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第四夜
晩餐の席にて 〜四巡目〜
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夕刻 18:00
「婚約者の方って、どんな方なのです?」
晩餐の席で、俺は初めて自分からシュゼット嬢に問いを投げて見ることにした。気になるのだ。彼女の死の真相に近づくには、この質問は不可欠な気がしてならなくなった。
「まあ、ふふ。お聞きになりたいですか? ですか?」
途端に、ウズウズと語りたくて仕方ないと言うそぶりを見せる彼女。今回、目覚める直前に見た悪夢や亡霊と成り果てた彼女を思い出すと胸が痛む。
俺の内心を知ることなく、彼女は上機嫌で語り始めた。
「世界一素敵な方です! 背が高くて綺麗な黒髪で、笑うと急に幼い感じになってドキドキします。そして…私のことを世界一大切にしてくれる、そんな素敵な方ですよ!」
「へえ…馴れ初めは?」
「ふふ、実はお見合いから始まったお付き合いなんですの。最初はどんな方か、お会いするまで不安ではありましたが…一目みてわかりました。この方が私の、運命の人だって! それはそれは、素晴らしい出会いでした…!」
ということは、元々政略結婚だったということか。だが、出会ってからは恋愛にすぐ発展した。理想的な流れだ。
確かに廊下にある絵画は黒髪の婚約者が描かれていた。そして、婚約どころか花嫁衣装の構図もあった。彼女は既婚者で、黒の領主ブランドン・ウォルターは彼女の美しさに横恋慕した…。それが、全ての不幸の始まりだったのだろう。
だが、ここに居る彼女にとって彼はあくまで『夫』ではなく『婚約者』。ということはまだ結婚していない時点での時間軸の中にいるということは確かだ。
この世にいない『婚約者』を待ち続ける『未婚』のシュゼット嬢。歪ではあるが、その時間軸が最も穏やかな時を過ごせる最適な頃だったのだろう。そう…出てきてすらいない『領主』の存在は、聞いても答えが返ってこないということだ。奴の存在は、書物の中にしかいない。
「そういえば…カシアン様と、どこか似た感じの方ですわ。不思議ですよね、しばらく会っていないせいか重なって見えてくるなんて?」
「…カシアン様」
俺の前に静かに食後のコーヒーが置かれた。振り返ると、執事さんが辛そうに目を閉じて首を振っている。この話題はここまでにしてくれということだろうか?
了承の意味を込めて頷くと、俺は話題を変えた。
「…そういえば、昔犬を飼っておられたとか。俺の家には、猫がいました。孤児院の屋根裏に出たネズミを取らせるって名目で」
「まあ!」
「可愛がりすぎて、終いにはネズミも取らなくなってしまいましたが」
シュゼット嬢はくすくす笑う。執事さんでなくとも、この笑顔は守ってやりたいと思うだろう。
だが、そのためには…俺を…。
このシステムを作ったのは、何者なのだろうか?
わざわざ執事さんに汚れ仕事をさせ、彼と『駒』の両方を苦しめている『第三者』は…?
「婚約者の方って、どんな方なのです?」
晩餐の席で、俺は初めて自分からシュゼット嬢に問いを投げて見ることにした。気になるのだ。彼女の死の真相に近づくには、この質問は不可欠な気がしてならなくなった。
「まあ、ふふ。お聞きになりたいですか? ですか?」
途端に、ウズウズと語りたくて仕方ないと言うそぶりを見せる彼女。今回、目覚める直前に見た悪夢や亡霊と成り果てた彼女を思い出すと胸が痛む。
俺の内心を知ることなく、彼女は上機嫌で語り始めた。
「世界一素敵な方です! 背が高くて綺麗な黒髪で、笑うと急に幼い感じになってドキドキします。そして…私のことを世界一大切にしてくれる、そんな素敵な方ですよ!」
「へえ…馴れ初めは?」
「ふふ、実はお見合いから始まったお付き合いなんですの。最初はどんな方か、お会いするまで不安ではありましたが…一目みてわかりました。この方が私の、運命の人だって! それはそれは、素晴らしい出会いでした…!」
ということは、元々政略結婚だったということか。だが、出会ってからは恋愛にすぐ発展した。理想的な流れだ。
確かに廊下にある絵画は黒髪の婚約者が描かれていた。そして、婚約どころか花嫁衣装の構図もあった。彼女は既婚者で、黒の領主ブランドン・ウォルターは彼女の美しさに横恋慕した…。それが、全ての不幸の始まりだったのだろう。
だが、ここに居る彼女にとって彼はあくまで『夫』ではなく『婚約者』。ということはまだ結婚していない時点での時間軸の中にいるということは確かだ。
この世にいない『婚約者』を待ち続ける『未婚』のシュゼット嬢。歪ではあるが、その時間軸が最も穏やかな時を過ごせる最適な頃だったのだろう。そう…出てきてすらいない『領主』の存在は、聞いても答えが返ってこないということだ。奴の存在は、書物の中にしかいない。
「そういえば…カシアン様と、どこか似た感じの方ですわ。不思議ですよね、しばらく会っていないせいか重なって見えてくるなんて?」
「…カシアン様」
俺の前に静かに食後のコーヒーが置かれた。振り返ると、執事さんが辛そうに目を閉じて首を振っている。この話題はここまでにしてくれということだろうか?
了承の意味を込めて頷くと、俺は話題を変えた。
「…そういえば、昔犬を飼っておられたとか。俺の家には、猫がいました。孤児院の屋根裏に出たネズミを取らせるって名目で」
「まあ!」
「可愛がりすぎて、終いにはネズミも取らなくなってしまいましたが」
シュゼット嬢はくすくす笑う。執事さんでなくとも、この笑顔は守ってやりたいと思うだろう。
だが、そのためには…俺を…。
このシステムを作ったのは、何者なのだろうか?
わざわざ執事さんに汚れ仕事をさせ、彼と『駒』の両方を苦しめている『第三者』は…?
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