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第二章 安積織絵
~記憶2~
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帰り道。
やっぱり分からない。
歩けば少しは懐かしさを感じるだろうと思ったが、見知らぬ土地だった。
何も覚えてない。思い出せない。
織絵は公園の写真を眺めた。
「あたしは確かに記憶を探してここに来た。でも、思い出すどころか手がかりであるはずの公園さえ怪しく思えてならない。あたしはどうして記憶を失ったの。本当のあたしは誰。」
織絵はぼそっと呟くように言った。何度問いかけても返事がないことくらい分かっているのだが。
ただ一つ分かっているのは、思い出さなければならないという気持ちだけ。
忘れるべきではない記憶という方が正しいだろう。
ふと顔を上げると、見知らぬ少女が不思議そうな顔をして立っていた。
「ずっとそこにいるね。誰かを待っているの?」
彼女は遠慮がちに話しかけてきた。
「え。あ、別に…」
織絵は持っていた写真をそっとポケットにしまった。
彼女はその動作を見ていたが、何も言わなかった。
代わりに
「あなたは今1人?良かったら私に付き合ってくれないかな?」
「……いいよ。あなたも1人なの?」
「うん。時々家に帰りたくない日があって」
そう言って笑う彼女はどこか寂しげだった。
「私、朝比奈玲香っていうの。中学生だよ」
「え!?うそ。年下なの?」
「うん。ずうずうしかったよね。ごめん」
「ううん。むしろ嬉しかった…かな。1人でいると余計なことばかり考えてしまうから。」
「なんか、似てるのかもね。何故か話しやすいから。そういえば、あなたの名前は?」
「あ、ほんとだ。言ってなかったね。あたしは安積織絵だよ」
玲香が一瞬目を丸くした。
「おり…え?」
「どうかしたの?」
「あ。なんでもないよ。……さて、私はそろそろ帰ろうかな。」
「そう。ねえ…送っていってもいい?」
「いいの?」
「うん。もう少し玲香ちゃんと話がしたいなって」
そう言うと、玲香は嬉しそうに顔をほころばせた。
並んで歩いていると、玲香の横顔が見えた。
中学生とは思えないくらい大人びた顔立ちだった。
「着いたよ。私の家。送ってくれてありがとう」
「こちらこそ。楽しかった」
「次はちゃんと遊ぼうね」
「うん」
じゃあね。と手を振って玲香は家に入っていった。
織絵はその建物を見上げた。
「すごいお屋敷…」
玲香は名家、朝比奈家のお嬢様だった。
-第二章 完-
やっぱり分からない。
歩けば少しは懐かしさを感じるだろうと思ったが、見知らぬ土地だった。
何も覚えてない。思い出せない。
織絵は公園の写真を眺めた。
「あたしは確かに記憶を探してここに来た。でも、思い出すどころか手がかりであるはずの公園さえ怪しく思えてならない。あたしはどうして記憶を失ったの。本当のあたしは誰。」
織絵はぼそっと呟くように言った。何度問いかけても返事がないことくらい分かっているのだが。
ただ一つ分かっているのは、思い出さなければならないという気持ちだけ。
忘れるべきではない記憶という方が正しいだろう。
ふと顔を上げると、見知らぬ少女が不思議そうな顔をして立っていた。
「ずっとそこにいるね。誰かを待っているの?」
彼女は遠慮がちに話しかけてきた。
「え。あ、別に…」
織絵は持っていた写真をそっとポケットにしまった。
彼女はその動作を見ていたが、何も言わなかった。
代わりに
「あなたは今1人?良かったら私に付き合ってくれないかな?」
「……いいよ。あなたも1人なの?」
「うん。時々家に帰りたくない日があって」
そう言って笑う彼女はどこか寂しげだった。
「私、朝比奈玲香っていうの。中学生だよ」
「え!?うそ。年下なの?」
「うん。ずうずうしかったよね。ごめん」
「ううん。むしろ嬉しかった…かな。1人でいると余計なことばかり考えてしまうから。」
「なんか、似てるのかもね。何故か話しやすいから。そういえば、あなたの名前は?」
「あ、ほんとだ。言ってなかったね。あたしは安積織絵だよ」
玲香が一瞬目を丸くした。
「おり…え?」
「どうかしたの?」
「あ。なんでもないよ。……さて、私はそろそろ帰ろうかな。」
「そう。ねえ…送っていってもいい?」
「いいの?」
「うん。もう少し玲香ちゃんと話がしたいなって」
そう言うと、玲香は嬉しそうに顔をほころばせた。
並んで歩いていると、玲香の横顔が見えた。
中学生とは思えないくらい大人びた顔立ちだった。
「着いたよ。私の家。送ってくれてありがとう」
「こちらこそ。楽しかった」
「次はちゃんと遊ぼうね」
「うん」
じゃあね。と手を振って玲香は家に入っていった。
織絵はその建物を見上げた。
「すごいお屋敷…」
玲香は名家、朝比奈家のお嬢様だった。
-第二章 完-
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