黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第十二章 決戦

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 ウインたちが見たのは、果敢に飛びかかるパッチが、意図も簡単に払い除けられる様だった。

 その都度、パッチは立ち上がり、再び攻撃を仕掛ける。全身には力の限りの炎を宿し、全力のスピードとパワーで。

 パッチも本能で分かったのだ。こいつは何としてでも止めなくてはならないということに。

 誰かを守るためではない。セカイを守るためではない。生命の本能として、オニの存在は脅威すぎるのだ。

 砂埃が舞った。

 オニを追っている内に、いつの間にか両軍が入り乱れる戦場にやってきたのだ。

 何度も何度も我を忘れて飛びかかる。果敢に攻めている訳ではない。ただ本能に従って、闇雲に突進しているだけ。それほど、オニの出現は脅威なのだ。

「パッチ!」

 ウインの声がパッチに届いた。だが、ようやく我を取り戻したその時には、パッチの小さな体は傷だらけ。

「ウイン……?」

 満身創痍のパッチは、そのまま眠るように意識を失った。ウインは一目散に掛けより、治癒魔法を施す。

「パッチは?」ブリーゲルが声をかける。
「なんとか息はしている。だが、問題はやつだ……」

 顔の無いオニが、再び雄叫びをあげた。それだけで、周囲にいた兵士たちが吹き飛ばされる。
 オニは手当たり次第だった。保護派、討伐派関係なく、手の届く兵士たちを次々と手に掛けていく。

 砂埃に悲鳴と血が混じる。まるで、暴力の嵐だ。いつしか戦場に敵味方はなくなった。オニという絶対悪。まるでセカイの縮図だ。オニには保護派はいないのだけれど。

「俺が時間を稼ぐ」
「兄さん!」

 ブリーゲルが薬品を取り出す。それを見たウインは、驚いた顔をしてみせた。

「兄さん! まさかそれは……」
「考えている時間も勿体ない! こうしている間にも、命が奪われていく!」

 ブリーゲルが取り出したのは、命を燃やす劇薬だ。かつての戦争時、ノリータ軍がアンデッドに使用した、飲んだ者の命と引き換えに、爆発的な「力」を授ける代物。不死のアンデッドだからこそ生産されたのだが、生身の人間が飲めば、死は免れない。

「時間稼ぎくらいには!」
「兄さん! やめろ!」

 ブリーゲルが薬の瓶に口をつけるその間際、薬品が突如として沸騰し、パリンと瓶が割れたではないか。地面にこぼれた薬品は、ジュワジュワと音を立てて吸い込まれていく。

「気が早いぜ。隊長さんよぉ」

 パッチが目を覚ます。傷は癒えきってはいなけれど、魔法を施すウインの手を払って、ヨロヨロと立ち上がった。

「パッチ……お前……」
「なんだよ、そのみっともない顔は。俺はまだ死んじゃいねぇよ」

 まかせろ。パッチはオニの方へゆっくりと歩き始める。

「おい、パッチ! 無茶するな!」

 ウインの言葉を無視し、パッチは手のひらから2つの火炎弾を放った。それらは見事命中。顔のないオニはギョロリとパッチの方を向いた。

「もう大丈夫。俺はクールだ。あいつに一泡ふかせてやる」



 女隊長リーは、馬に鞭を打ってオルストンに急いでいた。

 西の砦グラダでは、もう保護派軍との衝突は始まっているだろう。だからこそ、一刻も早く竜を討たねば。

 今は瓦礫となった故郷オルストン。先の黄金竜襲来の際に、彼女は国外にいた。討伐隊師団長だった彼女は、周辺の村に現れた蛇の鱗を討伐するため、兵士たちを連れての遠征の最中だった。

 知ったのは、黄金竜も鱗も去った夜明けのころ。オルストンが壊滅した。黄金竜は、たった一晩でセカイ一番の大都市を滅ぼしたのだ、と。

 もしあの時、自分たちもオルストンに居れば、何かが変わっていたのかもしれない。

 そう考えるたび、彼女は運命を呪った。

 黄金竜は必ず止める。どんな手を使っても。たとえそれがいかに愚かな、非道のものであっても。

 やがて、オルストンの瓦礫の影が見えてきた。あそこに竜がいる。鱗たちに守られながら、すやすやと呑気にイビキをかいているのだろう。
 今がその時だ。今ならこの剣もある。黄金の鱗たちをも圧倒する伝説の魔剣。かつての大戦に、ノリータ軍が使用した物だ。

 待っていろ。黄金の竜よ――。

 再び、馬に鞭を打った。
 瓦礫の山オルストン。彼女は遂に到着した。そこで見たのは、鱗たちに囲まれて眠る巨大な黄金竜と、妙な四人組だった。



 バルに連れられた先にあったのは、久しくみる相棒――原付バイクだった。

 両サイドのミラーは割れ、スタンドはS字に折れ曲がり、マフラーには小さな穴があいていた。

 配達のために、毎日乗っていた原付バイク。このセカイに来てからも、黄金ワニから逃げたり、蛇のお化けから逃げたり、そして、ここオルストンにて、黄金虫たちから逃げたのだ。

 スクラップ寸前のバイクを見て、ヒカルは「マフラー」さんを思い出した。スパイではなく、元の世界の頑固じいさんだ。

(こりゃあ、「マフラー」さんに見せたら怒られるな……)

「壊れちゃったんだ……」

 申し訳なさそうな顔のバルは、バイクをおこして何度もエンジンを掛けようとするが、バイクは一向に動く気配はなかった。

 それもそのはず――。

「バル、ちょっと貸して」

 バルから原付バイクを受けとると、ヒカルは挿しっぱなしにしていた鍵を回して、スタータースイッチを押した。

 ブル、ブルルルル……。

「あ!」
「な?」

 得意気な顔でバルを見ると、彼もまた笑顔になった。

 奇跡的にエンジンはかかってくれた。キックスターターが折れていたから、もしかしたら? と黄金の懐中時計の準備をしていたけれど大丈夫そうだ。時々、カラカラと変な音をたてるのだけれど。

「ちょっと! 今度は何!?」

 両耳を押さえたカリンダが叫ぶ。見るとウタも同じく耳を塞いでいるようで、突然の得たいの知れない轟音に、二人は驚いているようだった。

「ごめんごめん」

 ヒカルはエンジンを一度切った。ガソリンも少ない。突入のために取っておかないと。

「あとは、あの鱗たちをどう切り抜けるか……だな」

 竜は眠っている。しかし、その周囲には、無数の虫の鱗たちが、黄金の壁を造り上げていた。

「ねぇ、一体どうするつもりなの?」
「あれを突破したいんだけど」
「どうして? なんで君がそこまでするのよ?」
「カリンダに死んでほしくないからだよ」

 彼女は面を喰らった顔をして見せた。
 ヒカルは、その表情の裏に、試練の泉で見た笑顔と涙を思い出した。

「バル、ありがとう。だから早くウタを連れて逃げな」
「うん……」

 気をつけて。そう言おうとしたその時――今度はウタが「あ!」と叫んだ。まるで何かを見つけたように。

「どうした?」
「隊長だ! リー隊長だ!」

 指差す方向を見ると、馬に乗った人影が1つ。こちらに向かってきていた。

「誰?」

 ウタはヒカルたちに隊長のことを説明した。彼女が持つ、鱗をも圧倒する剣についても。

「なるほど……光が見えてきた!」

 こちらへと向かってくる女隊長リー。まだ小さく見える彼女こそが、最後のピースを嵌はめるのだ。
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