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第二章 アプリル地区 “卯”

7話 マギアの容量

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遠慮はいらないって……
私の力じゃ殺しかねないよ。
ミネはラピヌをじっと見つめた。
「……後悔、しないよね」
「もちろんよ。」
ラピヌは楽しそうだ。
どうして、あんなに落ち着いているんだろう。
まるで、私は絶対負けないって自信があるような…
ミネは鋭い瞳をラピヌに向けた。



ラピヌは変わらない笑みを浮かべつつ、考え事をしていた。
これまで何度も戦ってきたけど、こんな目をする人に出会ったのは久しぶりだ。
きっと彼女は…戦うことの重さを分かってる。
そして私も。
こんな目が出来るのは……“十二支”だ。
正直、勝負を提案したのはほんの気まぐれで、どっちが勝っても泊まってもらうつもりだ。
もちろん、手加減はするよ?私、十二支だから。
けど…相手も十二支なら話は別だ。
全力でぶつかることができる。まぁ、引き分けで終わる可能性はあるが。
「そちらからどうぞ」
ラピヌの顔から笑みが消えた。


ミネはタイミングを図って呪文を唱えた。
「ドゥンケル・シュヴェールト」
すると、闇を纏った剣が現れた。
これを使えば…普通の剣では太刀打ち出来ないだろう。
でも、私が十二支だということはバレるかもしれない。
それに、十二支の力は別格だから気をつけないと…

「はぁっ!」
ミネはラピヌめがけて剣を振り下ろした。
その時、剣の先がラピヌに届く寸前で太いツルが剣に巻き付き、ミネの身体ごと地面に叩きつけられた。
「………え」
ミネは唖然としてラピヌを見上げた。

ラピヌは怪しい笑みを浮かべた。
「今、考え事していたの?私が呪文を唱えたことにすら気が付かないなんて……舐められたものね。」
「私の剣を退けるなんて……そんな」
そんな事が出来るのは………

「今使った呪文はね、プランタ・ラストレラというの。それほど複雑な呪文ではないのよ。…そうね、あなたが剣を使うなら私も合わせた方がいいかしら?」
「……え」
ラピヌは恍惚とした表情で呟くように呪文を唱えた。
「フロール・エスパーダ」
すると、花々を纏った剣が現れた。
「後悔なんてしないって言ったでしょう?さぁ、遠慮なさらないで」
「………」
ミネは剣を支えに立ち上がった。
そう……ラピヌ。あなたも十二支なんだね。
それなら……。

「ドゥンケル・ヴィントホーゼ!」
そう唱えた途端、ミネを取り囲むように竜巻が現れた。
「ラピヌ…。その言葉、後悔させてあげる」
「そう。それよ。もっと、もっと全力で来て!!」
「はあああっ!」
竜巻を剣の先に集中させてラピヌに斬りかかった。
「カンポ・デ・フローレス」
ラピヌが呪文を唱えると、剣の先に巨大な花が開いた。
「ラピヌ!防御ばかりなんて情けないわよ」
「失礼。折角だもの。もっと楽しみたいじゃない?」
「ふざけないで」
「ふざけてないわ!折角同じ十二支に会えたんだもの。………オルテンシア・フロール!」
その途端、ミネの剣が跳ね返された。
ミネは息切れしながらラピヌを睨みつけた。


するとミネの剣は徐々に形が薄れ始め、闇の粒となって消えた。
「あら。マギアがきれちゃったのね。この勝負、私の勝ちかしら」
「ラピヌは……どうして平気なの」
「訓練すればいくらでも増やせるわよ。マギアを溜める容量を増やしていくの。」
「容量…」
「ミネ。あなたがそれをしないのは、今までろくに戦ってこなかったか、あるいは……自分の力が嫌い?」
ラピヌは…私のことを見抜いている。
「………嫌いよ。でもラピヌの属性は素敵だと思う。私は……闇だから」
「闇でもいいじゃない。大事な人を守るためにその力を使えば」
「大事な人を…守る…」
「そのための訓練ならできるんじゃない?次第に自分の力を好きになれるかもしれないし。私も協力するわ」
「………」
「ひとまず勝負はついたんだし、私のお願いを聞いてもらおうかしら」
ラピヌはにっこりと微笑んでミネに手を差し伸べた。

「私の家で泊まっていって。良かったらあなた達の話を聞かせてくださらない?」
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