20 / 28
第五章 第二の復讐
19話 憧れ
しおりを挟む
小野真琴の死から1週間が過ぎた。
私は雨の中、吉崎千秋の後をつけていた。
千秋は久遠朱音に気に入られるために、私を積極的にいじめていた。千秋はお金持ちの娘に弱い。これを利用するつもりだ。
そう、私は千秋に話しかけるきっかけが訪れるのを待っているのだ。
その時。千秋が通行人とぶつかり、電車の定期券がポケットから落ちた。千秋はそれに全く気づいていない。
馬鹿な子。
さっきの通行人は私の執事。ぶつかる振りをしてポケットから定期券を抜き取らせたの。全て計画通りだわ。
私は何食わぬ顔で定期券を拾うと、千秋に声をかけた。
「これ、落としましたよ。」
「え?あ、ありがとうございます」
千秋は驚いて振り向き、ほっとした顔で笑った。
「よかった…。これが無かったら明日から困るところだったよ。ありがとう、拾ってくれて」
「いえ。けれど、折角の定期入れが濡れてしまって…」
「いいのいいの。乾かせば何とかなるだろうし。…ところで」
「はい?」
千秋は私をじっと眺めた。
「あなた、お嬢様でしょ?」
やっぱり、食いついてきたわね。
私は微笑した。
「そうでもないですよ」
「嘘。身につけているもの全部ブランドじゃん。ね、名前は?」
「杠乙葉と申します」
「うっそー!杠家って凄いところじゃん。乙葉さん、もし良かったらお礼させてもらえないかな?」
「え?私はただ拾っただけですよ。お礼だなんて…」
「いいから、家すぐそこなの。寄ってって」
千秋の家は、一般の家にしては大きな一軒家だった。
快く出迎えたのは千秋の父吉崎誠と、母の知代だ。千秋が2人に私のことを話すと、目を輝かせた。
蛙の子は蛙だわ。
知代は私に晩ご飯を振舞ってくれた。
「杠家のお嬢様には物足りないだろうけど、よかったら食べて」
「ご親切に感謝致します。優しいお母様ですね」
「あら、ありがとう。やっぱり何処ぞのお嬢様とは格が違うわ。」
「何処ぞのお嬢様…とは?」
「久遠家の一人娘。ご存知?」
「もちろん存じ上げております。お会いしたことは無いですが」
すると、横から千秋が割り込んできた。
「高校のクラスメイトだったの。クラスのリーダーってとこ。私は朱音のお気に入りだったってわけ」
「世渡りがお上手なのですね」
「まぁね。でも毎日大変よ?機嫌取らなきゃいけないし…。あ、でも朱音に目をつけられた馬鹿な奴がいたのよね。」
千秋のその言葉に、私は怒鳴りそうになるのをグッと押さえ込んだ。
「朱音さんとは、今でも仲が良いのですか?」
「全然。卒業以来会ってないんだ。連絡もつかないし」
「そうですか」
朱音にとって、千秋はただの家来でしかなかったようだ。これは都合がいい。
「ねぇ、この写真見てよ」
千秋が嬉しそうに写真を見せてきた。そこには千秋と男の人が写っている。
「彼氏さんですか?」
「うん。大手○○会社で働いててね、社長の次に偉いんだって言ってる。上手くいけば社長になるのも夢じゃないんだって」
「彼の、お名前は?」
「湯川知輝。湯川社長の息子よ」
「凄い方ですね。」
「でしょ?彼が社長になれば私はあなたと同じ位になる。だからあなたとは仲良くしたいのよ。ね、お願い。協力して」
私は千秋を冷たい目で見つめた。ここまで自分に正直なバカは初めてだわ。顔がいいことだけが取り柄ね。肌も手入れされているし、中身が伴っていれば良かったのに。
仕方ない。今だけは夢を見させてあげる。
「わかりました。あなたが彼とご結婚なさった時には優遇致しますわ」
私は雨の中、吉崎千秋の後をつけていた。
千秋は久遠朱音に気に入られるために、私を積極的にいじめていた。千秋はお金持ちの娘に弱い。これを利用するつもりだ。
そう、私は千秋に話しかけるきっかけが訪れるのを待っているのだ。
その時。千秋が通行人とぶつかり、電車の定期券がポケットから落ちた。千秋はそれに全く気づいていない。
馬鹿な子。
さっきの通行人は私の執事。ぶつかる振りをしてポケットから定期券を抜き取らせたの。全て計画通りだわ。
私は何食わぬ顔で定期券を拾うと、千秋に声をかけた。
「これ、落としましたよ。」
「え?あ、ありがとうございます」
千秋は驚いて振り向き、ほっとした顔で笑った。
「よかった…。これが無かったら明日から困るところだったよ。ありがとう、拾ってくれて」
「いえ。けれど、折角の定期入れが濡れてしまって…」
「いいのいいの。乾かせば何とかなるだろうし。…ところで」
「はい?」
千秋は私をじっと眺めた。
「あなた、お嬢様でしょ?」
やっぱり、食いついてきたわね。
私は微笑した。
「そうでもないですよ」
「嘘。身につけているもの全部ブランドじゃん。ね、名前は?」
「杠乙葉と申します」
「うっそー!杠家って凄いところじゃん。乙葉さん、もし良かったらお礼させてもらえないかな?」
「え?私はただ拾っただけですよ。お礼だなんて…」
「いいから、家すぐそこなの。寄ってって」
千秋の家は、一般の家にしては大きな一軒家だった。
快く出迎えたのは千秋の父吉崎誠と、母の知代だ。千秋が2人に私のことを話すと、目を輝かせた。
蛙の子は蛙だわ。
知代は私に晩ご飯を振舞ってくれた。
「杠家のお嬢様には物足りないだろうけど、よかったら食べて」
「ご親切に感謝致します。優しいお母様ですね」
「あら、ありがとう。やっぱり何処ぞのお嬢様とは格が違うわ。」
「何処ぞのお嬢様…とは?」
「久遠家の一人娘。ご存知?」
「もちろん存じ上げております。お会いしたことは無いですが」
すると、横から千秋が割り込んできた。
「高校のクラスメイトだったの。クラスのリーダーってとこ。私は朱音のお気に入りだったってわけ」
「世渡りがお上手なのですね」
「まぁね。でも毎日大変よ?機嫌取らなきゃいけないし…。あ、でも朱音に目をつけられた馬鹿な奴がいたのよね。」
千秋のその言葉に、私は怒鳴りそうになるのをグッと押さえ込んだ。
「朱音さんとは、今でも仲が良いのですか?」
「全然。卒業以来会ってないんだ。連絡もつかないし」
「そうですか」
朱音にとって、千秋はただの家来でしかなかったようだ。これは都合がいい。
「ねぇ、この写真見てよ」
千秋が嬉しそうに写真を見せてきた。そこには千秋と男の人が写っている。
「彼氏さんですか?」
「うん。大手○○会社で働いててね、社長の次に偉いんだって言ってる。上手くいけば社長になるのも夢じゃないんだって」
「彼の、お名前は?」
「湯川知輝。湯川社長の息子よ」
「凄い方ですね。」
「でしょ?彼が社長になれば私はあなたと同じ位になる。だからあなたとは仲良くしたいのよ。ね、お願い。協力して」
私は千秋を冷たい目で見つめた。ここまで自分に正直なバカは初めてだわ。顔がいいことだけが取り柄ね。肌も手入れされているし、中身が伴っていれば良かったのに。
仕方ない。今だけは夢を見させてあげる。
「わかりました。あなたが彼とご結婚なさった時には優遇致しますわ」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。
勿忘草 ~記憶の呪い~
夢華彩音
ミステリー
私、安積織絵はとある学校に転入してくる。 実は彼女には記憶がない。その失われた記憶を取り戻すために手がかりを探していくのだが…
織絵が記憶をたどるほど複雑で悲しい出来事が待っているのだった。
勿忘草(ワスレナグサ)シリーズ第1弾
<挿絵 : パラソルさんに描いて頂きました>
《面白いと感じてくださったら是非お気に入り登録 又はコメントしてくださると嬉しいです。今後の励みになります》
”その破片は君を貫いて僕に突き刺さった”
飲杉田楽
ミステリー
"ただ恋人に逢いに行こうとしただけなんだ"
高校三年生になったばかり東武仁は授業中に謎の崩落事故に巻き込まれる。街も悲惨な姿になり友人達も死亡。そんな最中今がチャンスだとばかり東武仁は『彼女』がいる隣町へ…
2話からは隣町へ彼女がいる理由、事故よりも優先される理由、彼女の正体、など、現在と交差しながら過去が明かされて行きます。
ある日…以下略。があって刀に貫かれた紫香楽 宵音とその破片が刺さった東武仁は体から刀が出せるようになり、かなり面倒な事件に巻き込まれる。二人は刀の力を使って解決していくが…
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
勿忘草 ~人形の涙~
夢華彩音
ミステリー
私、麻生明莉は村を治めている『麻生家』のお嬢様。
麻生家に生まれた者はその生涯を村に捧げなくてはならない。
“おきて”に縛り付けられている村。
「私は自由に生きたい。何も縛られずに、自分の心の向くまま。……それさえも許されないの?」
これは、抗うことの出来ない“役目”に振り回され続ける明莉の悲運な物語。
勿忘草(ワスレナグサ)シリーズ第2弾
<挿絵 : パラソルさんに描いて頂きました>
《面白いと感じてくださったら是非お気に入り登録 又はコメントしてくださると嬉しいです。今後の励みになります》
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
友よ、お前は何故死んだのか?
河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」
幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。
だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。
それは洋壱の死の報せであった。
朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。
悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
アンティークショップ幽現屋
鷹槻れん
ミステリー
不思議な物ばかりを商うアンティークショップ幽現屋(ゆうげんや)を舞台にしたオムニバス形式の短編集。
幽現屋を訪れたお客さんと、幽現屋で縁(えにし)を結ばれたアンティークグッズとの、ちょっぴり不思議なアレコレを描いたシリーズです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる