黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第十章 黄金竜の正体

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 だからこそ、カリンダは母の罪を浄化しなくてはならない、と賢者は優しく言った。

「カリンダも本望なのだ。母の意識が眠る竜に喰われることが。セカイよりも優先してくれた慈悲深い母親に会うために」

 ヒカルは、カリンダがずっと口を閉ざしていた理由が分かった気がした。セカイを救うためには、他人は邪魔なのだ、と。
 母の二の舞にならぬよう、彼女は自ら人との干渉を経っていたのだろう。特定の人や町だけじゃない、救うのはこのセカイに住む人々なのだから。

 ヒカルは、自分が強く拳を握りしめていたことに気がつかなかった。

「カリンダのことは分かったよ。でも、本当にそれしか方法はないの?」
「違う方法? カリンダも、誰も失わずに黄金竜を止める方法か? そんなものありはせん。犠牲を払ってこその平和なのだ」

 それだと戦争と同じだ。

「待って! まだ知りたいことはある! 俺たちは赤い宝石を探してここに来たんだ」
「赤い宝石? 竜の宝玉のことか?」
「宝玉だとか分かんないけれど、あと一つで完成なんだ。三つ揃えば、きっと黄金竜を止めるヒントが分かるはず」

 そう言いながら、ヒカルは懐中時計を賢者に見せた。赤と青――そして一つの窪み。カリンダはここセイリンで見たと言った。

「確かに宝玉はあった。しかし、ここにはもう無い」
「え?」
「竜に食われたのだ。カリンダの母と一緒に」

 食われた?
 ヒカルが考え得る竜を止める全てが、非情にも崩れていった。

「どちらにせよ。お主の役目は終ったのだ、ヒカルよ。試練を無事に成功させた。後はカリンダが竜に心を捧げれば良いだけ。せめて祈ることだな」
「そんな……」

 ならば、俺はどうしてこのセカイに来た?
 本当にカリンダの試練を成功させるためか? そもそも黄金の懐中時計は? 誰が、なんのために造ったの?

――知りたくば俺を使えよ。

 心の声は、ヒカルに優しく語りかけた。
 賢者が何かを言っている。しかし、ヒカルは黙って懐中時計に手を伸ばした。

――お前も使ったことがあるだろ? 青は過去。お前が願った過ぎ去ったもの全てが手に入るのだ。

 過去を知る――旧ジャスパー街道で見たウインの過去のように。今度はこのセカイの、黄金竜の過去を見てやる!

 勢い良く青の装飾を押す。
 カチ――シュルシュルシュル……。

 瞬間そのとき、ヒカルは目映い光に包まれていった。



「どうやら試練は成功させたみたいだな」

 魔法の報せを受けた隊長ブリーゲルは、前を歩くウインに語りかけた。

 旧ジャスパー街道の脇道。オルストンとは真逆の小道を、二人は歩いていた。目指すは西のグラダという村だ。討伐派の拠点であり、正面から進行する保護派軍と挟み撃ちを仕掛けるため。

 先に行かせたブリーゲルの兵隊たちとは、もうすぐ合流できる。グラダを落とせば、他の拠点地での争いも回避できる。

 目的は明確だけれど、セイリンを発って以来、ウインの表情には影がへばりついていた。

「そう……なら僕たちもしっかり援護しないと」
「カリンダもオルストンへ向かっている。ヒカルはセイリンに残っているようだ」
「その方が良いよ」

 その方が良い。これは、自分たちの戦いなのだから。
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