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乙女たちの恋バナ

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 貴婦人たちを見ると既にカップの半分ほどはなくなっている。
 今持てる分はほとんど持ってきたので厨房の鍋にはまだあるだろう。

「これはピスカートルで仕入れました」

 イヴェットが正直に告げると貴婦人たちは目を輝かせて「ピスカートル!」と口にした。

「ピスカートルといば、あなたが口にするのも恐ろしい思いをしたところを騎士に助けられたという、あの?」

「たしかに港町ですものね。納得ですわ。ですがピスカートルで流行している話は入ってきていませんわね」

「ええ、現地では薬として服用していたようなのです。私も知らなかったのですがフラン……騎士団長様が病室に差し入れてくださって」

 そこできゃあきゃあと黄色い声が上がる。

「今フランシスって言いかけたわよね! これって二人の思い出の飲み物なのかしらっ!」

「思い出といえばそうかもしれません。ただ、現地で飲んだのは砂糖が入っていないものでした」

「あら、それは苦みが強そうね。では商機をつかんだのはイヴェットさん自身の力ね」

「そんな……」

 王妃にやさしく微笑まれると嬉しさに居たたまれなくなる。
 しかしどこか母親を思い出すのだ。

「ピスカートルへはご家族で向かわれたのでしょう……? 商会員の方がいらっしゃらないところですぐさま契約を取り付けた手腕は本物ですわ……」

 口々に褒められる。
 慣れていないイヴェットはどうしても落ち着かない。

「ところでその後フランシスとはどうなのかしら」

 おっとりと言われたので何を指しているのか分からなかった。

「恋仲はどこまで進展しているのか気になりますわ~」

「こ、恋仲!?」

 寝耳に水だった。
 いつのまにそんなことになっていたのだろう。

「進展もなにも、そもそも恋仲ではありません。私はまだ結婚している身ですし」

「でも前にフランシスに尋ねたら否定しませんでしたわ」

「それは噂を広めるお手伝いをして頂いているからだと思います!」

「ではあなたはフランシスのことをどう思っているのかしら」

 逃がしてくれるわけではないらしい。
 おっとりとしているが権謀術数うずまく王宮の中心にいる人々だ。
 嘘はすぐに見破られ、二度とサロンに呼ばれないだろう。
 そういった圧をかけてまで聞き出したいらしい。

「フランシス様は……素敵な方だと思います。女性から人気があるとも聞きました。私も楽しくお話できますし、助けて頂いた恩もあります。私にはもったいないお方です」

 嘘ではない。ただ、イヴェットは言葉にならない引っかかりを感じていた。

「大変お優しい方ですが、それは私が被害者だからでしょう」

 それを言葉にしたときズキ、と胸が痛んだ。
 当然のことなのに、なぜか喉のあたりがきゅうとする。

(誰にでも優しいから大変な思いもしていると、本人も仰っていたわ)
 
 だから多分、この痛みの原因には気づいてはいけないのだろう。
 恩義あるフランシスの迷惑にだけはなりたくない。

「……そうですね。フランシスの騎士団長としての評価は当然知っています。やや粗暴なイメージのあった騎士団の規律を高めたのは彼の働きあってのことです」

 元々能力が高く団長に取り立てたのだが、本人の人柄によって民衆からの支持が上がり、また騎士団全体の空気が引き締まったという。

「まだお若いのに素晴らしいです」

「本当に。王家は良い人材を得ました。だからこそ、小さい頃から見守っていたフランシスには幸せになってほしいの」

 王妃は穏やかにほほ笑む。

「もちろん、あなたにもですよ。今まで大変な思いをされたのだから、うんと素敵な気持ちにならないと釣り合わないもの」
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