一層イヴェットに同情を寄せた。
「でたらめに決まっているわ! 証拠だって無いじゃない」
「今はあなたの陳述を述べる時間ではありません。邪魔をするようであれば沈黙を命じますよ」
ダーリーンが何を言っても神査官は動じない。
初老に差し掛かっている神査官はこんなことはよくあるのだろう。
「急がずとも証拠であれば今から提示しますよ」
「それは楽しみね」
アンカーソンは困ったように優しく話しかける。
穏やかな態度にダーリーンは小者だと判断したらしい。明らかに見下していた。
「まずは魔動馬車の貸し出し契約です。これはダーリーン・バルテルが求めたもので、イヴェット・オーダムが方々掛け合って借りたものです。そうですよね?」
「それがなによ」
「そして魔動馬車は専属御者がついています。まずは彼の証言を求めます」
「良いでしょう。入場させてください」
御者が何を語るのだろう。ダーリーン達は訝しんでいたがすぐに顔色が変わった。
「ああ、覚えていますよ。馬車に乗ってすぐ馬車の二階に上がって、鍵を閉めていたんですよ。嫌がらせだと思うんですが。それで雨が降ってきてそこのお嬢さんのせいだと騒いでいたものですから」
「そうですか。日時と行先は間違いありませんか?」
「間違いありません。その日に、ピスカートルへ向かいました。着いてからは別の仕事でその場にはいませんでしたが、帰りにはお嬢さんだけでした」
「イヴェット・オーダムだけですか? それはなぜでしょう」
神査官が眼鏡を直しながら訪ねても御者には分かるはずもない。
アンカーソンが口を挟んだ。
「それについては後ほど証拠を提出致します」
御者はぺこりとお辞儀ををして帰っていった。
入れ替わるようにピラート島の船員たちが呼ばれ、証言を求められる。
「はい、確かにその方々をピラート島にお連れしました。魔獣の話と柵の外にはいかないようにという事もお伝えしてます。ですが観光地の目玉である遺跡に入った時、我々の目を盗んで森の中へ進まれたようです」
「いなくなっていたんですね? 誰がいなくなったかは分かりますか」
「はい。そこのお嬢さんと、体格のいい男の人、そしてそこの女性です」
グスタフとダーリーンのことだ。
「森は見通しが悪く、どこにいったのかまでは……。あっ、もちろん周囲の捜索はしていました」
「なるほど。ありがとうございます」
そして船員と入れ替わるように今度はフランシスが現れた。
「アークリエ騎士団所属。騎士団長フランシス・コルボーンです」
ペンの音が大きくなる。悲劇の令嬢と噂の騎士団長だ。
爽やかな容姿と真っすぐな姿勢。
普段は人好きのする雰囲気が今は真面目で精悍な騎士団長の表情だ。
傍聴席からほう、と熱っぽいため息がもれるのが聞こえる。
反対にダーリーンは顔を青くしていた。ぶるぶると震えて手を握り締めている。
「あなたはピラート島の魔獣を討伐したそうですね」
「はい。討伐対象は魔獣ナックラヴィー。現在は討伐完了しております」
「そこでイヴェット・オーダムを助けた? どういう状況だったかご説明頂けますか」
フランシスは頷く。
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