勿忘草 ～人形の涙～

第五章 麻生明梨

～世界2～

私達はしばらく使われていない古びた家で眠った。
初めての体験でどきどきしていて全く眠れない。

寝る前に裕と少しだけ話をした。

１日でなるべく沢山の所に行きたいと言うと、裕は困った顔をして笑っていた。
一気には無理だな。何日かあればよかったんだが…と言っていた。
私も本当なら何日も遊んでみたい。
けれど…お父様と雪を困らせてしまう。
私は裕に、麻生家のことは伏せて自分のことを話した。そして、自由になりたいということも。
裕も同じ気持ちらしく、だからこそああしてよく規則を破っているらしい。
私も本当に自由になりたいならそれくらいするだろうに。何故かできなかった。今までずっと。
それはやっぱり私の行いで村が変わるということもあるし、父や雪に迷惑をかけたくないというのもある。

だけど本当は……怖かったんだと思う。
だって家から１歩でも出たらそこはもう知らない世界。
知ってる人もいないし、ましてや助けてくれる人なんてもちろんいない。
だからこうして裕に会えたことは本当に幸運だ。
たまたまあそこで出会って、たまたま同じ考えを持った人がいてくれる。

全てたまたま。嬉しい偶然だ。
初めてできた友達と呼べる人。

友達。か…

そう思っていいよね？


そんなことを考えているうちに、私は深い眠りにおちていった。





翌朝、まだ日が昇りきっていないうちに出かけることにした。
遊びに行くよりもまず先に人に見つからずに村を出ないことには話にならない。
「６時になると明かりがつくから急がないとな。音を立てるなよ」
裕が小声で言った。
「分かってる。見つかるとまずいもん」
私はそーっと裕について歩き出す。

やっと…求めていた夢が叶うのか…
後に、私達は今日の体験を後悔することになる。


そして、今日のこの出会いが2人の運命を大きく変えてしまうことになるとは……



－第五章 完－