12 / 32
第五章 篠崎美南
~故人2~
しおりを挟む
「織絵っ!」
美南はハッと目を覚ました。
部屋の中は静まり返っている。
美南はいつの間にか涙を流していた。
「夢か…」
美南はベッドの横に置いてある鍵を手に取った。
織絵に貰ってから毎日持ち歩いてるけど、未だ使いどころが分からない。
そういえば、あの人… 安積織絵さん。
自己紹介の時は驚いた。同じ名前だったから。
学校で気がつけば彼女を目で追っていた。
とくに意味があるわけではないが…
一度安積さんと目が合った。
彼女の方から目をそらしていた。
わたしが睨んでいるように見えてしまっただろうか。
どのみち関わる機会も無いだろうし、別にどっちでもいい。
時計を見ると、もう19時を過ぎていた。家に帰ってすぐ寝たのに全然疲れがとれなかった。
真っ暗な部屋で1人で過ごすのは落ち着く。
余計な感情や、嫌なものも見えないから。
ただじっと黙って目を閉じる…
それだけでもかなり楽になる。
美南はカッターを取り出すと、力を込めて腕に傷をつけた。止まらない血。ジーンとした痛み。
美南はため息をついた。この感覚が気持ちいい。
この痛みに触れていると、ほかの傷がどうでもよくなってくる。
「このまま、死んでしまえたらいいのに。」
何度そう思っただろう。
もっと深く傷をつけたら…
ふいに鍵が音を立てて床に落ちた。
「あ…約束してたんだった」
美南と織絵をつなぐ唯一の形のある物。
その時が来るまで、持っていないと。
この約束があるから、生きているのだと思う。
織絵は死ぬ直前、何を思っただろう。
少しは…わたしのことを思い出してくれただろうか。
「探してみようか。織絵のこと。住んでる場所や、織絵の思い。…わたし、何も知らなかったから。死ぬならせめて、その後にしよう」
やっと決めた。ちゃんと織絵の面影を探そう。
部屋を出ようと足を踏み出したが、急に足がズキッと痛んだ。
「こんな所怪我してたっけ。あ…あれか」
そういえば今日学校で突き飛ばされたんだった。
傷はない。打っただけか。良かった。
美南は足に湿布を貼り、さっきのカッターの切り傷は何もせずに隠した。
そのままリビングに行くと、母がキッチンに立っていた。
「何してたの。もうご飯冷めちゃったわよ」
「…寝てた」
「だらしないわね」
そう言って母はため息をついた。
いつも帰りが遅くて放ったらかしにしているくせによく言うよ…
美南は喉元まででかかった言葉を飲み込んだ。
-第5章 完-
美南はハッと目を覚ました。
部屋の中は静まり返っている。
美南はいつの間にか涙を流していた。
「夢か…」
美南はベッドの横に置いてある鍵を手に取った。
織絵に貰ってから毎日持ち歩いてるけど、未だ使いどころが分からない。
そういえば、あの人… 安積織絵さん。
自己紹介の時は驚いた。同じ名前だったから。
学校で気がつけば彼女を目で追っていた。
とくに意味があるわけではないが…
一度安積さんと目が合った。
彼女の方から目をそらしていた。
わたしが睨んでいるように見えてしまっただろうか。
どのみち関わる機会も無いだろうし、別にどっちでもいい。
時計を見ると、もう19時を過ぎていた。家に帰ってすぐ寝たのに全然疲れがとれなかった。
真っ暗な部屋で1人で過ごすのは落ち着く。
余計な感情や、嫌なものも見えないから。
ただじっと黙って目を閉じる…
それだけでもかなり楽になる。
美南はカッターを取り出すと、力を込めて腕に傷をつけた。止まらない血。ジーンとした痛み。
美南はため息をついた。この感覚が気持ちいい。
この痛みに触れていると、ほかの傷がどうでもよくなってくる。
「このまま、死んでしまえたらいいのに。」
何度そう思っただろう。
もっと深く傷をつけたら…
ふいに鍵が音を立てて床に落ちた。
「あ…約束してたんだった」
美南と織絵をつなぐ唯一の形のある物。
その時が来るまで、持っていないと。
この約束があるから、生きているのだと思う。
織絵は死ぬ直前、何を思っただろう。
少しは…わたしのことを思い出してくれただろうか。
「探してみようか。織絵のこと。住んでる場所や、織絵の思い。…わたし、何も知らなかったから。死ぬならせめて、その後にしよう」
やっと決めた。ちゃんと織絵の面影を探そう。
部屋を出ようと足を踏み出したが、急に足がズキッと痛んだ。
「こんな所怪我してたっけ。あ…あれか」
そういえば今日学校で突き飛ばされたんだった。
傷はない。打っただけか。良かった。
美南は足に湿布を貼り、さっきのカッターの切り傷は何もせずに隠した。
そのままリビングに行くと、母がキッチンに立っていた。
「何してたの。もうご飯冷めちゃったわよ」
「…寝てた」
「だらしないわね」
そう言って母はため息をついた。
いつも帰りが遅くて放ったらかしにしているくせによく言うよ…
美南は喉元まででかかった言葉を飲み込んだ。
-第5章 完-
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~
わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。
カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。
カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……?
どんでん返し、あります。

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
憑代の柩
菱沼あゆ
ミステリー
「お前の顔は整形しておいた。今から、僕の婚約者となって、真犯人を探すんだ」
教会での爆破事件に巻き込まれ。
目が覚めたら、記憶喪失な上に、勝手に整形されていた『私』。
「何もかもお前のせいだ」
そう言う男に逆らえず、彼の婚約者となって、真犯人を探すが。
周りは怪しい人間と霊ばかり――。
ホラー&ミステリー
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
総務の黒川さんは袖をまくらない
八木山
ミステリー
僕は、総務の黒川さんが好きだ。
話も合うし、お酒の趣味も合う。
彼女のことを、もっと知りたい。
・・・どうして、いつも長袖なんだ?
・僕(北野)
昏寧堂出版の中途社員。
経営企画室のサブリーダー。
30代、うかうかしていられないなと思っている
・黒川さん
昏寧堂出版の中途社員。
総務部のアイドル。
ギリギリ20代だが、思うところはある。
・水樹
昏寧堂出版のプロパー社員。
社内をちょこまか動き回っており、何をするのが仕事なのかわからない。
僕と同い年だが、女性社員の熱い視線を集めている。
・プロの人
その道のプロの人。
どこからともなく現れる有識者。
弊社のセキュリティはどうなってるんだ?

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる