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第七章 第四の復讐
26話 海
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「兄弟はいらっしゃるの?」
私は探るような目で尋ねた。
「妹が1人。乙葉さんは?」
「私には姉がいます。妹さんとは仲がいいの?」
「妹は5歳になったばかりなんです。父が若い女性と結婚したから、かなり歳が離れてるけど。」
「5歳でしたら、かなり可愛いでしょう?」
そう言うと、海斗は嬉しそうに頷いた。
「可愛くて仕方が無いです。兄弟が出来たってのも嬉しかったし、その上あいつは俺によく懐くから。」
「そう……」
私は黙り込んだ。
海斗をひっぱたきそうになってしまったから。
宙を殺した奴が憎い。
この感情を海斗に向けるのは八つ当たりに過ぎないから耐えた。
この憎しみは宙を殺した放火犯に向けるべきだ。
「タメ口で話しても?」
「ご自由に」
「良かった。今度また一緒に出かけたかったから」
「……どこに?」
「海はどう?丁度いい季節だろ。な、行こうよ」
タメ口を許す=心を許したと思ったのか、海斗は急に強気になった。
「いいわ。でも、行くなら妹さんを連れてきて」
「……え?」
「いきなり2人で海って少し嫌だわ。それに、妹さんに会ってみたいの。ダメかしら?」
「い、いや。分かった、いいよ。」
海斗は明らかにがっかりしていた。
私は意味深な笑みを浮かべ、皐月に連絡した。
1週間後。
私は皐月を車に待たせて、海斗の元へと向かった。
海斗の隣には、小さな女の子がいた。
「俺の妹。雪っていうんだ。」
「だあれ?」
雪は不思議そうに私を見上げた。
「私は乙葉っていうの。よろしくね。雪ちゃん」
「うん!」
雪は可愛らしい子だった。
ニコニコしていて、おねだり上手。あの江藤海斗が、5歳の女の子に振り回されている姿は中々面白い。
「おとはお姉ちゃん」
雪が私の傍にやってきた。
「どうしたの?」
「お姉ちゃんは、お兄ちゃんのお友達なの?とっても仲良しなの?」
「…そうなるかもしれないわね」
「そっか。」
雪はにっこりと笑った。
「じゃあ、これ、お姉ちゃんにあげるね」
雪がくれたのは薄紫の小さな貝殻だった。
「綺麗な色の貝ね。拾ったの?」
「うん!お姉ちゃんのこと好きだから、あげるの。雪はね、お兄ちゃんが好きな人、みんな好き!だからお姉ちゃんのこと好きなの。ねっ」
雪は海斗を見上げて笑った。
海斗は雪の頭を優しく撫でている。
その姿は、昔の私と宙に重なって見えた。
2人が私に背を向けた隙をついて、私は貝を持っていた手を開いた。
貝は私の手から滑り落ち、見知らぬ人に踏みつけられた。
その後、私達は海辺を探検した。
最初から思っていたが、この海は崖が多い。崖の下の波は穏やかだが、落ちれば高確率で死ぬだろう。
崖の上に着いた時、私の隣には雪しかいなかった。
海斗はまだ着いていない。
絶好のチャンスだ。
この機会を逃せば、もう後がない。
「ねえ、雪ちゃん」
「なあに?」
「死ぬって、どんな感じなんだろうね。痛いのかな、苦しいのかな、それとも、何も感じないのかな」
「お姉ちゃん、どうしたの?死ぬってなあに?」
「……いなくなることよ」
「いなくなるの?誰が?」
「さぁ、誰だろうね」
私はフッと笑みを浮かべて、雪を突き落とした。
雪の驚いたような、不思議そうな顔が遠ざかっていった。
今の私は、自分でも驚くほど冷たい目をしていることだろう。
私は探るような目で尋ねた。
「妹が1人。乙葉さんは?」
「私には姉がいます。妹さんとは仲がいいの?」
「妹は5歳になったばかりなんです。父が若い女性と結婚したから、かなり歳が離れてるけど。」
「5歳でしたら、かなり可愛いでしょう?」
そう言うと、海斗は嬉しそうに頷いた。
「可愛くて仕方が無いです。兄弟が出来たってのも嬉しかったし、その上あいつは俺によく懐くから。」
「そう……」
私は黙り込んだ。
海斗をひっぱたきそうになってしまったから。
宙を殺した奴が憎い。
この感情を海斗に向けるのは八つ当たりに過ぎないから耐えた。
この憎しみは宙を殺した放火犯に向けるべきだ。
「タメ口で話しても?」
「ご自由に」
「良かった。今度また一緒に出かけたかったから」
「……どこに?」
「海はどう?丁度いい季節だろ。な、行こうよ」
タメ口を許す=心を許したと思ったのか、海斗は急に強気になった。
「いいわ。でも、行くなら妹さんを連れてきて」
「……え?」
「いきなり2人で海って少し嫌だわ。それに、妹さんに会ってみたいの。ダメかしら?」
「い、いや。分かった、いいよ。」
海斗は明らかにがっかりしていた。
私は意味深な笑みを浮かべ、皐月に連絡した。
1週間後。
私は皐月を車に待たせて、海斗の元へと向かった。
海斗の隣には、小さな女の子がいた。
「俺の妹。雪っていうんだ。」
「だあれ?」
雪は不思議そうに私を見上げた。
「私は乙葉っていうの。よろしくね。雪ちゃん」
「うん!」
雪は可愛らしい子だった。
ニコニコしていて、おねだり上手。あの江藤海斗が、5歳の女の子に振り回されている姿は中々面白い。
「おとはお姉ちゃん」
雪が私の傍にやってきた。
「どうしたの?」
「お姉ちゃんは、お兄ちゃんのお友達なの?とっても仲良しなの?」
「…そうなるかもしれないわね」
「そっか。」
雪はにっこりと笑った。
「じゃあ、これ、お姉ちゃんにあげるね」
雪がくれたのは薄紫の小さな貝殻だった。
「綺麗な色の貝ね。拾ったの?」
「うん!お姉ちゃんのこと好きだから、あげるの。雪はね、お兄ちゃんが好きな人、みんな好き!だからお姉ちゃんのこと好きなの。ねっ」
雪は海斗を見上げて笑った。
海斗は雪の頭を優しく撫でている。
その姿は、昔の私と宙に重なって見えた。
2人が私に背を向けた隙をついて、私は貝を持っていた手を開いた。
貝は私の手から滑り落ち、見知らぬ人に踏みつけられた。
その後、私達は海辺を探検した。
最初から思っていたが、この海は崖が多い。崖の下の波は穏やかだが、落ちれば高確率で死ぬだろう。
崖の上に着いた時、私の隣には雪しかいなかった。
海斗はまだ着いていない。
絶好のチャンスだ。
この機会を逃せば、もう後がない。
「ねえ、雪ちゃん」
「なあに?」
「死ぬって、どんな感じなんだろうね。痛いのかな、苦しいのかな、それとも、何も感じないのかな」
「お姉ちゃん、どうしたの?死ぬってなあに?」
「……いなくなることよ」
「いなくなるの?誰が?」
「さぁ、誰だろうね」
私はフッと笑みを浮かべて、雪を突き落とした。
雪の驚いたような、不思議そうな顔が遠ざかっていった。
今の私は、自分でも驚くほど冷たい目をしていることだろう。
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