出雲の駄菓子屋日誌

にぎた

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後編

10 続供養式

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 見えない壁――結界。

 宙を舞い、尻餅をついた真太郎と雄一は、何が起きたのかという驚きで、さほど痛みは感じなかった。
 真太郎はすぐに立ち上がる。もう一度。だが結果は同じ。

 再び、まだ起き上がれない雄一の隣に跳ね飛ばされてしまった。
 目が合う。

「これは一苦労だな」 
「呑気なことを言って……」

 すぐそこにあるはずの大西が遠い。まるで長いテーブルを挟んで対峙しているようにも思われた。
 真太郎が手を貸して、雄一を起き上がらせてやる。

「さて……真剣にどうしましょうか」

 雄一も真太郎も、すでに息があがあっている。

「確かに……。あの薄気味悪いやつなんか、とっとと成仏してしまえ」

 成仏。

 本来ならあの時の供養式ですべては片付いていたはずなのだ。今、真太郎たちがこの世界に居るのも、柏木や美琴たちが死を潜り悪霊という非現実の異物と対峙しているのも、元凶は目の前の大西――大西が持っていた掛け軸だ。

 なら、今その続きをするべきだ。供養式の続きを。

――心が落ち着くんです。

 真太郎が呼吸を整えて一歩進む。

「北野さん」 
「ん?」
「ちょっとだけ、よろしくお願いします」

 真太郎は深く深呼吸をすると、胸の位置で手のひらを合わせて目を瞑った。

 何もない暗黒の世界で風が吹く。それはまさに神々の息吹であった。
 大西が異変に気が付く。必然と彼の顔から笑みが消えた。

「まさか……」

 真太郎は目を瞑ったまま、あの時供養するはずだった品々を思い浮かべた。手紙。野球ボール。心霊写真。日本人形。そして大西が持ってきた掛け軸。

 ここにはあの小太り僧侶も居ない。だが、熱海を古くから守ってきた大楠が居る。昔、この熱海を愛した夫婦が居る。

「やめろ!」

 大西が真太郎の「それ」を阻止すべく飛び掛かってくる。だが、今度は雄一が遮った。

「よし! 掴んだぞ!」

 そう言うと、雄一は大西を見事に投げ飛ばして見せた。

「こう見えて、俺は柔道黒帯を持っているんだ」




 
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