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第三章 麻生明梨
~人形2~
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部屋に戻ってから、私は自分の話をした。
母が死んだこと、父はいつも優しいこと、
それから1人でいるのが嫌でよくいたずらをすること。
雪はほとんど表情を変えなかったが、ずっと話を聞いてくれた。
「私はね、今までずっと家から出たことがないの。それがルールなんだって。何でだろうね」
「村を守るため。ですよ」
「雪はやくめって知ってるの?」
「はい。お嬢様がこれから何をすべきなのかも知っております。しかし…今はまだ話すことができません。あなた様が大人になっていくにつれて少しずつお話し致します。」
「私がまだ、こどもだから?」
そう尋ねると、少し間をおいてから雪は頷いた。
そして言った。
「お嬢様は、どう思われますか?」
「何が?」
「家から出られないことや、自分の生き方を全て決められてしまうこと。お嬢様は受け入れておられるのですか?」
「どうだろう。あんまり分からない…かな。でも嘘はつきたくないの。だから嫌なら嫌だって言うし…それにね、お母様に言われたの。心の中では自由でいなさいって」
「そう……ですか」
無表情な雪が少し笑ったように感じた。
「雪は?」
「わたしですか?」
「うん。だって村の人達もいろいろ決められてるんでしょ」
「そうですね…わたしは村のおきてが嫌いです。嫌いだけど、結局何も出来ませんでした。捨てることも、変えることも」
雪の顔が少し曇ったように見える。
私は気になっていたことを聞いてみた。
「雪は…村の外に出たことある?」
「出たことはありませんよ。最も、出る勇気がなかっただけですが」
「じゃあ、もし私が村から出てみたいって言ったら?」
「時と場合によりますね。ただ、出てみたいという気持ちをお嬢様が持っておられることは嬉しいですが」
楽しそうに言う雪を見ていると、自然と私も笑顔になる。
「今までは私が外の話をしたりするとね、怒り出す人や変なことを考えちゃだめだって言う人しかいなかったの」
「そうでしょうね。みんな村を信じているから」
「だから、雪が私と同じで嬉しい」
「同じ…なのでしょうか…」
「同じだよ」
「そう…ですね」
雪の言葉に、私はなんだか嬉しくなった。
「雪のこと、友達だと思ってもいい?」
「…思う分には…まぁ」
「やった!じゃあ、お嬢様じゃなくて名前で呼んでよ」
「それはいけません。お父上に叱られてしまいます」
「えー。じゃあ2人のときだけでいいから?ね、だめ?」
「………仕方ありませんね。では、明梨様で」
「えぇー。」
「こればかりは無理ですよ。分かって下さいませ」
「……分かった。いーよ」
「ありがとうございます」
ほんの少しだが表情が変わる雪を見るのが楽しかった。
これからは一人ぼっちじゃないね。
メイもいるし。
今日から毎日メイと一緒に寝よう。
一つずつ楽しみが増えていった。
-第三章 完-
母が死んだこと、父はいつも優しいこと、
それから1人でいるのが嫌でよくいたずらをすること。
雪はほとんど表情を変えなかったが、ずっと話を聞いてくれた。
「私はね、今までずっと家から出たことがないの。それがルールなんだって。何でだろうね」
「村を守るため。ですよ」
「雪はやくめって知ってるの?」
「はい。お嬢様がこれから何をすべきなのかも知っております。しかし…今はまだ話すことができません。あなた様が大人になっていくにつれて少しずつお話し致します。」
「私がまだ、こどもだから?」
そう尋ねると、少し間をおいてから雪は頷いた。
そして言った。
「お嬢様は、どう思われますか?」
「何が?」
「家から出られないことや、自分の生き方を全て決められてしまうこと。お嬢様は受け入れておられるのですか?」
「どうだろう。あんまり分からない…かな。でも嘘はつきたくないの。だから嫌なら嫌だって言うし…それにね、お母様に言われたの。心の中では自由でいなさいって」
「そう……ですか」
無表情な雪が少し笑ったように感じた。
「雪は?」
「わたしですか?」
「うん。だって村の人達もいろいろ決められてるんでしょ」
「そうですね…わたしは村のおきてが嫌いです。嫌いだけど、結局何も出来ませんでした。捨てることも、変えることも」
雪の顔が少し曇ったように見える。
私は気になっていたことを聞いてみた。
「雪は…村の外に出たことある?」
「出たことはありませんよ。最も、出る勇気がなかっただけですが」
「じゃあ、もし私が村から出てみたいって言ったら?」
「時と場合によりますね。ただ、出てみたいという気持ちをお嬢様が持っておられることは嬉しいですが」
楽しそうに言う雪を見ていると、自然と私も笑顔になる。
「今までは私が外の話をしたりするとね、怒り出す人や変なことを考えちゃだめだって言う人しかいなかったの」
「そうでしょうね。みんな村を信じているから」
「だから、雪が私と同じで嬉しい」
「同じ…なのでしょうか…」
「同じだよ」
「そう…ですね」
雪の言葉に、私はなんだか嬉しくなった。
「雪のこと、友達だと思ってもいい?」
「…思う分には…まぁ」
「やった!じゃあ、お嬢様じゃなくて名前で呼んでよ」
「それはいけません。お父上に叱られてしまいます」
「えー。じゃあ2人のときだけでいいから?ね、だめ?」
「………仕方ありませんね。では、明梨様で」
「えぇー。」
「こればかりは無理ですよ。分かって下さいませ」
「……分かった。いーよ」
「ありがとうございます」
ほんの少しだが表情が変わる雪を見るのが楽しかった。
これからは一人ぼっちじゃないね。
メイもいるし。
今日から毎日メイと一緒に寝よう。
一つずつ楽しみが増えていった。
-第三章 完-
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