出雲の駄菓子屋日誌

にぎた

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後編

7 女の独白

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 大作の葬式が終わって数日後。

 騒がしい夜中にお栄は目を開けた。外に出てみると、闇夜の中で懐中電灯の光があちらこちらで光っている。
 何事か、と近くを通った青年団の一人に声をかけてみると、驚くべき答えが返ってきた。

「坂田さんの昌子さんが居なくなったのだ」
「いったいどうしてでしょう?」 
「手紙がございまして……。なんでも、大作様、そして愛子さんを殺してしまったのは、全部私のせいですと……」

 あの日のあの鞄。挨拶を済ませ、先に帰らせた愛子に鞄を渡したのは、いつも坂田の隣にいる荷物持ちではなく、昌子であったのだ。

――私が渡すから、あなたはお茶でも片付けておきなさい。あら? 女同士のお話に首を突っ込み気かしら?

 このようにして、昌子は荷物持ちから鞄をひったくると、大作の鞄と入れ替えてわざと「間違えて」渡したのだ。

 中に大金の書類が入っていたことは、もちろん昌子も知らなかった。はじめはちょっとした出来心で、ただ仕事熱心な大作を困らせたかっただけ。それが、まさかこのような事態を巻き起こしてしまうとは。彼女が巻いたアジサイの花が、いつしか立派なリンゴの木に育ってしまった。 

 その鞄がいかに大切なものか昌子が知った時には、すでに鞄は消えていた。愛子の女中が持ち逃げてしまったのだから。
 愛子の世話係は、もともと身元不明の女であった。愛子が越してきたときには、すでに住んでいたため、西洋風の家を建てた愛子の縁戚しか、女中の身分を知らない。推測ではあるのだけれど、その気の良い優しい顔が印象的な彼女でも、大金の魔力には勝てなかったのだろう。

 そして、リンゴが重力に耐えかねて落ちてしまうように、昌子も自分のしでかした重圧に負け、せめてもの罪の告白文だけを残して消えてしまったのだ。

 だが、すべてはもう遅い。
 すべてを知ったお栄の頬に、涙が一筋。

 その晩以降。浜辺、商店街、山奥など、青年団や町内会たちが熱海の隅々まで昌子を探したのだけれど、彼女を見つけることは二度と出来なかった。



 
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