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第一章 ソレイユ地区 “始まり”

3話 兄弟

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「ミネ。久しぶり」
グラセはにっこりと笑った。
「どうして?ソレイユに来るなんて…珍しいね」
「ちょっと用があって。」
「そっか…」
ミネはグラセと、その隣にいるプランツェを交互に見上げた。


プランツェとグラセは双子の兄弟で、ヤヌアール地区で暮らしている。
かつて私がヤヌアール地区に訪れた時に出会い、以来大切な友人だ。
2人は私のことをよく理解してくれている。


「ねぇ。今日の宿は決まったの?良かったら泊まっていってよ。この時間はどこも空いてないだろうし」
「いや……今日はちょっと…」
グラセが苦笑いを浮かべて言葉を濁すと、プランツェが口を開いた。
「泊まる所はもう決まったんだ。せっかく誘ってもらったのに……悪い」
「あ…そっか。決まってたんだ。なら仕方ないね。」
ミネは慌てて笑顔を作った。
「いつまでソレイユにいるの?」
「明日には帰るつもりだ。」
「そんなに早く…?」
「最近忙しくて。ほんと、ごめん」
「じゃあ、今度私がヤヌアールに行くね。そしたら会えるでしょ?」
「……あぁ」
プランツェは寂しげな笑顔で答えた。

ふと、ミネは黙り込んだ。
「どうかしたの?」
グラセは優しく問いかけた。
「え?あ、その……」
「ん?」
「実は……ね」
そう言って、ミネは両親のことを2人に話した。





「そっか……」
ミネが話し終えると、グラセは大きく息をついた。
「今まで、なんの疑問もなく過ごしてきたから思わず飛び出してきちゃったの」
「……ミネは、両親のこと好き?」
「………うん。大好き。」
「それなら何も問題ないじゃん。血の繋がりだけが全てじゃないよ」
「…そうだね」
私が小さな声で返事をすると、黙って聞いていたプランツェが言った。
「なぁミネ。お前さ……実の両親を探してみたいと思わないか?」
「…え?」
「いつかお前に話しただろ。俺達の親のこと」
「うん」

プランツェとグラセの両親は酒癖がひどく、遊んでばかりだった。挙句の果てには2人に手をあげるほどらしい。

「この生活から逃げたいのと、広い世界を見に行ってみたくて……だから俺達は旅に出ることにしたんだ」
「旅…」
「今日ソレイユに来たのはその準備のためなんだ。…お前さえ良ければ、一緒に行かないか?」
「え。私も?」
「あぁ。お前がいてくれると助かるんだ。」
「…私のマギアを当てにしてるでしょ?」
「バレたか」
プランツェは意地悪っぽく笑った。
「調子いいんだから…」

ミネはため息をつき、再び口を開いた。
「返事は…少し待ってもらえる?私だけじゃ決められないもん」
「もちろん。俺達は一週間後に行く予定なんだ。その日に一旦ソレイユに寄るよ。一緒に行く気になったら荷物をまとめて来てくれるか?」
「……分かった。」


ミネは2人と別れてから人気の少ない道を歩いた。

旅……か。
そんなこと、考えたこともなかった。
ただ毎日毎日人の目を避けて、働いて、貧しい家で暮らして…
それが私の全てだった。

けれど…他の地区なら?
もしかしたら…私が猫だと知らない人がいるかもしれない。


ミネはそっと呟いた。
『ドュンケル』

すると、辺り一面が真っ暗な闇で覆われた。
夜景とはまた違い、完全な“黒”の世界ー。

「こんな力、無くなってしまえばいいのに。」
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