終わりのない悪夢～七つの復讐～

第三章 転機と誓い

15話 誓い

体調が良くなった私は、“姉”である杠 神楽に会った。
神楽は離れの屋敷に住んでいて、滅多にこちらには来ないらしい。


「貴女が妹の……ええっと、何だったかしら」
「乙葉です。…神楽様。」
「神楽様だなんて。堅苦しいこと。お姉様でよろしくてよ。貴女は私の妹、なのでしょう？」
神楽は楽しそうだった。

「えっと…。お姉様。よろしくお願いします。」
「えぇ。こちらこそ。乙葉と、お呼びしてもよろしくて？」
「勿論です」
「ふふっ。これからがとっても楽しみだわ。こんなに可愛い妹が出来るだなんて思っていなかったもの。」
神楽はそういうと、私の耳元で囁いた。

「貴女、杠家にぴったりですわ。だってこんなにも………ねぇ？」

私はゾッとして神楽から離れた。

この人には、逆らってはならない。

そう感じた。


「流石お父様ですこと。よく分かっていらっしゃる。」
神楽は笑って部屋を出ていった。




それからの私は、“完璧なお嬢様”になるための訓練をした。

話し方や仕草、歩き方、立ち姿、座り方、食べ方、自分の役割、対話術、付き合いのある家系の名前や特徴に至るまで。
毎日が忙しすぎて目が回りそうだったが、かえって良かった。
余計なことを考えずに済むから。

私は徐々に、完璧な“杠 乙葉”になりつつあった。







この生活を始めて早3年。
私はすっかり変わった。

ある日、私は神楽の部屋を訪れた。
私と神楽はすっかり打ち解け、一番の理解者になっていた。
神楽には私の過去を話していた。
恐れが消えた訳では無いが、神楽は割と親切で、何だかんだ面倒を見てくれている。

「ねぇ、乙葉。貴女はすっかり変わったわ。髪も伸びて、表情も声のトーンも、何もかも。」
「……そうかしら。今の私はお姉様の教育の賜物ではなくて？」
「私が貴女を変えたのは、あることをさせるためよ。」
「あること…？」
私が尋ねると、神楽は私をドレッサーの前に座らせた。

「乙葉。貴女、復讐してはどうかしら？」
「復讐…」
「そうよ。貴女を地獄に追いやった者達全てに。杠家という立場を使えば何だって許されるわ。そして貴女には、黒いオーラがある。全てを恨み、壊し、そして自分自身をも変えるオーラが。貴女に初めて会った日が忘れられないわ。あの時の負のオーラ。私の好奇心を刺激する……」

「私を貶めた者への復讐…。」

「化粧をするのよ。気づかれることの無いように。大丈夫。貴女は杠乙葉。もうあの頃とは違うの」
神楽は優しい声で囁きながら、私の髪を撫でた。

「私は……」

私は鏡の中に映る自分を見つめた。



私は生まれ変わる。
全くの別人として。
その先にあるものは………終わりのない“復讐”だ。