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第一章 幸せな日常
3話 名前の由来
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美雪が帰った後、家族で晩ご飯を食べた。
「優美。もう学校ではいじめられてない?」
と、母親の小百合が心配そうに聞いた。
「大丈夫だってば。それ何回聞くのよ」
私は笑顔で答えた。
過去にいじめられていたから、小百合はことある事に確認してくるのだ。
嬉しい反面、少し煩わしく思う自分もいた。
「大丈夫。朱音とまた同じクラスだけど、今は美雪ちゃんや杏がいてくれるから。」
私は自分に言い聞かせるように言った。
心の奥では恐れているのかもしれない。
「そう言えば、あなたの名前の由来を話したことが無かったわね」
小百合は目を細めて私を見つめた。
「言われてみれば。でも、何となく分かる気がする」
「そうね。……優しくて、心が美しい人になるように。それがあなたの名前よ。」
「私の…名前」
父の洋太も笑顔で頷いている。
「名前負けしてない?私、いじめられるような人間だよ」
「なんて事言うの。元気に生まれてきて、素直に育ってくれるだけで十分よ。優美。あなたは私達の自慢よ。ね?あなた」
「あぁ。その名前に恥じない生き方をしなさい」
洋太と小百合は、私に微笑みかけた。
私は、両親の愛情を実感しつつ、幸せな今を噛み締めた。
「ねーえ。僕は?僕の名前は?」
突然宙が割り込んできた。
「なぁに宙。構ってもらえなくてさみしかったの?」
小百合が宙の口についた汚れをタオルで拭った。
「ちがうよ。僕の“ゆらい”ってやつは?」
「宙は、この広い空のように心の広い子に育ってほしいから付けたのよ。宙はまだ小さいから、もっと大きくなったらちゃんと言うわね」
「うんっ!」
宙は満面の笑みを浮かべた。
私は小百合と顔を見合わせて、プッと吹き出した。
翌朝。
下駄箱で靴を取り出していると、後ろから声をかけられた。
「おはよう。松川」
「えっ?あ、おはよう」
声の主に気づいた私はギクシャクしながら返事した。
振り向くと、予想通り海斗だった。
「松川はいつもこの時間に来てるのか?」
「う、うん。ギリギリに着くのはちょっと不安で」
「すごいな。俺なんか少しでも寝ていたいって思うのに」
「今日は早いね。どうしたの?」
「昨日、課題持って帰るのを忘れてたんだ。黒谷先生は提出物に厳しいから」
黒谷先生は私のクラスの担任だ。
生徒の贔屓が露骨だから、人気はない。
「大変だね。頑張って」
「ありがと」
海斗は笑って校舎の中に入っていった。
私はドキドキする心臓に手を乗せた。
すると、近くでひそひそ話が聞こえてきた。
「朝からやりますなー。優美。」
「ほんと。ねぇ、見た?優美の顔」
「見た見た。少女マンガのヒロインみたいだったね」
「そのまま一緒に教室に行けばよかったのに」
私は呆れてその声がする方に近づいた。
「ちょっと美雪ちゃん。杏。覗き見はやめてよー」
「あれ?バレてた?」
「いいじゃん。恋する女の子は可愛いねー。」
「ほんとにやめてってば~」
私は顔を真っ赤にして2人に飛びついた。
美雪は私の頭を撫でて言った。
「話せてよかったね」
「………うん」
私は素直に頷いた。
「優美。もう学校ではいじめられてない?」
と、母親の小百合が心配そうに聞いた。
「大丈夫だってば。それ何回聞くのよ」
私は笑顔で答えた。
過去にいじめられていたから、小百合はことある事に確認してくるのだ。
嬉しい反面、少し煩わしく思う自分もいた。
「大丈夫。朱音とまた同じクラスだけど、今は美雪ちゃんや杏がいてくれるから。」
私は自分に言い聞かせるように言った。
心の奥では恐れているのかもしれない。
「そう言えば、あなたの名前の由来を話したことが無かったわね」
小百合は目を細めて私を見つめた。
「言われてみれば。でも、何となく分かる気がする」
「そうね。……優しくて、心が美しい人になるように。それがあなたの名前よ。」
「私の…名前」
父の洋太も笑顔で頷いている。
「名前負けしてない?私、いじめられるような人間だよ」
「なんて事言うの。元気に生まれてきて、素直に育ってくれるだけで十分よ。優美。あなたは私達の自慢よ。ね?あなた」
「あぁ。その名前に恥じない生き方をしなさい」
洋太と小百合は、私に微笑みかけた。
私は、両親の愛情を実感しつつ、幸せな今を噛み締めた。
「ねーえ。僕は?僕の名前は?」
突然宙が割り込んできた。
「なぁに宙。構ってもらえなくてさみしかったの?」
小百合が宙の口についた汚れをタオルで拭った。
「ちがうよ。僕の“ゆらい”ってやつは?」
「宙は、この広い空のように心の広い子に育ってほしいから付けたのよ。宙はまだ小さいから、もっと大きくなったらちゃんと言うわね」
「うんっ!」
宙は満面の笑みを浮かべた。
私は小百合と顔を見合わせて、プッと吹き出した。
翌朝。
下駄箱で靴を取り出していると、後ろから声をかけられた。
「おはよう。松川」
「えっ?あ、おはよう」
声の主に気づいた私はギクシャクしながら返事した。
振り向くと、予想通り海斗だった。
「松川はいつもこの時間に来てるのか?」
「う、うん。ギリギリに着くのはちょっと不安で」
「すごいな。俺なんか少しでも寝ていたいって思うのに」
「今日は早いね。どうしたの?」
「昨日、課題持って帰るのを忘れてたんだ。黒谷先生は提出物に厳しいから」
黒谷先生は私のクラスの担任だ。
生徒の贔屓が露骨だから、人気はない。
「大変だね。頑張って」
「ありがと」
海斗は笑って校舎の中に入っていった。
私はドキドキする心臓に手を乗せた。
すると、近くでひそひそ話が聞こえてきた。
「朝からやりますなー。優美。」
「ほんと。ねぇ、見た?優美の顔」
「見た見た。少女マンガのヒロインみたいだったね」
「そのまま一緒に教室に行けばよかったのに」
私は呆れてその声がする方に近づいた。
「ちょっと美雪ちゃん。杏。覗き見はやめてよー」
「あれ?バレてた?」
「いいじゃん。恋する女の子は可愛いねー。」
「ほんとにやめてってば~」
私は顔を真っ赤にして2人に飛びついた。
美雪は私の頭を撫でて言った。
「話せてよかったね」
「………うん」
私は素直に頷いた。
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