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第二章 狂いと絶望
12話 絶望
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燃えていたのは私の家だった。
「お母さんっ。どうしたらいいの!? ねぇ、お母さん!」
私は小百合を見上げて叫んだ。
消防署に連絡を入れたけど、すぐに到着する訳では無い。
小百合には、私の言葉は届いていなかった。
「中に……宙が、お父さんがいるのよ…まだ、中に!」
そう言うや否や、小百合は燃えている家に向かって走り出した。
近所に住む人々の静止を振り払って。
「お母さんっ!!待って、お母さん!」
私は小百合を追いかけようとしたが、近くにいた老人に止められた。
「馬鹿野郎!あんた死ぬ気か!?気持ちは分かるが自分の命を粗末にしちゃいかん」
「お母さんが行っちゃったのよ!私を置いて!」
私は老人の手を振りほどいたが、小百合のように火の中に入る勇気は無かった。
「お父さん!お母さん!宙!!」
私は、ずっと叫んでいた。
ずっと。
ずっと……。
翌朝、家族の死が伝えられた。
洋太と小百合は真っ黒で、顔が分からないほどだったが、宙だけは比較的綺麗だった。
消防署の人によると、
「君のお父さんは、宙君を守るようにして亡くなっていたんだ。」
「お母さんは…」
「廊下で発見された。2人の元にたどり着けなかったようで、手を伸ばしていたんだ」
私は横たわる家族の姿をじっと見つめた。
涙すら出なかった。
私は親戚の家に引き取られることになった。
「優美ちゃん。これからよろしくね。辛くても、頑張ってかないと。優美ちゃんがいつまでもそのままだとご家族が悲しむわよ」
葬式の後、引き取り先の女性にそう言われた。
親戚といっても、遠いから話したこともなかったし、会ったこともなかった。
彼女の言葉は優しかったが、目は笑っていなかった。
私のことを快く思っている訳では無いことは明らかだった。
その日、私は銀行に預けていた自分のお金を引き出した。
一時期アルバイトをしていたから少しは溜まっていた。
家で日持ちのするお菓子やパンを取り出すと、リビングをそっと覗いた。
親戚の家は遠いので、今日は空いているアパートに特別に泊まれることになっているのだ。
父親、母親、その娘2人が楽しそうにテレビを見ている。
私は目を細めた。
今の私には…眩しすぎる。
私は何も言わずに家を出ると、自分の家を見に行った。
焼け残ったのはボロボロの骨組みだけ。
全て焼け落ちていた。
私は立ち入り禁止と書かれているのを無視して、家の敷地に足を踏み入れた。
自分の部屋だった場所には、勉強机だけは燃え尽きずにその形を保っていた。
真っ黒な机の引き出しを開けると、引き出しは形を保つ力を失ってバラバラになって私の手から滑り落ちた。
中身は所々燃えていない部分はあるものの、殆どが黒かった。
その中に、大切なものがあった。
そう、四つ葉のストラップだ。
「良かった…。燃えてない」
煤で覆われていただけで、四つ葉のストラップは残っていた。
私が見つけるのを待っていたかのように。
汚れてはいるが、洗えばまた綺麗になるだろう。
私はストラップをポケットに入れた。
そして、どこにも立ち寄ることなく街を出た。
もう、振り返る気は無い。
もう、ここには戻らない。
「お母さんっ。どうしたらいいの!? ねぇ、お母さん!」
私は小百合を見上げて叫んだ。
消防署に連絡を入れたけど、すぐに到着する訳では無い。
小百合には、私の言葉は届いていなかった。
「中に……宙が、お父さんがいるのよ…まだ、中に!」
そう言うや否や、小百合は燃えている家に向かって走り出した。
近所に住む人々の静止を振り払って。
「お母さんっ!!待って、お母さん!」
私は小百合を追いかけようとしたが、近くにいた老人に止められた。
「馬鹿野郎!あんた死ぬ気か!?気持ちは分かるが自分の命を粗末にしちゃいかん」
「お母さんが行っちゃったのよ!私を置いて!」
私は老人の手を振りほどいたが、小百合のように火の中に入る勇気は無かった。
「お父さん!お母さん!宙!!」
私は、ずっと叫んでいた。
ずっと。
ずっと……。
翌朝、家族の死が伝えられた。
洋太と小百合は真っ黒で、顔が分からないほどだったが、宙だけは比較的綺麗だった。
消防署の人によると、
「君のお父さんは、宙君を守るようにして亡くなっていたんだ。」
「お母さんは…」
「廊下で発見された。2人の元にたどり着けなかったようで、手を伸ばしていたんだ」
私は横たわる家族の姿をじっと見つめた。
涙すら出なかった。
私は親戚の家に引き取られることになった。
「優美ちゃん。これからよろしくね。辛くても、頑張ってかないと。優美ちゃんがいつまでもそのままだとご家族が悲しむわよ」
葬式の後、引き取り先の女性にそう言われた。
親戚といっても、遠いから話したこともなかったし、会ったこともなかった。
彼女の言葉は優しかったが、目は笑っていなかった。
私のことを快く思っている訳では無いことは明らかだった。
その日、私は銀行に預けていた自分のお金を引き出した。
一時期アルバイトをしていたから少しは溜まっていた。
家で日持ちのするお菓子やパンを取り出すと、リビングをそっと覗いた。
親戚の家は遠いので、今日は空いているアパートに特別に泊まれることになっているのだ。
父親、母親、その娘2人が楽しそうにテレビを見ている。
私は目を細めた。
今の私には…眩しすぎる。
私は何も言わずに家を出ると、自分の家を見に行った。
焼け残ったのはボロボロの骨組みだけ。
全て焼け落ちていた。
私は立ち入り禁止と書かれているのを無視して、家の敷地に足を踏み入れた。
自分の部屋だった場所には、勉強机だけは燃え尽きずにその形を保っていた。
真っ黒な机の引き出しを開けると、引き出しは形を保つ力を失ってバラバラになって私の手から滑り落ちた。
中身は所々燃えていない部分はあるものの、殆どが黒かった。
その中に、大切なものがあった。
そう、四つ葉のストラップだ。
「良かった…。燃えてない」
煤で覆われていただけで、四つ葉のストラップは残っていた。
私が見つけるのを待っていたかのように。
汚れてはいるが、洗えばまた綺麗になるだろう。
私はストラップをポケットに入れた。
そして、どこにも立ち寄ることなく街を出た。
もう、振り返る気は無い。
もう、ここには戻らない。
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