19 / 89
襲来
しおりを挟む
「まさか会長がそんな雑務をしているとは」
「おかげでオーダム商会の優秀さが改めてよく分かったわ」
イヴェットは会長として大きな金額を動かすのに慣れても、実践的な催促の文面や小旅行の資金繰りなどに対して感覚が育っていなかった。
なので返事が来ない問題や旅行の細々した事に関しては商会員にアドバイスを貰ったのである。
「本当に助かったのよ」
「会長の、その分からない所を素直に尋ねられたり相談される所を私たちは信用していますからね」
たしかに、とその場の会員が朗らかに笑う。
「ですが会長、最近お疲れのようですから休める時は休んでくださいね」
「ありがとう」
休みなら今度長期で取ってしまっているのだ。
今回の旅行で休めるとは思っていないが、海を見て気分転換くらいはできるだろうか。
(疲れてるように見えるかしら)
そういえば白粉の量が増えた気がする。
ずっと商談で舐められないようにキツめの化粧と暗い色のドレスを着ていた。
仕事がない時は疲れてオシャレなど考える暇もなかった。
(せめてピスカートルにいる間は好きな恰好をしようかしら)
旅行なので何でもかんでも持っていくというわけにはいかないが、現地で良い出会いがあるかもしれない。
流行を作り発信することが多いのは王都ではある。
けれどその王都の貴族たちにこれから流行るだろう商品を売りこむのは商人でありそれを支えるのが輸送隊なのだ。
あっという間に旅行前日になった。
最後まで不安だったカペル夫妻は、一応旅行を楽しみにはしてくれていたのかたっぷりの荷物をもって前日にオーダム家にやってきた。
夫の方、グスタフはがっしりした体格を持ち、神経質そうに目をぎょろつかせている人だった。
やや白さも混じる髪を後ろになでつけているが、袖口や靴に気が回っていないのか態度と裏腹に汚れも目立つ。
カペル夫人も神経質そうな人だった。
痩せているため、骨ばった印象が強く残る。
常に眉を寄せ警戒するように周囲を見渡す様子は小動物のように見えなくもない。
少なくともイヴェットに良い感情はなさそうだった。
「よくいらっしゃいました。イヴェットと申します。お会いできて嬉しいですわ」
「ふん、この家では女がでしゃばるのか? ダーリーン、ヘクター。お前たちの教育がなっていないぞ」
出来るだけ愛想よく挨拶をしたのだがにべもない返事だった。
言うまでもなく今回の旅行は全てオーダム家持ち、もっというならイヴェットの私費である。
あまりにもダーリーンの兄らしい態度に、聖人でもなんでもないイヴェットは普通に腹も立つ。
(だったら来なくても良いんですけど)
「まあ伯父さん、せっかくの旅行なんですから。至らない所があればお手数ですが教育をお願いします」
争いごとが嫌いなヘクターが仲介しているつもりなのか、間に入る。
教育というのはイヴェットに対してだろう。
淑女らしくしろと文句を言っている。
それに対してヘクターが責任逃れをしつつイヴェットにすべてをなすりつけたのだ。
イヴェットはこの挨拶だけで先が思いやられる心地で頭を押さえた。
「なあにこの埃臭い屋敷!」
「おかげでオーダム商会の優秀さが改めてよく分かったわ」
イヴェットは会長として大きな金額を動かすのに慣れても、実践的な催促の文面や小旅行の資金繰りなどに対して感覚が育っていなかった。
なので返事が来ない問題や旅行の細々した事に関しては商会員にアドバイスを貰ったのである。
「本当に助かったのよ」
「会長の、その分からない所を素直に尋ねられたり相談される所を私たちは信用していますからね」
たしかに、とその場の会員が朗らかに笑う。
「ですが会長、最近お疲れのようですから休める時は休んでくださいね」
「ありがとう」
休みなら今度長期で取ってしまっているのだ。
今回の旅行で休めるとは思っていないが、海を見て気分転換くらいはできるだろうか。
(疲れてるように見えるかしら)
そういえば白粉の量が増えた気がする。
ずっと商談で舐められないようにキツめの化粧と暗い色のドレスを着ていた。
仕事がない時は疲れてオシャレなど考える暇もなかった。
(せめてピスカートルにいる間は好きな恰好をしようかしら)
旅行なので何でもかんでも持っていくというわけにはいかないが、現地で良い出会いがあるかもしれない。
流行を作り発信することが多いのは王都ではある。
けれどその王都の貴族たちにこれから流行るだろう商品を売りこむのは商人でありそれを支えるのが輸送隊なのだ。
あっという間に旅行前日になった。
最後まで不安だったカペル夫妻は、一応旅行を楽しみにはしてくれていたのかたっぷりの荷物をもって前日にオーダム家にやってきた。
夫の方、グスタフはがっしりした体格を持ち、神経質そうに目をぎょろつかせている人だった。
やや白さも混じる髪を後ろになでつけているが、袖口や靴に気が回っていないのか態度と裏腹に汚れも目立つ。
カペル夫人も神経質そうな人だった。
痩せているため、骨ばった印象が強く残る。
常に眉を寄せ警戒するように周囲を見渡す様子は小動物のように見えなくもない。
少なくともイヴェットに良い感情はなさそうだった。
「よくいらっしゃいました。イヴェットと申します。お会いできて嬉しいですわ」
「ふん、この家では女がでしゃばるのか? ダーリーン、ヘクター。お前たちの教育がなっていないぞ」
出来るだけ愛想よく挨拶をしたのだがにべもない返事だった。
言うまでもなく今回の旅行は全てオーダム家持ち、もっというならイヴェットの私費である。
あまりにもダーリーンの兄らしい態度に、聖人でもなんでもないイヴェットは普通に腹も立つ。
(だったら来なくても良いんですけど)
「まあ伯父さん、せっかくの旅行なんですから。至らない所があればお手数ですが教育をお願いします」
争いごとが嫌いなヘクターが仲介しているつもりなのか、間に入る。
教育というのはイヴェットに対してだろう。
淑女らしくしろと文句を言っている。
それに対してヘクターが責任逃れをしつつイヴェットにすべてをなすりつけたのだ。
イヴェットはこの挨拶だけで先が思いやられる心地で頭を押さえた。
「なあにこの埃臭い屋敷!」
0
お気に入りに追加
1,095
あなたにおすすめの小説
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜
悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜
嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。
陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。
無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。
夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。
怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……
生産性厨が異世界で国造り~授けられた能力は手から何でも出せる能力でした~
天樹 一翔
ファンタジー
対向車線からトラックが飛び出してきた。
特に恐怖を感じることも無く、死んだなと。
想像したものを具現化できたら、もっと生産性があがるのにな。あと、女の子でも作って童貞捨てたい。いや。それは流石に生の女の子がいいか。我ながら少しサイコ臭して怖いこと言ったな――。
手から何でも出せるスキルで国を造ったり、無双したりなどの、異世界転生のありがちファンタジー作品です。
王国? 人外の軍勢? 魔王? なんでも来いよ! 力でねじ伏せてやるっ!
感想やお気に入り、しおり等々頂けると幸甚です!
モチベーション上がりますので是非よろしくお願い致します♪
また、本作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨムで公開している作品となります。
小説家になろうの閲覧数は170万。
エブリスタの閲覧数は240万。また、毎日トレンドランキング、ファンタジーランキング30位以内に入っております!
カクヨムの閲覧数は45万。
日頃から読んでくださる方に感謝です!
あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。
※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。
元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。
破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。
だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。
初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――?
「私は彼女の代わりなの――? それとも――」
昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。
※全13話(1話を2〜4分割して投稿)
俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。
のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。
俺は先輩に恋人を寝取られた。
ラブラブな二人。
小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。
そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。
前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。
前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。
その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。
春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。
俺は彼女のことが好きになる。
しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。
つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。
今世ではこのようなことは繰り返したくない。
今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。
既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。
しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。
俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。
一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。
その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。
俺の新しい人生が始まろうとしている。
この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。
「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。
やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていた上、ボディビルダー王子に求愛されています!?
花房ジュリー②
ファンタジー
※2024年8月改稿済み。
貧乏子爵令嬢のビアンカは、社交界デビューするも縁に恵まれず、唯一見初めてくれたテオと結婚する。
ところがこの結婚、とんだ外れくじ! ビアンカは横暴なテオに苦しめられた挙げ句、殴られて転倒してしまう。
死んだ……と思いきや、時は社交界デビュー前に巻き戻っていた。
『もう婚活はうんざり! やり直しの人生では、仕事に生きるわ!』
そう決意したビアンカは、騎士団寮の料理番として就職する。
だがそこは、金欠ゆえにろくに栄養も摂れていない騎士たちの集まりだった。
『これでは、いざと言う時に戦えないじゃない!』
一念発起したビアンカは、安い食費をやりくりして、騎士たちの肉体改造に挑む。
結果、騎士たちは見違えるようなマッチョに成長。
その噂を聞いた、ボディメイクが趣味の第二王子・ステファノは、ビアンカに興味を抱く。
一方、とある理由から王室嫌いな騎士団長・アントニオは、ステファノに対抗する気満々。
さらにはなぜか、元夫テオまで参戦し、ビアンカの周囲は三つ巴のバトル状態に!?
※小説家になろう様にも掲載中。
※2022/9/7 女性向けHOTランキング2位! ありがとうございます♪
迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?
ふゆ
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。
衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得!
だけど……?
※過去作の改稿・完全版です。
内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。
【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる