黄金竜のいるセカイ

にぎた

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第二章 大都市オルストン

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 大都市オルストン。
 その異名は伊達ではなかった。

 人も多いし、活気に溢れている。石畳の町並みや中世ヨーロッパを思わせるような家たちが綺麗に並んでいた。

 日本史の教科書の次は世界史だ。

 町の中央には広場があり、そこを中心に家たちが同心円状に何層も広がっている。家と家の間には川も流れていて、食料をふんだんに乗せた船が往来していた。

 ヒカルは、バルに連れられて中心の広場へ続く大通りを歩いていた。

 人混みの中を原付バイクを押して歩くのは、大都市とは言え例外ではない。見慣れない不思議な乗り物を、皆は白い目で見ていた。

「ここが広場だよ」
「来た事あるの?」
「一度だけね。お父さんの荷物を一緒に運んだことがあるんだ」

 バルは少しだけ胸を張って見せた。

「それで、どこで働くんだ?」
「まだ決めてない。でも、とりあえず今日は歩かない? 久しぶりのオルストンが楽しみなんだ」

 もちろん、その原付もね。
 やれやれ、とヒカルは苦笑い。

「まあ、いいか。とりあえず何か食おう。良い匂いでお腹が空いた」
「賛成!」

 大通りには、市場ともいえる路面店もたくさんあった。テントの下には魚や肉、野菜や果物といった、色とりどりの食材が並んでいる。

「これっていくら?」

 リンゴのような丸い果実を指さして、ヒカルは店主に訪ねた。

「20エミリだよ」

 そういえば硬貨一枚でどれくらいの価値があるのか、ヒカルは分からなかった。

 とりあえず、麻の袋から一枚の銀色の硬貨を渡す。店主は少しだけ嫌な顔をした。
 足りないのかな? もう数枚取り出そうとすると、店主は机の引き出しから小さな金庫を取り出した。

 そして、中から小さな硬貨を何枚も、何十枚も拾い上げると、ヒカルにお釣りを返す。

「ありがとよ」

 リンゴと大量の硬貨を受け取る。たった一枚の硬貨が何十枚もの小さな硬貨になった。

「すごい。銀硬貨、初めて見た」

 麻の袋は、いっきに重たくなってしまった。

「これってどれくらいの価値なの?」

 銀の硬貨を一枚をつまみ上げて、バルに問いかける。

「一万エミリだよ! やっぱり大金持ちだ……」
「一万? だから店主は嫌な顔をしたのか」

 ガム一つで一万円札を出されると、確かにメンドクサイからな。

 麻の袋の中には、銀硬貨がおよそ一〇枚。
 これが大金であることは、「僕なら一生遊んで暮らせるのに」というバルの言葉でわかった。村長から受け取った大事なお金だ。感謝せねば。

「さすがは技術者さまだね」

 リンゴをほおばりながら、バルがヒカルの腕を小突く。はいはい、とヒカルは受け流した。

 町の中心の広場で少しだけ休憩。連日連夜走り回ったせいで、さすがに疲れがどっと出た。

 町のあちこちから活気が伝わってくる。リオンたちの村とは違い、豪華そうなレースのドレスを着た貴婦人たちもちらほら見掛ける。

 市場で客を出迎える声。馬を操り荷物を運ぶ声。子供を連れてどこかに遊びにいく家族や、まだ距離がちかくない、よそよそしいカップル。

 石でできた街並みは、綺麗に整っていた。空は相変わらずの快晴。青い空に白い町が良く映える。

 大通りから、固い足音が聞こえてきた。
 それも大勢の。

 見ると、数人の兵士たちが歩いている。甲冑と兜被り、腰には剣と盾を備えている。

 戦争という言葉を思い出す。

 黄金竜をめぐる戦争だ。隣に座るバルを見ると、顔がこわばって、露骨に嫌な顔をしていた。

 丸い鼻にぐっと皺をよせて、ぺっ、と果物の種を吐き捨てる。本当なら注意したかもしれないけれど、今回は大目に見てやることにしよう。

「そろそろ探そうか。バルの就職先をさ」
「はーい」

 さっきまで良かった機嫌はどこに行ったのか。バルは「よいしょ」と重たくないはずの腰を上げて、兵士たちに背中を向けた。

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