黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第九章 道中の夢

3 召喚士ウイン

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「来る……来るよ!」

 突然、部屋の隅にいたカリンダが声をあげた。
 黄色い目をした少女カリンダ。彼女は黄金竜と共鳴が出来るのだ。

 ウインの側で座っていた父も、娘の「警報」に立ち上がる。
 ウインはというと、不安になるわけでも、恐怖に支配されるわけでもなく、雲間から太陽が差し込んでくるような、そんな気持ちになった。

 竜神様が見てくれている――やっぱり見てくれているんだ!

 父はウインをチラッと見た。その目には「不安」も「恐怖」もちゃんとあった。けれど、幼いウインにはそれがなぜだか分からなかった。

 どうして? 竜神様が来てくれたんじゃないの?

「ありがとう、カリンダ。ブリーゲルを呼んでくるから、お前たちはここにいなさい」

 雷が響く。一瞬間の光が雨夜空を照らすと、二つの大きな翼を広げた竜のシルエットが浮かんだ。
 ベッドのウインだけが、窓外の雨音をじっと聞いていた。
 一目で良いから竜神様を見たい。直接会ってみたい。そうすれば、自分は何をすれば良いのか、教えてくれるだろうから。

 いじめっ子たちの顔が頭に浮かぶ。魔導師になりたいという夢を馬鹿にされ、何も出来ない自分を呪っていた毎日が、竜神様に会えば何かが変わると、幼いウインの心には純粋な希望で一杯だったのだ。

「僕も行くよ」
「え?」

 父が出ていってから、病室はウインとカリンダの(ヒカルをいれたら三人だけれども)二人だけであった。

「もうすぐお兄ちゃんが来るから、待ってようよ!」

 危ないよ、と言うカリンダを無視して、ウインはベッドから抜け出す。全身、特に頭痛がひどい。

「ねぇったら!」

 カリンダがウインの手を掴む。

――だめだよ、ウイン!
 もちろん、ヒカルの声も届かない。

――シュルシュルシュル。
 目映い光に照らされて、景色が一変した。

 雨の降りしきる暗い森の中。血を流し、倒れる兵士たち。

 その中で、幼いウインはそこにいた。

――ウイン?

 彼は懸命に魔法を唱えていた。
 治癒魔法だと、ヒカルはすぐに分かった。倒れていたのは、ウインたちの父で、腹がぱっくり割れていたから。

「やだ……やだよ、父さん」

 大粒の雨に打たれ、大粒の涙を流す少年。彼がどれだけ魔法を唱えても、父の傷口には小さな白い花が咲くだけ。

「どうして! どうして僕は魔法が使えないんだよ!」

 父はもう息をしていなかった。鱗にやられた傷は、一撃で命を奪ってしまった。
 傷口にまた花が咲く。
 後からようやく到着したブリーゲルたちに保護されるまで、傷口には綺麗な花が咲き続けた。



 祭壇が見えた。
 続く道の両脇には、竜を象かたどった 燭台が等間隔に並んでいるのが見える。

――今度はどこだろう?

 木で組まれた小さな櫓やぐらには白い布が被せられていて、丸い鏡や魚の頭なんかが並べられている。そして、その真ん中には、指輪が一つ置かれていた。

 シャリンシャリン。
 鈴の音が聞こえてくると、一人の老人と、青年が祭壇に向かって歩いてきた。

 ウインだ。さっきの鈴のような音は、彼が首から提げていたアクセサリーの音らしく、歩く度にシャリンシャリンと鳴る。

 老人は祭壇に置いてあった指輪をウインに渡す。

「こいつは?」
「番号145658。南トカラスに生息する通称パッチと呼ばれる獣族です。小型ですが、遠近戦闘にも優れておりまして、炎の魔法を少々……」
「名前はどうだって良い。罪名と刑期は?」
「ふむ……刑期は無期。主に略奪と放火ですが、殺人と誘拐、密狩猟、密入国と重罪が目立ちます」

 全て読み上げますか? という老人の問に、ウインは首を横に降った。

「魔法……か」

 ウインは指輪を填めると、その「器」がほんのり温かく感じた。

「昨夜、新たに捉えた者もいる。詰まってはいるが、あと二つ……いや、三つは器が欲しいな」
「かしこまりました。この調子だと、両手はすぐに埋まってしまいますな」
「罪人は多い。いくらあっても足らないさ」
「いつもご贔屓に。看守様」

 その呼び方は止めてくれ、とウインが言うと、老人は気味悪く笑って見せた。

――シュルシュルシュル……カチ。
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