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乙女たちのホット・チョコレート
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「これは私の商会で取り扱う予定の『ホット・チョコレート』です」
苦みのつよいものではなく、甘く仕上げた特製のホット・チョコレートだ。
元々貴族社会に流行らせようと思っていたのだ。
王妃やそのサロンに集う貴婦人たちは、これ以上ない相手だった。
「なんてかぐわしい香りかしら……」
「いままでかいだことがありませんわ」
「どうぞ、熱さに気を付けて召し上がってください」
イヴェットがすすめると貴婦人たちは頬を上気させながら目配せし、こくりと口を付けた。
「あら……!」
貴婦人たちがカップの中のホット・チョコレートを見つめる。
「なんておいしいのかしら。濃厚な香りが身体全体に広がるよう。まろやかで、甘いけれど苦みもあって。お花や果実のような香りと酸味も少しあるのね」
王妃はそう言うとまた一口飲む。
「本当ねえ。とろけてしまいそうですわね……」
「もっと飲みたいけど飲んだら無くなるのが悲しいわ」
「次のお茶会にこのホット・チョコレートを振舞いたいわ~。ねえ、イヴェットさんどうかしら」
願ってもないことだった。
それが狙いだったのだから。
あまりにも都合がよすぎて社交辞令を考えたが、貴婦人たちの表情は嘘には見えない。
イヴェットも数々の商談の場を渡ってきたのだ。そこの見極めを間違えるとは思いたくない。
「もちろんですわ。商会にご注文頂ければすぐに持ってまいります」
ぐっと前のめりに案内すれば貴婦人たちはかつてのメイナード達のようにきょとんとし、そして笑った。
(え、え? なぜ……?)
「ふふ。普通のご令嬢は私たちが気に入ったものがあればすぐに渡そうとしてくるのよ。いつも断るのが大変だったけれどあなたは話が早くて助かります」
「だいたいは善意からだから心苦しいのよね~。でも個人で頂くわけにはいかないのよ」
「絶対社交界で言いふらしますからね……。王家に受け入れられた、とかなんとか……」
「はあ……」
話が見えないイヴェットは思わず気の抜けた返事をしてしまう。
「さきほどのように初めから売買であればいいのですよ。公正な取引でほしいものを買わせていただくだけですもの」
心底うんざりした様子を見るに、嘘ではないらしい。
今まで贈答品で色々とあったようだ。
(なるほど、王家の方々もなにかと大変なのね。たしかにメイナード王子もそんなことを仰っていたわ)
「ああ、ですがお店を出すご予定があって望むのなら王室御用達にいたしますわ。こんな素敵なホット・チョコレートと出会わせてくださったのですもの」
「それいいわね! お母さま」
イヴェットはハッとした。
(たしかにホット・チョコレートを流通させる事だけ考えていたけれど、最初からコーヒーハウスのような形で提供できれば一気にブームを作れるかもしれないわ!)
さらに王室御用達も与えてくれるというのであればこれ以上ないだろう。
「ありがとうございます。では王室には優先的に下ろさせて頂きますね」
あくまで優先というだけで、売買には変わりがない。
ただイヴェットとしても王室に下ろせるのは商会の格が上がるのでありがたい事だった。
「それすっごく嬉しいわ! こんなに美味しいのですもの、すぐ人気になって在庫がなくなってしまいそう」
「そういえばこのホット・チョコレートはどこで仕入れたのかしら……」
苦みのつよいものではなく、甘く仕上げた特製のホット・チョコレートだ。
元々貴族社会に流行らせようと思っていたのだ。
王妃やそのサロンに集う貴婦人たちは、これ以上ない相手だった。
「なんてかぐわしい香りかしら……」
「いままでかいだことがありませんわ」
「どうぞ、熱さに気を付けて召し上がってください」
イヴェットがすすめると貴婦人たちは頬を上気させながら目配せし、こくりと口を付けた。
「あら……!」
貴婦人たちがカップの中のホット・チョコレートを見つめる。
「なんておいしいのかしら。濃厚な香りが身体全体に広がるよう。まろやかで、甘いけれど苦みもあって。お花や果実のような香りと酸味も少しあるのね」
王妃はそう言うとまた一口飲む。
「本当ねえ。とろけてしまいそうですわね……」
「もっと飲みたいけど飲んだら無くなるのが悲しいわ」
「次のお茶会にこのホット・チョコレートを振舞いたいわ~。ねえ、イヴェットさんどうかしら」
願ってもないことだった。
それが狙いだったのだから。
あまりにも都合がよすぎて社交辞令を考えたが、貴婦人たちの表情は嘘には見えない。
イヴェットも数々の商談の場を渡ってきたのだ。そこの見極めを間違えるとは思いたくない。
「もちろんですわ。商会にご注文頂ければすぐに持ってまいります」
ぐっと前のめりに案内すれば貴婦人たちはかつてのメイナード達のようにきょとんとし、そして笑った。
(え、え? なぜ……?)
「ふふ。普通のご令嬢は私たちが気に入ったものがあればすぐに渡そうとしてくるのよ。いつも断るのが大変だったけれどあなたは話が早くて助かります」
「だいたいは善意からだから心苦しいのよね~。でも個人で頂くわけにはいかないのよ」
「絶対社交界で言いふらしますからね……。王家に受け入れられた、とかなんとか……」
「はあ……」
話が見えないイヴェットは思わず気の抜けた返事をしてしまう。
「さきほどのように初めから売買であればいいのですよ。公正な取引でほしいものを買わせていただくだけですもの」
心底うんざりした様子を見るに、嘘ではないらしい。
今まで贈答品で色々とあったようだ。
(なるほど、王家の方々もなにかと大変なのね。たしかにメイナード王子もそんなことを仰っていたわ)
「ああ、ですがお店を出すご予定があって望むのなら王室御用達にいたしますわ。こんな素敵なホット・チョコレートと出会わせてくださったのですもの」
「それいいわね! お母さま」
イヴェットはハッとした。
(たしかにホット・チョコレートを流通させる事だけ考えていたけれど、最初からコーヒーハウスのような形で提供できれば一気にブームを作れるかもしれないわ!)
さらに王室御用達も与えてくれるというのであればこれ以上ないだろう。
「ありがとうございます。では王室には優先的に下ろさせて頂きますね」
あくまで優先というだけで、売買には変わりがない。
ただイヴェットとしても王室に下ろせるのは商会の格が上がるのでありがたい事だった。
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