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第二章 大都市オルストン
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バルとヒカル(原付バイクも一緒に)は、ゆっくりと、足音を立てないよう細心の注意を払って森の中を歩いていく。
大丈夫だ。森に入ってすぐに休んだから、同じくすぐに森を抜けられる。
そう思ってはいたものの、音を消して歩くことは至難の業だ。かつ、夜の森の中となると、果たしてちゃんと出口に向かっているのかと不安にもなる。
ゆっくり、ゆっくりと。バルの言葉が本当ならば、この森には夜に現れるお化けの蛇がいるのだ。
「夜の森に近づいてはいけない。お化けの蛇に食べられるから」
この世界はあっちの世界とは違う。黄金の竜が居て、鱗を落とし、それが巨大なワニになる世界だ。
お化けの蛇が一匹や二匹いてもおかしくはない。
やれやれ。黄金竜のいる世界は生きずらいな、とヒカルは頭の中で愚痴をこぼした。
すると、前を歩くバルが止まった。肩を叩いてみると、強張った顔をしたバルがゆっくりと振り返る。
目が合う。月明かりのせいなのかは分からないが、少年の顔は真っ青だ。
「どうしたの?」
少年はヒカルの顔を見つめながら、いや、目の前のそれに顔をそむけるようにしながら、前方を指さす。
指先――バルの指し示すその先には暗い森があるだけ。暗い? 違う。森の中は月明りが届いているはず。
目を凝らすと、なんだか暗い森が動いている。
嫌な予感。二つの小さな白い光。すぐ下には、紅色の舌が見え隠れしている。
月明かりを隠してしまう程の、大きな蛇だ。
ヒカルとバルは固まった。蛇に睨まれた蛙。俺たちは岩ですよ。食べても美味しくありませんからね。
幸いなことに、大蛇は二人には気が付いておらず、すぐ目の前を通り過ぎて行く。
パキパキパキと枝が折れる。まだまだ続く長い体。二人はずっと、大蛇が通り過ぎるのを待っていた。
ようやく道が開けた。目の前に青白い森が戻ってくる。
枝の折れる音が聞こえなくなってから、二人は再び歩き出す。さっきよりも慎重に、それでいてさっきよりも素早く。
びちゃり。
ヒカルとバルの間に何かが落ちた。バルも振り返る。足元に集中すると、それは粘り気のある水たまりだった。
びちゃり、びちゃり。また落ちてきた。恐る恐る顔を上げる。目が合った。大蛇の白く光る小さな(と言っても、ヒカルの顔より大きいけれど)二つの目。
先ほどの水たまりは大蛇の涎だったのだ。
一匹や二匹いてもおかしくはない? 本当に二匹いるなんて聞いてないぞ。
固まる二人と一匹。バルは今にも泣き出しそうであった。
ヒカルも足が震えてきた。そして、無心で原付バイクのカギを回す。この際、森の中だからとは言っていられない。
逃げるが勝ち。出口はもうすぐなのだから。たぶん……。
「逃げろ!」
ヒカルが叫んだのと同時に、大きな口を開けた大蛇が二人にめがけて飛びついてきた。間一髪。原付バイクで走りだしたヒカルは、とっさにバルの腕をひっぱって後ろに飛び乗せることに成功した。
大蛇が猛スピードで追いかけてくる。ワニの次は蛇だ。しかも、今度は確実に自分たちを食べてしまおうと狙ってきている!
ヒカルの後ろで必死にしがみつくバルは、もうすでに泣いていた。
そりゃそうだ。お化けの大蛇が追いかけてきているのだから。
でこぼこの地面のせいで、思うようにスピードが出せない。大蛇はお化けだ。木々たちをすり抜けて、最短距離で二人を追いかける。
追いつかれてしまう。追いつかれたら最後。お化けの大蛇に丸飲みだ。焦る気持ちがハンドルを回す。スピードが出てくる。
「あ」
ドン、と全身に衝撃が走った。固い根っこに前輪がぶつかってしまったのだ。
ヒカルとバルが宙を舞う。
世界が反転する。
すぐ後ろには大蛇だ。ミキサーのワニとは違って、大蛇の口は生生しい上下四本の太くて長い牙。紅色の舌。糸を引く涎。そしてその奥には地獄へと続くような喉の奥の闇。
スローモーション。
視界に入る風景が、すべて手に取るようにわかる。空中で涙目のバルと目が合った。
――やばいな。
――僕たち食べられちゃうの?
その時、ヒカルの腰から黄金の懐中時計が地面に落ちた。
カチ――。
地面とぶつかった瞬間――懐中時計の文字盤が赤く輝く。そしてどさり、とヒカルだけが地面に落っこちる。
何が起こったのか。ヒカルが顔を上げると、すぐそこには口を大きく開けて舌を出す大蛇と、絶望の表情をしたバルが空中に浮かんでいる。
いや、止まっている?
