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第三章 転機と誓い
14話 杠 乙葉
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私はゆっくりと目を開いた。
暖かい部屋。豪華な装飾。パチパチと音のする暖炉。
夢の中にいるみたいだった。
私はゆっくりと体を起こした。
「私…。どうして生きてるの?」
その時。
部屋の扉が開き、一人の女性が入ってきた。
「あぁ、お目覚めでしたか。ゆっくり休めましたか?」
「は、はい。あの…ここは?」
「杠家の一室でございます。」
「あかなし、家…」
名前だけは聞いたことがある。
確か、数多くの会社を持つ大金持ちで、冷たい一族と噂されている。
「私、死んだはずなのに…」
そう言うと、女性が教えてくれた。
「ご主人様が、倒れているところを見つけて連れてこられたのです。」
「ご主人様?」
「申し遅れました。私、杠家の使用人の小倉皐月と申します」
私が返事をしようと口を開くと、男性が部屋に入ってきた。
「起きていたのか。」
「ご主人様。お早いご帰宅で。」
皐月は軽く頭を下げた。
「君、名前は?」
ご主人様と呼ばれた男性が、私に声をかけた。
「松川優美です」
「そうか。私は杠 竜吾。この家の主だ。」
「あの、助けていただきありがとうございます。…ですが、何故?」
竜吾はベッドの近くにある1人がけのソファーに腰掛けた。
「君は、杠家の養女になる気はないかね?」
「私が…?」
「あの様子だと、行くあてもないのだろう?」
「そうですが…どうして私を養女に?」
「私には娘が一人いる。だが、あの子は人前に出るのを嫌がるんだ。娘は人の負のオーラを感じとってしまう体質でね、付き合いのある名家との集まりなんかは負のオーラが酷いそうだ。だから娘の代わりに杠家の娘としての仕事をこなす者が必要でな。妻は他界しているから養女を迎えたいと思っていたのだよ。だが、孤児院には私の娘に似合いそうな者がいなかった。そんな時、君が倒れている所を見つけたんだ。君はいいよ。何があったのかは知らないが、人を寄せ付けまいとする何かを持っている。他人に流されず、守るために時に何かを捨てることのできる人間。私はそれを探していたんだ。」
「守るために何かを捨てる…」
私は竜吾の言葉を繰り返した。
「娘としての役目を果たしさえすれば、何をしてもいい。そこにいる使用人を君につけるから、何かあれば遠慮なく言うといい。お金ならいくらでもあるからね。返事は今すぐで無くともいい」
「考えるまでもないですよ…」
私は言った。
私は、全てを捨てる。
“松川優美”という人間は、今ここで死んだ。
「お願いします。養女にしてください」
私がそう言うと、竜吾は楽しそうに笑った。
「良い返事だ。今日よりお前は私の娘。“杠 乙葉”だ。」
私は生まれ変わる。
全くの別人として。
もう、惨めな私はどこにもいない。
暖かい部屋。豪華な装飾。パチパチと音のする暖炉。
夢の中にいるみたいだった。
私はゆっくりと体を起こした。
「私…。どうして生きてるの?」
その時。
部屋の扉が開き、一人の女性が入ってきた。
「あぁ、お目覚めでしたか。ゆっくり休めましたか?」
「は、はい。あの…ここは?」
「杠家の一室でございます。」
「あかなし、家…」
名前だけは聞いたことがある。
確か、数多くの会社を持つ大金持ちで、冷たい一族と噂されている。
「私、死んだはずなのに…」
そう言うと、女性が教えてくれた。
「ご主人様が、倒れているところを見つけて連れてこられたのです。」
「ご主人様?」
「申し遅れました。私、杠家の使用人の小倉皐月と申します」
私が返事をしようと口を開くと、男性が部屋に入ってきた。
「起きていたのか。」
「ご主人様。お早いご帰宅で。」
皐月は軽く頭を下げた。
「君、名前は?」
ご主人様と呼ばれた男性が、私に声をかけた。
「松川優美です」
「そうか。私は杠 竜吾。この家の主だ。」
「あの、助けていただきありがとうございます。…ですが、何故?」
竜吾はベッドの近くにある1人がけのソファーに腰掛けた。
「君は、杠家の養女になる気はないかね?」
「私が…?」
「あの様子だと、行くあてもないのだろう?」
「そうですが…どうして私を養女に?」
「私には娘が一人いる。だが、あの子は人前に出るのを嫌がるんだ。娘は人の負のオーラを感じとってしまう体質でね、付き合いのある名家との集まりなんかは負のオーラが酷いそうだ。だから娘の代わりに杠家の娘としての仕事をこなす者が必要でな。妻は他界しているから養女を迎えたいと思っていたのだよ。だが、孤児院には私の娘に似合いそうな者がいなかった。そんな時、君が倒れている所を見つけたんだ。君はいいよ。何があったのかは知らないが、人を寄せ付けまいとする何かを持っている。他人に流されず、守るために時に何かを捨てることのできる人間。私はそれを探していたんだ。」
「守るために何かを捨てる…」
私は竜吾の言葉を繰り返した。
「娘としての役目を果たしさえすれば、何をしてもいい。そこにいる使用人を君につけるから、何かあれば遠慮なく言うといい。お金ならいくらでもあるからね。返事は今すぐで無くともいい」
「考えるまでもないですよ…」
私は言った。
私は、全てを捨てる。
“松川優美”という人間は、今ここで死んだ。
「お願いします。養女にしてください」
私がそう言うと、竜吾は楽しそうに笑った。
「良い返事だ。今日よりお前は私の娘。“杠 乙葉”だ。」
私は生まれ変わる。
全くの別人として。
もう、惨めな私はどこにもいない。
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