果てなき輪舞曲を死神と

杏仁霜

文字の大きさ
上 下
28 / 47
第五夜

美しき女主人 〜五巡目〜

しおりを挟む
朝 7:00

『嫌ああああああああ!』

力尽き目を閉じた後の、俺が見ることのなかった光景が改めて目の前で繰り広げられている。
 
 ああ…すまない、シュゼット嬢…。
 こんな風に泣かせるつもりではなかったというのに…。
 貴女にとって、最も辛いものを見せてしまった…!

 汚れることを厭わず、血溜まりに横たわった俺を懸命に抱き起こして繰り返し何度も呼びかけてくれた。どんなに呼ばれても、息絶える寸前で返事をすることすら出来なかったけれども。

 日ごとに繰り返し迎える俺の死を見て、悲痛な悲鳴をあげてくれた。彼女の方が数段、無残な死を経験しているにも関わらず…。

 そして、駆けつけた執事さんに俺を助けるように懇願してくれた。致命傷であることを告げられてとどめを刺される時も、執事さんの腕に取り縋って本気で涙を流してくれていたのか…。

 やはり彼女は、執事さんが全てを捧げるに値する女性だ。

 執事さんだけじゃない、いつしか俺も彼女を助けたいと心から願うようになっていた。
 たとえ『駒』として何度も死を迎える苦しみを経ようとも、その想いは変わらない。

 だからティアラ…もう少し、もう少しだけ待っていてくれ…。必ず、必ず戻るから…!


そして。どういう事なのか『生贄の美術館』にも、新たな人形が追加された事を知った。背をえぐられ血の海に沈み、シュゼット嬢の腕の中で短剣に貫かれ事切れた俺の精巧な人形が。

 この悪趣味な人形館は、誰が創り出したものなのだろうか? どの道、弄ぶためのもの以外に考えられないが…。この館に、俺たち以外の誰かがいるという事なのだろうか?

…………。
………。
……。


「…う…」

 いく度目かの嵐の音。何度目かの目覚め。
 悪い夢から覚めたときのようにぼんやりとだるいが、身体に痛みはない。
 すっかり見慣れた天井に、清潔なベッドの感触。
 もう、何度目になるのだろうか?
 ゆっくりと起き上がると、すぐそばにシュゼット嬢が座っているところまでが同じだ。
「よ…よか…良かった…! このまま、もうお目覚めにならないかと…!」
 今までと違うところは、いっぱいまで目に涙をためた彼女に飛びつかれたこと。
 どういうことだ? シュゼット嬢、まさか記憶が…?

「お嬢様、お客人がお困りのようですよ?」
 柔らかくたしなめる執事さんの声に、彼女は我に帰った様子で涙を拭った。
「あ、あら…すいません、私ったら…」
「なかなかお目覚めになりませんでしたからね。でももう大丈夫です」

 いつかのように、優雅なグラスで差し出される気つけのブランデー。
 静かに受け取ると、執事さんは深く頷く。


 
 様々なことをチェックするところも同じ。着替えの際に身体に異常がないかを確かめるのも同じ。だが、何か違和感がある気がするのは何故だろう? 

 

 そこに、ノックが響いた。鍵束と軽食を持った執事さんだ。
「ご気分はいかがでしょうか?」
「執事さん…」

 俺は思い切って、目覚めて以来の違和感を尋ねてみた。彼は辛そうに目を伏せ、ようやくお話しする許可が出ましたが…と前置きするとこう答えた。
「幾度めかの死を経ると、段々と魂が『あちら』に引っ張られがちになるようです…」

そしてさらに、衝撃的な答えが返ってきた。
「今まで以上に死に近くなっているだろうと思われます。そう…様々な無残な死を目の当たりにすることも増えましょう…」
  
 まもなくその言葉の意味を俺は、身をもって理解することとなる。
 手がかりにもなろうことだが、吐き気を禁じ得ない状況を『見る』ことになってしまったのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

人の目嫌い/人嫌い

木月 くろい
ホラー
ひと気の無くなった放課後の学校で、三谷藤若菜(みやふじわかな)は声を掛けられる。若菜は驚いた。自分の名を呼ばれるなど、有り得ないことだったからだ。 ◆2020年4月に小説家になろう様にて玄乃光名義で掲載したホラー短編『Scopophobia』を修正し、続きを書いたものになります。 ◆やや残酷描写があります。 ◆小説家になろう様に同名の作品を同時掲載しています。

逢魔ヶ刻の迷い子2

naomikoryo
ホラー
——それは、封印された記憶を呼び覚ます夜の探索。 夏休みのある夜、中学二年生の六人は学校に伝わる七不思議の真相を確かめるため、旧校舎へと足を踏み入れた。 静まり返った廊下、誰もいないはずの音楽室から響くピアノの音、職員室の鏡に映る“もう一人の自分”——。 次々と彼らを襲う怪異は、単なる噂ではなかった。 そして、最後の七不思議**「深夜の花壇の少女」**が示す先には、**学校に隠された“ある真実”**が眠っていた——。 「恐怖」は、彼らを閉じ込めるために存在するのか。 それとも、何かを伝えるために存在しているのか。 七つの怪談が絡み合いながら、次第に明かされる“過去”と“真相”。 ただの怪談が、いつしか“真実”へと変わる時——。 あなたは、この夜を無事に終えることができるだろうか?

オカルティック・アンダーワールド

アキラカ
ホラー
とある出版社で編集者として働く冴えないアラサー男子・三枝は、ある日突然学術雑誌の編集部から社内地下に存在するオカルト雑誌アガルタ編集部への異動辞令が出る。そこで三枝はライター兼見習い編集者として雇われている一人の高校生アルバイト・史(ふひと)と出会う。三枝はオカルトへの造詣が皆無な為、異動したその日に名目上史の教育係として史が担当する記事の取材へと駆り出されるのだった。しかしそこで待ち受けていたのは数々の心霊現象と怪奇な事件で有名な幽霊団地。そしてそこに住む奇妙な住人と不気味な出来事、徐々に襲われる恐怖体験に次から次へと巻き込まれてゆくのだった。

田舎のお婆ちゃんから聞いた言い伝え

菊池まりな
ホラー
田舎のお婆ちゃんから古い言い伝えを聞いたことがあるだろうか?その中から厳選してお届けしたい。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

勇気と巫女の八大地獄巡り

主道 学
ホラー
 死者を弔うために地獄を旅する巫女と、罪を犯して死んだ妹を探すために地獄マニアの勇気が一緒に旅をする。    勇気リンリンの地獄巡り。  ホラーテイスト&純愛ラブストーリーです。  今月に完結予定です。度々、改稿、加筆修正をします。本当に申し訳ありません汗   可能な限り毎日更新していきます汗 

百一回目の解体新書

駄犬
ホラー
時間は鎹だ。往復を繰り返し学び育てられる、誰にも経験できない、経験させるつもりがない、唯一無二の解脱を皆様方にお見せしよう。

処理中です...