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第四夜
生贄の美術館
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昼 13:00
あれから関連の記事を読みふけり、執事さんに呼ばれて昼食を取った後。とりあえずあちこちの仕掛けを探して見ることにした。
目星をつけたのは、まず図書館。例の石弓で狙いをつけられた隠し扉の他に、不自然な場所をもう一つ見つけたのだ。書棚が並ぶ最奥で、妙に分厚い壁がある。他は全て左右対称な部屋だったが、そこだけは不自然な突起のようになっていた。まさか、ここにも隠し扉か?
周囲に罠らしいものがないか確認しながら少し書棚をずらして隙間を作り、身を滑り込ませる。壁を軽くノックして探って見ると、空洞になっているような音がする箇所を見つけた。やっぱりか…。後は入り口だが、その辺りを探って見ると一つ、奇妙なものを見つけた。
山羊をかたどったデザインのレリーフ。どこかで見覚えがあると思ったが、すぐに思いだした。
最初の晩に修理した大時計から出て来た、あの山羊の鍵だ! まさかこんなところにあるなんて…。
鍵穴は…と周囲を調べると、レリーフそのものを上にずらすと鍵穴が現れた。無駄に凝った作りだ。懐から取り出した鍵を差し込んで回せば、重い音と共に分厚い壁の側面に通路が現れている。今までになかった仕掛けに驚きつつも、俺は息を殺して進むことにした。ここまできたら、後戻りなどできるはずもない。
数歩進むと通路は階段に切り替わり、螺旋状に下っていく。さほど降りた感覚もなかったが、そこにはもう一つの扉があった。
『生贄の美術館』
悪趣味な赤い扉に刻まれたプレートには、こんな不吉な文字が掲げられている。
何とは無しに俺は、執事さんとは別の者が作った場所だろうと推測した。無論、シュゼット嬢のものでもない。それなら、誰が…?
不吉な予感に逆らいながら扉をそっと開くと、無数の展示ケースが並んだ、博物館のような作りになっている。壁にはランプが等間隔に並んで、灯りに困ることもない。
好奇心に任せて手近なケースを覗くと、壊れた人形が展示されているようだった。
精巧な人形だが首が取れて、赤いインクにまみれている。
どういうことだろうか? 次々と展示ケースを見ると、どれもこれも似たような人形が展示されている。
日付と名前、場所などが明記されたプレートが添えられた人形は、もれなくどこかが壊れて傷つき赤い色にまみれている。
そばにあったケースの中にいた人形は、いやが応にも見覚えがあった。
血溜まりに沈み、胸に刺し傷と短剣が刺さったままの精巧な人形。
血を吐き、同じように短剣を心臓に突き立てられたもの。
壁にもたれかかった体勢で、脇腹から血を流し短剣に貫かれた人形。
「…まさか…これは…!」
見覚えがあって当然だ…これは、今まで俺の辿って来た死に様だ。
周囲の人形も似たような展示の仕方で飾られているが、その状態は多岐に渡った死に様を示していた。
手足がもがれ刃物が刺さり潰れて切られて貫かれ焼かれて吊るされ吹き飛ばされ…!
俺は壁に手をつき、荒い呼吸で吐き気を押さえ込んだ。
間違いない、この部屋は執事さんのものではあり得ない!
あの時の霊廟の内部は死者への深い敬意と鎮魂の祈りに満ちていた。
だが、ここはどうだ? ただ死者を嬲り、面白おかしく展示した…ただ弄ぶ為のものにすぎない!
「『第三者』の…部屋ということか…?」
それ以上は耐えられなかった。元きた螺旋階段を戻り、隠し扉を背中で閉めると大きく息をつく。
壁伝いにズルズルと座り込むと、俺は目を閉じた。
そうだ、執事さんは言っていた。俺からの質問に対して、
『その答えは、許可されていません』と。それなら『許可』を出す何者かが居る、その存在はほのめかされていたじゃないか!
その体勢のまま、ふと書棚の下に何かが光っているのが見えた。さっき隠し扉を探したときに動かした棚だ。
「これは…!」
そこに手を入れて探ると、何か硬いものがあった。つまみあげて見ると、予想外のものだ。
オルゴールの、ネジ部分。
これは一体、どういうことだ? シュゼット嬢のご主人は、ここで殺されたということだろうか? もしくは…執事さんがヒントを設置した上で、俺をここに誘導したということだろうか?
