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第四章 マルス地区“寅”

13話 ファン

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ミネ達はセプタンブル地区の端にある大橋にやってきた。この橋を渡るとマルス地区に行くことができる。
「マルス地区にいる友達が待っていてくれてるわ。私達のためにわざわざ休みを取ってくれたの。あの子ったら、私が相談があると言っただけなのにそこまでしてくれたのよ」
グノンは嬉しそうだ。仲のいい友達らしい。
「どんな子なの?」
ミネが聞くと、グノンは少し考えてから言った。
「会ってからのお楽しみよ。……もしかしたら、ミネちゃんも知ってるかもしれないわ」
ミネはグラセと顔を見合わせて首をかしげた。

すると、グノンは思い出したように口を開いた。
「あ。言い忘れてたけど、これから会う子も十二支よ。」
「えっ?」
「十二支同士ってね、みんながみんな他人ではないのよ。1人ずつ声をかければ全員に会うことだって夢じゃないわ」
「その子の動物は?」
「寅。」
「と、とらぁ?」
ミネは声を上げた。
「何よ。ミネってば大声出しちゃって。寅なんて猫と似たようなものじゃない」
ラピヌは呆れて言った。
「で、でも…」
ミネは少し怖くなった。グノンは笑っている。
「動物に先入観を持たない方がいいわよ。ほら、ラピヌを見てごらんなさい。うさぎのような可愛げがないでしょ?」
「ちょっとお姉様、少し失礼ではなくって?」
「だって…1人で先々行動するし、人の話聞かないし、強いと聞けばすぐに勝負ふっかけるし。」
「あーもう!自分の短所くらい分かっていてよ。お姉様だって研究に没頭するとおかしくなるじゃない」
グノンとラピヌのじゃれ合いが始まった。
ミネはそんな2人を羨ましく思いつつ、大橋を渡った。



くだらない会話を楽しみながら(主にラピヌが1人で喋っていた)歩いていると、橋の終わりが見えた。
「どこにいるかしら…」
「お姉様、私が探してきましょうか?走ることには自身がありますの。」
「必要ないわ。あなたが行くと騒がしいからバレてしまうでしょ」
「ちょっと…!」

あー。また始まった。
ミネはそっとラピヌに囁いた。
「ね。ラピヌも知ってる子なの?」
「え?…あぁ。知ってるわよ。そうねー。私とは正反対ってところかしら」
「正反対…?」
ミネがそう呟くと、グノンが笑顔で言った。
「ほら。あそこにいるわ。さ、行きましょ」
グノンの指さす方向に目をやると、1人の女の子が手を振っていた。

彼女の姿を見た途端、ミネは大声を出しそうになった。
「えっ!か、彼女ってまさか……」
ミネは寸前のところで声を上げるのを我慢し、グノンを見上げた。
「そうよ。モデルのティーグル。よく知ってるでしょ?」
「知ってるも何も、大ファンだよ!」

ティーグルと言えば、低身長を生かした着ぐるみやガーリースタイルを着こなす大人気モデルだ。ツインテールがチャームポイントで、おどおどした可愛らしい姿が人気だ。

ティーグルはミネ達の側までやってくると、可愛い微笑みを浮かべた。
「皆さん。初めまして。十二支“寅”のティーグルです。えっと。その…。そ、相談に乗れるかどうか分からないんだけど、どうぞよろしくお願いします!」
あらかじめ考えていた台詞だったのか、言いきった喜びが顔に出ている。いわゆるドヤ顔だった。


人に見つかるとまずいということで、ティーグルのマネージャーが用意していたバスに乗り込んだ。
その中で、ミネはティーグルに事情を話した。ティーグルにファンだと伝えた事、緊張しすぎて話が飛びまくっていたことは言うまでもない。
ミネの話を聞き終えたティーグルは、ぱあっと顔を輝かせた。

「私のお友達がね、国王陛下と面識があるって言ってたの。彼女に頼んだら、王様に取り次いでくれるかもしれないよ。情報が無い状態なら国に頼むのが1番手っ取り早いと思うんだけど。ど、どうだろう。だめ……かな?」
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