黄金竜のいるセカイ

にぎた

文字の大きさ
上 下
54 / 94
第八章 サボテン岩の戦い

しおりを挟む
 サボテン岩の影から顔を出たヒカルは、パッチの姿を見て素直に驚き、そして嬉しさもあった。

 でも――。

「なんだあれは!?」

 衝突するパピーとボルボル。争う「ちびっ子」たちに紛れた、鱗よりも大きな岩の巨人。
 パッチは、果敢にもその巨人と戦っているのだ。

 人間であるウインの姿もすぐに見つけたけれど、自分は今もパピーの姿のまま。のこのこと戦場に飛び込んでは、格好の餌食だ。

「さてと……」

 カチ――。

 時が止まった。ヒカルはそそくさとウインのところまで走っていくと、彼を元いた岩影まで引っ張っていく。

「ふぅ。やっぱり、時間を止めるのは不便だ……」

 今はパピーである自分にとっては、えらく骨の折れる作業なのだ。
 動く度に、ジャラジャラと鳴る音も鬱陶しかった。

――カチ。

「ウイン?」
「あ、あれ?」
「ウイン。ひとつ頼まれてくれない?」
「き、君は、どうしてここに? というかいつの間に? あれれ?」

 ヒカルにとってはすっかり見慣れた反応だけど、当の本人にしては何が起こったのかわからない超現象だ。事実、ウインの時間では何も起こっていないのだから。

「争いを止めたい。少しだけで良いから、皆の注目を俺に集めてほしいんだ」
「止めに? どうやって……。そう言えばカリンダは!? どうして君だけがここに?」
「カリンダなら……あれ?」

 きっと後ろからついてきているとばかり思っていたけど、彼女の姿はまだ無かった。

「はぐれたのかな?」
「はあ?」

 ウインは「何やってるんだ」と、大きくため息をついてみせた。

 ドン! と大きな地響きがした。どうやら巨人が地面を殴ってしまったらしい。

「それで、中で何があったの? エバーはいた?」
「うん。話をしたよ。それと女の子とも」
「女の子?」
「ボルボルの女の子。ザラって言うんだ」

 ヒカルはこの争いのことを簡単に説明してやった。ボルボルが侵略を受けたこと。パピー一族がここに逃げてきた理由。そして、ザラの言った争いの終わらせ方も。

「幸い。俺は今パピーの姿だから」
「君が謝るの?」

 途中から真剣に聞いてくれていたウインも、ヒカルの提案に驚いた。
 君なんかが?
 またバカなことを考えたね、と。

「本気なの?」
「本気だよ」

 ウインの視線をしっかりと受け止め、ヒカルは頷いた。
 そこに、カリンダが遅れてやってくる。

「遅かったね。迷ったの?」
「はぁはぁ……。火が消えてて、真っ暗だったから」

 息を整えないまま、カリンダは言い訳をつく。それがきっかけだったのか、ウインが再び「はぁ」とため息をつくと、戦場に向き直った。

 「でも、確かにその少女の言うことは間違いではないね」

 ウインが両手を突き出して呪文を唱えると、冷たい風が吹いた。

 その風に打たれたヒカルの腕毛が、パキパキと凍っていく。

「凍えろ。境界線よ」

 次の瞬間――パピーとボルボル、パッチとディアンブロスの間に、分厚くも巨大な氷壁が現れたではないか。

 ウインが作り出した氷壁は、正確に言うと、ボルボルと巨人ディアンブロスを閉じ込めるようにして築かれたのであった。

 困惑する兵士たち。ディアンブロスの攻撃にも、氷壁はびくともしなかった。

「すごい……」
「鉄壁の氷さ。でも、そんなに長くは持たないよ」
「分かった」
「何が分かった、だ! せっかくもう少しであのノッポをぶちのめせるところだったのに!」

 勢い良くつっかかってきたのは、とパッチであった。

「パッチ! 良いところにきた!」
「ああ? 誰だお前?」

 パッチと目が合う。
 そっか、今はパピーの姿なんだった。

「俺だよ。ヒカルだよ」
「新入り? あ! もしかしてお前、パピーに手を出したのか!?」

 何やってんだよ、と、パッチに背中を叩かれる。

「傷はもう良いの?」
「当たり前よ。俺様を誰だと思ってるんだ」
「じゃあパッチにもお願いをして良い? 皆の注目を俺に集めて欲しいんだけど」
「ああ? 新入りが俺様に指図できると思ってるのかよ」
「なら、カリンダかウインから頼んでくれよ」

 ウインの方を見ると、露骨に嫌な顔をしてみせた。痛いところをつかれた、とパッチも嫌な顔をしている。
 カリンダはというと、まだ息が整わないのか、膝に手をついて頭を垂れていた。

「パッチ……皆をヒカルに引き付けろ」
「ちっ、本気かよ」

 けっ、と、悪態をついて、パッチは拳を握りしめる。拳はメラメラと炎を纏い、そして、地面に勢い良く突き立てた。

 ドオオオオン!!

 先ほどのディアンブロスの攻撃と同じか、それ以上の大きな衝撃が地面を伝う。
 まるで八つ当たりだ。
 氷壁を挟んで弓と野次を飛ばし合っていた兵士たちも、今の衝撃で一気に静まりかえる。

「おい! 俺の後輩がお前らに話があるって言うから、背筋伸ばしてちゃんと聞けや!」

 皆がこちらを向く。パッチ軍の将軍ボルノも。ボルボルの巨人のディアンブロスでさえも。

「ありがとう、パッチ」

 ヒカルはパッチの前に出ると、兵士たちを一通り見渡した。

「ボルボルの代表者はどなたですか!? 話があります」

 ヒカルの問いかけに、しばらくして一人のボルボルが名乗りをあげた。

「我こそ、ボルボル兵士大隊長ドンである!」

 くすみがかったオレンジ色の肌をしたドンは、他のボルボル兵たちを押し退けて氷壁の際まで来ると、ヒカルも彼の方へ向かった。

 誰だあいつは、と、必然的にパピー兵たちがざわつきはじめたが、お構い無し。
 ウインの作った氷壁を挟んで、ヒカルはボルボル代表者のドンと向かい合う。

「話とはなんだ? 名も無きパピーよ。これで我々を捕らえたつもりか? 言っておくが、降伏など決してしないぞ」

 ドシン、ドシン、と、ディアンブロスが氷壁を叩く音が聞こえた。
 降伏、という言葉に、パピー兵士たちのヤジがさらに大きくなった。

「俺の名前はヒカル。大槻ヒカル……です。別に降伏して欲しい訳じゃない。ただ、この争いを止めに来ました」

――すべて聞きました。この争いの原因を。昔、パピーがボルボルたちに何をしたのかも。



 サボテン岩から降りてきたボルボルの少女とエバーが目にしたもの。

 それは、ボルボル兵士たちに向かって深く頭をさげる、一人の奴隷パピーの姿であった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...