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終章 セカイに光あれ
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「リオンの魂はここにいるのか?」
それは疑問と言うよりは、希望に近かった。
「この娘このこと? そうならばイエスよ。彼女はここに運ばれて、私の器――新しい肉体となったの」
「運ばれた? 誰に?」
「もちろん鱗たちよ」
新たな器を調達してくるのも、鱗たちの仕事だもの。
黄色い目をした人間は、竜で眠った魂たちのあらたな器なのだ。
「いつかは方舟を降りるときが来る。その時には肉体が必要でしょう?」
「平和なセカイ? このセカイが平和だと言うのかよ……」
このセカイは争いに満ちている。なのに、なぜリオンの体を使っているのか。
「ただ、退屈だったからよ」
それは至極簡単な理由だった――。
「だって、何百年、何千年も眠っていたのよ?」
リオンは口を尖らせて言った。
ただ退屈だったから、鱗をちょいと放って器を集めただと? そんな勝手な理由かあるか。それが平和を遠ざけているのに。
「それに逃げ出す者もいたわ。せっかく乗った方舟を自らの降りる者も。もしかしたら、貴方が出会った人の中には、元乗組員もいたのかもね」
ヒカルは、竜の里セイリンで出会った賢者を思い出した。
「不完全に器を手にいれた者もいる。このセカイの文明は、意外と早く魂の扱い方を覚えたのだから」
さて……とリオンは黄金短刀を握り直した。止まった時間の薄暗い竜の胎内で、それが不気味に光る。
「時間稼ぎはこれくらいにして、そろそろ終わらせましょう」
リオンがゆっくりと歩いてくる。
ヒカルは構えるのではなく、持っていた懐中時計を見つめた。
「カリンダの母の魂も……ここにいるのか?」
「どなたかしら?」
「昔、生け贄として黄金竜に魂を捧げ、そして食われた女性だ」
「ふーん。私は知らないけれど、竜に自ら飲み込まれた者はたくさんいるわ。貴方たちのようにね……」
ぐるぐると渦を巻くヒカルの頭に、賢者の言葉が過よぎる。
――白い宝石は、カリンダの母とともに竜に飲み込まれた。
――カチ。
「カリンダ!」
再び動き始めた時間の中で、カリンダと目があった。
「お母さんの魂を探せ! お母さんはセカイを見捨ててなどいなかったんだ!」
「な、なに!? 突然……」
「いいから! お母さんを探せ!」
「どうやって!?」
「わからない! けど、呼び掛ければきっと答えてくれる! だから――」
グサリ!
黄金の短刀が、ヒカルの胸に突き刺さる。
「無駄よ」
竜の胎内に「カチリ」と音が響いた。
血が短刀を伝い、リオンの白く小さな手へと流れていく。彼女の赤い目は黄色へと戻っていた。
「ヒカル!」
「探しても呼び掛けても無駄よ。ここに眠る魂は皆、竜の――私たちの支配下なのだから」
グッとさらに短刀が胸に押し込まれる。
しかし、駆け寄ろうとしたカリンダをヒカルは制し、胸に刺さった短刀を握りしめた。
「大丈夫……きっと答えてくれる……から」
だから……。
呼んでも応じない賢者も、必死になって叫びつづければ答えてくれたではないか。
「だから、お母さんを呼ぶんだ!」
握りしめた短刀。
滴り落ちる赤い血が、ポツリポツリと足元に広がっていった。
それは疑問と言うよりは、希望に近かった。
「この娘このこと? そうならばイエスよ。彼女はここに運ばれて、私の器――新しい肉体となったの」
「運ばれた? 誰に?」
「もちろん鱗たちよ」
新たな器を調達してくるのも、鱗たちの仕事だもの。
黄色い目をした人間は、竜で眠った魂たちのあらたな器なのだ。
「いつかは方舟を降りるときが来る。その時には肉体が必要でしょう?」
「平和なセカイ? このセカイが平和だと言うのかよ……」
このセカイは争いに満ちている。なのに、なぜリオンの体を使っているのか。
「ただ、退屈だったからよ」
それは至極簡単な理由だった――。
「だって、何百年、何千年も眠っていたのよ?」
リオンは口を尖らせて言った。
ただ退屈だったから、鱗をちょいと放って器を集めただと? そんな勝手な理由かあるか。それが平和を遠ざけているのに。
「それに逃げ出す者もいたわ。せっかく乗った方舟を自らの降りる者も。もしかしたら、貴方が出会った人の中には、元乗組員もいたのかもね」
ヒカルは、竜の里セイリンで出会った賢者を思い出した。
「不完全に器を手にいれた者もいる。このセカイの文明は、意外と早く魂の扱い方を覚えたのだから」
さて……とリオンは黄金短刀を握り直した。止まった時間の薄暗い竜の胎内で、それが不気味に光る。
「時間稼ぎはこれくらいにして、そろそろ終わらせましょう」
リオンがゆっくりと歩いてくる。
ヒカルは構えるのではなく、持っていた懐中時計を見つめた。
「カリンダの母の魂も……ここにいるのか?」
「どなたかしら?」
「昔、生け贄として黄金竜に魂を捧げ、そして食われた女性だ」
「ふーん。私は知らないけれど、竜に自ら飲み込まれた者はたくさんいるわ。貴方たちのようにね……」
ぐるぐると渦を巻くヒカルの頭に、賢者の言葉が過よぎる。
――白い宝石は、カリンダの母とともに竜に飲み込まれた。
――カチ。
「カリンダ!」
再び動き始めた時間の中で、カリンダと目があった。
「お母さんの魂を探せ! お母さんはセカイを見捨ててなどいなかったんだ!」
「な、なに!? 突然……」
「いいから! お母さんを探せ!」
「どうやって!?」
「わからない! けど、呼び掛ければきっと答えてくれる! だから――」
グサリ!
黄金の短刀が、ヒカルの胸に突き刺さる。
「無駄よ」
竜の胎内に「カチリ」と音が響いた。
血が短刀を伝い、リオンの白く小さな手へと流れていく。彼女の赤い目は黄色へと戻っていた。
「ヒカル!」
「探しても呼び掛けても無駄よ。ここに眠る魂は皆、竜の――私たちの支配下なのだから」
グッとさらに短刀が胸に押し込まれる。
しかし、駆け寄ろうとしたカリンダをヒカルは制し、胸に刺さった短刀を握りしめた。
「大丈夫……きっと答えてくれる……から」
だから……。
呼んでも応じない賢者も、必死になって叫びつづければ答えてくれたではないか。
「だから、お母さんを呼ぶんだ!」
握りしめた短刀。
滴り落ちる赤い血が、ポツリポツリと足元に広がっていった。
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