赤く光る懐中時計を拾い上げる。不気味に、それでいて神秘的な深紅の光。
ためしに、バルの頬をつついてみた。しかし、何も反応がない。
今度は大蛇の大きな白い目を力いっぱい殴ってみた。固い。殴ったことを後悔したけれど、それでも大蛇は全く動かない。
これって、まさか――。
「時間が止まったのか!」
大丈夫だ。森に入ってすぐに休んだから、同じくすぐに森を抜けられる。
そう思ってはいたものの、音を消して歩くことは至難の業だ。かつ、夜の森の中となると、果たしてちゃんと出口に向かっているのかと不安にもなる。
ゆっくり、ゆっくりと。バルの言葉が本当ならば、この森には夜に現れるお化けの蛇がいるのだ。
「夜の森に近づいてはいけない。お化けの蛇に食べられるから」
この世界はあっちの世界とは違う。黄金の竜が居て、鱗を落とし、それが巨大なワニになる世界だ。
お化けの蛇が一匹や二匹いてもおかしくはない。
やれやれ。黄金竜のいる世界は生きずらいな、とヒカルは頭の中で愚痴をこぼした。
すると、前を歩くバルが止まった。肩を叩いてみると、強張った顔をしたバルがゆっくりと振り返る。
目が合う。月明かりのせいなのかは分からないが、少年の顔は真っ青だ。
「どうしたの?」
少年はヒカルの顔を見つめながら、いや、目の前のそれに顔をそむけるようにしながら、前方を指さす。
指先――バルの指し示すその先には暗い森があるだけ。暗い? 違う。森の中は月明りが届いているはず。
目を凝らすと、なんだか暗い森が動いている。
嫌な予感。二つの小さな白い光。すぐ下には、紅色の舌が見え隠れしている。
月明かりを隠してしまう程の、大きな蛇だ。
ヒカルとバルは固まった。蛇に睨まれた蛙。俺たちは岩ですよ。食べても美味しくありませんからね。
幸いなことに、大蛇は二人には気が付いておらず、すぐ目の前を通り過ぎて行く。
パキパキパキと枝が折れる。まだまだ続く長い体。二人はずっと、大蛇が通り過ぎるのを待っていた。
ようやく道が開けた。目の前に青白い森が戻ってくる。
枝の折れる音が聞こえなくなってから、二人は再び歩き出す。さっきよりも慎重に、それでいてさっきよりも素早く。
びちゃり。
ヒカルとバルの間に何かが落ちた。バルも振り返る。足元に集中すると、それは粘り気のある水たまりだった。
びちゃり、びちゃり。また落ちてきた。恐る恐る顔を上げる。目が合った。大蛇の白く光る小さな(と言っても、ヒカルの顔より大きいけれど)二つの目。
先ほどの水たまりは大蛇の涎だったのだ。
一匹や二匹いてもおかしくはない? 本当に二匹いるなんて聞いてないぞ。
固まる二人と一匹。バルは今にも泣き出しそうであった。
ヒカルも足が震えてきた。そして、無心で原付バイクのカギを回す。この際、森の中だからとは言っていられない。
逃げるが勝ち。出口はもうすぐなのだから。たぶん……。
「逃げろ!」
ヒカルが叫んだのと同時に、大きな口を開けた大蛇が二人にめがけて飛びついてきた。間一髪。原付バイクで走りだしたヒカルは、とっさにバルの腕をひっぱって後ろに飛び乗せることに成功した。
大蛇が猛スピードで追いかけてくる。ワニの次は蛇だ。しかも、今度は確実に自分たちを食べてしまおうと狙ってきている!
ヒカルの後ろで必死にしがみつくバルは、もうすでに泣いていた。
そりゃそうだ。お化けの大蛇が追いかけてきているのだから。
でこぼこの地面のせいで、思うようにスピードが出せない。大蛇はお化けだ。木々たちをすり抜けて、最短距離で二人を追いかける。
追いつかれてしまう。追いつかれたら最後。お化けの大蛇に丸飲みだ。焦る気持ちがハンドルを回す。スピードが出てくる。
「あ」
ドン、と全身に衝撃が走った。固い根っこに前輪がぶつかってしまったのだ。
ヒカルとバルが宙を舞う。
世界が反転する。
すぐ後ろには大蛇だ。ミキサーのワニとは違って、大蛇の口は生生しい上下四本の太くて長い牙。紅色の舌。糸を引く涎。そしてその奥には地獄へと続くような喉の奥の闇。
スローモーション。
視界に入る風景が、すべて手に取るようにわかる。空中で涙目のバルと目が合った。
――やばいな。
――僕たち食べられちゃうの?
その時、ヒカルの腰から黄金の懐中時計が地面に落ちた。
カチ――。
地面とぶつかった瞬間――懐中時計の文字盤が赤く輝く。そしてどさり、とヒカルだけが地面に落っこちる。
何が起こったのか。ヒカルが顔を上げると、すぐそこには口を大きく開けて舌を出す大蛇と、絶望の表情をしたバルが空中に浮かんでいる。
いや、止まっている?
赤く光る懐中時計を拾い上げる。不気味に、それでいて神秘的な深紅の光。
ためしに、バルの頬をつついてみた。しかし、何も反応がない。
今度は大蛇の大きな白い目を力いっぱい殴ってみた。固い。殴ったことを後悔したけれど、それでも大蛇は全く動かない。
これって、まさか――。
「時間が止まったのか!」
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