終わりのない悪夢~七つの復讐~

夢華彩音

文字の大きさ
上 下
25 / 28
第六章 第三の復讐

24話 黒谷健

しおりを挟む
私は毒薬を持ってケーキ屋へとやってきた。
ここは小さいながらも人気が高く、何より杠グループの傘下だ。私の頼みを断われるはずもない。
私は店長と話をした。
「これを黒谷健が予約した商品に入れて。娘が食べる方によ。分かった?」
「は、はい。……ですが、もしバレたら…」
「これは発症まで時間を有するように作らせた特注品よ。」
「しかし…」
「大丈夫、あなたの店に害が及ばないように手を回しておくから。」
「分かり、ました。」
「ありがとう。お願いしたわよ」
私はにっこりと微笑んだ。

これで今回の復讐は終わったも同然ね。
でも…このままだとあいつが嘆く様を見届けることができない。
あの毒が猛威を振るうのは、接種した五日後だ。 食べる日は明日だとわかっているから、当日見張るしかない…か。


屋敷に戻って休んでいると、黒谷健から電話がかかってきた。
「はい。杠乙葉です。」
『黒谷健です。娘がいつもお世話になっております。』
「こちらこそ。二葉ちゃんが懐いてくださって嬉しい限りです」
『あの、娘が誕生日にあなたを招待したいみたいで…。娘の誕生日はご存知ですか?』
「えぇ。明日でしたわね」
『はい。急なお誘いですが…』
「お誘いありがとうございます。ですが、明日は外せない用がありまして」
『そうですよね。すみません』
「二葉ちゃんに、ありがとうとお伝えください」
『はい。必ず』


「明日、行かれないのですか?用は特にないはずですが」
皐月は首をかしげた。
「行こうと思えば行けるわ。次にあいつに会うのは絶望して打ちのめされている時よ。それまでは会う必要がないもの」
「……」
皐月は何も言わなかった。おそらく、私の本心を察しているのだろう。

あいつに会う必要が無いのは事実。行ったところでメリットはない。二葉があのケーキを食べるのを待つだけだから。
私は二葉に会いたくないのだ。二葉がケーキを食べる。即ち自ら毒を体に入れるところを見なくてはならない。そう、私は自分でも驚くほど彼女に気を許していたのだ。
彼女を生かしたいと思ってしまう可能性を恐れていたから、会うことを拒んだ。

ダメだわ…私。いちいち悩んでいたら目的を達することなど出来ない。
もっと強くならなくては。




それから、五日後。
今日、二葉は死ぬ。
ニガクリタケの毒は腹痛、嘔吐、下痢から始まり酷い場合は脱水症状、痙攣、手足の麻痺、肝障害が起こり、最悪の場合死に至る。
脱水症状が出てくるのは重症の場合だが、ニガクリタケの毒だけを採取して作ったものだから死までそう時間はかからない。
私はメイクをせずに屋敷を出て、車を黒谷家の近くに止めさせた。
黒谷家の前に救急車が止まるのを、私は車の中から確認した。
「あの救急車について行きなさい」
「はい。」
運転手はアクセルを踏んだ。


着いたのは近くの市立病院。
私は二葉が死んだことを確認してから黒谷健に近づいた。健のそばには二葉が横たわっている。苦しそうな顔。死ぬ直前まで苦しみに支配されていたのだろう。
黒谷健は涙を流しながら項垂れている。
私は黒谷健に声をかけた。
「娘さん、残念だったね。」
「あんた……まさか、松川…優美」
「意外。教え子の顔と名前を覚えているなんて。」
「何故ここにいるんだ。街を出て死んだと聞いていたが」
「へー。私、死んだことになってたんだ。私はね、黒谷二葉の死に顔を見に来たの。そして、あんたのその顔を。涙でぐしゃぐしゃの醜い顔。」
黒谷健の顔色が変わった。
「お前が……二葉を、殺したのか」
「え?私が?何で?」
私は笑いながら言った。自分のなかで何かが壊れたのを感じた。
私を貶めた奴が、苦しんでいる。こんなに気持ちのいいものはない。
「何で私が殺したなんて思うの?ねえ、どうして?」
「お前……」
「あー。そっか。私に恨まれてる自覚あるんだ。」
「……」
「恨まれてるからって理由を口実に証拠もなく人を疑うなんて、 最低だから。」
「は?」

私はとびっきりの笑顔を見せた。
「あの日、あんたに言われたことをそのまま返しただけよ。」
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

勿忘草 ~記憶の呪い~

夢華彩音
ミステリー
私、安積織絵はとある学校に転入してくる。 実は彼女には記憶がない。その失われた記憶を取り戻すために手がかりを探していくのだが… 織絵が記憶をたどるほど複雑で悲しい出来事が待っているのだった。 勿忘草(ワスレナグサ)シリーズ第1弾 <挿絵 : パラソルさんに描いて頂きました> 《面白いと感じてくださったら是非お気に入り登録 又はコメントしてくださると嬉しいです。今後の励みになります》

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

このブラジャーは誰のもの?

本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。 保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。 誰が、一体、なんの為に。 この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

言霊の手記

かざみはら まなか
ミステリー
探偵は、中学一年生女子。 依頼人は、こっそりひっそりとSOSを出した女子中学生。 『ある公立中学校の校門前から中学一年生女子が消息をたった。 その中学校では、校門前に監視カメラをつける要望が生徒と保護者から相次いでいたが、周辺住民の反対で頓挫した。』 という旨が書いてある手記は。 私立中学校に通う中学一年生女子の大蔵奈美の手に渡った。 中学一年生の奈美は、同じく中学一年生の少女萃(すい)と透雲(とおも)と一緒に手記の謎を解き明かす。 人目を忍んで発信された、知らない中学校に通う女子中学生からのSOSだ。 奈美、萃、透雲は、助けを求めるSOSを出した女子中学生を助けると決めた。 奈美:私立中学校 萃:私立中学校 透雲:公立中学校 依頼人の女子中学生:公立中学校 中学一年生女子は、依頼人も探偵も、全員、別々の中学校に通っている。 それぞれ、家族関係で問題を抱えている。 手記にまつわる問題と中学一年生女子の家族の問題を軸に展開。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...