黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第十一章 運命の輪の中心に

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 兵士たちは知っていた。我々は闘うために生まれてきたのだと。

 兵士たちは知っていた。地平線に見える米粒ほどの影が、実は人間であるのだと。

 兵士たちは知っていた。米粒ほどの人間が、これから我々に剣先を向けるのだと。

 それでも兵士たちは疑わなかった。我々は必ず勝つのだと。
 地面を揺らす足音を聞いても、盾を、弓の矢を持つ手が震えている者など誰もいない。前線に並ぶ兵士たちは、正面から保護派軍と激突する。誰もこの砦を突破させやしない。我々の闘いではなく、セカイのための闘いなのだ。

 まだ遠くに見える保護派軍の中から馬に乗った二人の兵士がかけてよって来る。
 それを見た腕無し軍曹は、前線からゆっくりと歩み寄った。

「元ノリータ国軍軍曹のゲイルだな?」

 保護派の兵士の一人が、馬に乗ったまま腕無し軍曹に向かってそう投げ掛けた。

「いかにも。今は連合共和国の軍曹である」
「我々はこの先のオルストンへ向かう。無駄な争いは避けたい。どうか通してはくれないか」

 今度はもう一人の兵士がそう言った。
 分厚いローブの中から、軍曹はその兵士と目を合わせる。

「無駄な争いだと? 竜を守ると言いながら笑わせるな。争いの原因はすべて竜ではないか!」

 そして、腕無し軍曹は腰の剣で、馬の足を斬りつけた。

「ぐっ!」

 倒れる馬と兵士。もう一人の兵士も、馬から飛び降りて剣を抜く。倒れた兵士もなんとか起き上がると、腕無し軍曹に剣先を向けた。
 2対1。さすがは軍曹で、2人の攻撃を見事に捌いていた。

 まだ遠くにいる保護派兵たちが、一気に走り始める。

「矢を放て!」

 討伐軍の一人が叫ぶと、後方から放たれた矢が雨のように保護派軍へ降り落ちた。
 倒れる者もいたが、保護派軍の突撃は止まらない。

 オルストンへ向かうべく、砦を突破すべく保護派軍と、進行を許さない討伐軍との衝突が、今始まろうとしていた。

「爆撃馬! 用意!」

 合図と同時に、荷台を曳く馬が4頭、グラダの前線に現れた。

 保護派軍はもう目の前。
 その内の1つ――リー隊長専用の馬車もあった。



 兵士たちと合流したウインとブリーゲル隊長は、グラダの方から大きな爆発音を聞いて、足を早めた。

「もう始まっている。急ぐぞ!」

 旧ジャスパー街道からオルストンへ向かうには東西南北含めた9つの砦村を通らねばならない。
 だが、全ての砦村には討伐派であるオルストンとノリータ軍の息がかかっており、保護派軍との衝突は免れない。

 そして今、オルストンには黄金竜が鎮座している。竜に会うために行進する保護派軍たちは、その9つの砦村へ向かっていた。当然、討伐派たちとの衝突は免れない。
 死者も出る。被害の拡大を防ぐべく――西の砦村グラダを早急に落とせば、オルストンへの道標となるのだ。

「なんだか、竜神様を守っているのは討伐派たちみたいだね」

 ブリーゲルの後ろで、ウインがそう呟いた。
 竜の里セイリンを発ってから、ウインの意識はずっと上の空だった。

「そんなことはない。竜神様は今、討伐派たちに都合良く囲まれているのだ」

 兄の言葉を聞いて、ウインは子どもの頃を思い出した。いじめっ子に囲まれた自分を助けてくれたのは、いつも兄のブリーゲルであった。

「それに、カリンダも試練を終えた。我々が援護しなくては……」
「そうだね」

 カリンダと共に試練を挑むのは自分だったけどね。思いたくもない言葉が心に現れて、ウインは必死に押さえ込んだ。
 まるで雑草だ。試練は無事に終わった。良くやったよヒカル、と喜ぶべきなのに、心の内には憎しみの芽が顔を出す。抜いても抜いても増すばかり。

 竜神様の意思を疑った。このセカイには、竜神様が必要なのか、と――。

 走り始めたブリーゲルたちの後を追う。
 間もなくセカイは大きく変わるだろう。その中心には竜神様ではなく、ヒカルがいるような気がしてならなかった。
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