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ピラート島

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 横向きに接岸し、ポートから降りる。
 ぱっと見何もない島だがそれなり大きく、伸びた砂浜から少し歩くとすぐに鬱蒼とした林になるような場所だった。
 観光地向けにロープが張られており、歩くルートだけは足元がある程度石が埋められて整えられているようである。

(砂浜ってこんな感じなのね……)

 湿った砂だけの大地だ。
 踏みしめると若干沈み、寄せては返す波がその足跡を消している。
 ガイドに着いて歩くイヴェットやトレイシーとは別にダーリーン達はおっかなびっくり歩いているのでかなり遅れていた。
 
 林の入り口で一旦止まり、そこで全員が揃うのを待つ。
 ヘクターとグスタフは酔いが残り、ダーリーン達は旅行向けの服装ではないので傍から見ていて大変そうだった。

「全員お集まりいただきましたね。このピラート島はかつてこの辺りを根城にしていた海賊の宗教跡地です。おっとご心配なく。もちろん今は海賊はいませんよ。えーっと、そうだ、百年位前にいなくなりました」

 何度も繰り返した話なのかガイド冗談を交えつつ話を進めていく。

「海賊たちは独自の信仰を行っていました。略奪行為と異教信仰はここピスカートルの人々を恐怖に陥れました……。しかし! 港として発展していく内に国と現地住民が手を取り海賊を追い出したのです。海賊たちは船でいずこへと逃げたようですが、ここの建築物はそのまま残りました。その見事な意匠と二度と海を荒らさせないという決意の元、ここを観光地として残すことにしたのです」

 身振り手振りを交えてガイドは説明していく。
 林道沿いには確かに見慣れない船や魚の石像があり、ここに人がいた事を感じさせた。

「ねえ、林って言ったってぐるっと回れる距離でしょ? なんでこんなに厳重に柵がしてあるのよ」

 それはパウラからの疑問だった。島の裏側は岸壁らしいが、確かにここには落ちるような場所はなく少々過剰にも思える。
 うーん、と悩むように頭をかいてガイドは口を開いた。

「魔物が出るんですよ」

「ま、魔物!? なんでそんな所に連れてきたのよ! 信じられない!」

 何か言いかけたガイドを遮ってダーリーン達はすぐさま騒ぎ立てた。グスタフに影響されたのか、素晴らしい反射速度である。

 しかし魔物は人を襲う生物だ。恐怖に襲われるのも仕方がないだろう。

「まあまあ。この石像があったりする所辺は安全なんですよ。ただ林の奥の方に進むと急に現れるんで間違ってもそっちに行かないようにって事ですね。まあ、魔物が海賊の財宝を守ってるなんて言い伝えもありますが。俺たち現地の人間はよくこの島に入ってますがここら辺で襲われた事は一度もないので大丈夫ですよ」
 
ヘクターやパウラはそう言われても納得はできないらしく、今すぐ帰りたそうにしていた。
 ただグスタフとダーリーンはなぜかガイドの話に前のめりになっている。

「海賊の財宝? そんなのがあるの?」

「言い伝えですよ。船に財宝の全てを詰め込んだら沈むっていうんで、泣く泣くこの島のどこかに埋めたらしいっていうやつです。いつか財宝を取り返しに来た海賊が、悪い子も一緒に攫っちまうから皆いい子にするんだぞってこの辺はそう言い聞かされて育ってますよ。でもここら辺は整地してありますから、財宝があるとしたらもっと奥なんじゃないですかね」

「ふうん、なるほどね……」

「ただの伝説なんで探しに行かないでくださいよ」

 ガイドの念押しはダーリーン達の耳に届いているのだろうか。

(不安だわ)

 魔物に怯えていたのに財宝の事を聞くとすぐに手のひらを返した。
 王都に住んでいれば魔物などまず出会う事はない。
 
 いるにはいるのだが辺境の地であっても討伐は進んでいるらしく、今やどこにいっても昔話扱いだ。
 ダーリーンにとっては財宝の方がよほど身近な存在だろう。

(まさか、飛び出したりしないわよね)

 ひそひそと何かを話しながら歩いてるダーリーンとグスタフを後ろに感じながらイヴェットは何事も起こらないよう祈るのだった。
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