彼の言動を思い出して、ふと納得した事がある。そうだ、彼は言ったじゃないか。『南の方角にあるかもしれません』と。自室の方角から見たら、ここは南に当たる方角だ。
ということは、これはここに俺が来ることを見越して設置された、執事さんのヒントだったということだ!
あれから関連の記事を読みふけり、執事さんに呼ばれて昼食を取った後。とりあえずあちこちの仕掛けを探して見ることにした。
目星をつけたのは、まず図書館。例の石弓で狙いをつけられた隠し扉の他に、不自然な場所をもう一つ見つけたのだ。書棚が並ぶ最奥で、妙に分厚い壁がある。他は全て左右対称な部屋だったが、そこだけは不自然な突起のようになっていた。まさか、ここにも隠し扉か?
周囲に罠らしいものがないか確認しながら少し書棚をずらして隙間を作り、身を滑り込ませる。壁を軽くノックして探って見ると、空洞になっているような音がする箇所を見つけた。やっぱりか…。後は入り口だが、その辺りを探って見ると一つ、奇妙なものを見つけた。
山羊をかたどったデザインのレリーフ。どこかで見覚えがあると思ったが、すぐに思いだした。
最初の晩に修理した大時計から出て来た、あの山羊の鍵だ! まさかこんなところにあるなんて…。
鍵穴は…と周囲を調べると、レリーフそのものを上にずらすと鍵穴が現れた。無駄に凝った作りだ。懐から取り出した鍵を差し込んで回せば、重い音と共に分厚い壁の側面に通路が現れている。今までになかった仕掛けに驚きつつも、俺は息を殺して進むことにした。ここまできたら、後戻りなどできるはずもない。
数歩進むと通路は階段に切り替わり、螺旋状に下っていく。さほど降りた感覚もなかったが、そこにはもう一つの扉があった。
『生贄の美術館』
悪趣味な赤い扉に刻まれたプレートには、こんな不吉な文字が掲げられている。
何とは無しに俺は、執事さんとは別の者が作った場所だろうと推測した。無論、シュゼット嬢のものでもない。それなら、誰が…?
不吉な予感に逆らいながら扉をそっと開くと、無数の展示ケースが並んだ、博物館のような作りになっている。壁にはランプが等間隔に並んで、灯りに困ることもない。
好奇心に任せて手近なケースを覗くと、壊れた人形が展示されているようだった。
精巧な人形だが首が取れて、赤いインクにまみれている。
どういうことだろうか? 次々と展示ケースを見ると、どれもこれも似たような人形が展示されている。
日付と名前、場所などが明記されたプレートが添えられた人形は、もれなくどこかが壊れて傷つき赤い色にまみれている。
そばにあったケースの中にいた人形は、いやが応にも見覚えがあった。
血溜まりに沈み、胸に刺し傷と短剣が刺さったままの精巧な人形。
血を吐き、同じように短剣を心臓に突き立てられたもの。
壁にもたれかかった体勢で、脇腹から血を流し短剣に貫かれた人形。
「…まさか…これは…!」
見覚えがあって当然だ…これは、今まで俺の辿って来た死に様だ。
周囲の人形も似たような展示の仕方で飾られているが、その状態は多岐に渡った死に様を示していた。
手足がもがれ刃物が刺さり潰れて切られて貫かれ焼かれて吊るされ吹き飛ばされ…!
俺は壁に手をつき、荒い呼吸で吐き気を押さえ込んだ。
間違いない、この部屋は執事さんのものではあり得ない!
あの時の霊廟の内部は死者への深い敬意と鎮魂の祈りに満ちていた。
だが、ここはどうだ? ただ死者を嬲り、面白おかしく展示した…ただ弄ぶ為のものにすぎない!
「『第三者』の…部屋ということか…?」
それ以上は耐えられなかった。元きた螺旋階段を戻り、隠し扉を背中で閉めると大きく息をつく。
壁伝いにズルズルと座り込むと、俺は目を閉じた。
そうだ、執事さんは言っていた。俺からの質問に対して、
『その答えは、許可されていません』と。それなら『許可』を出す何者かが居る、その存在はほのめかされていたじゃないか!
その体勢のまま、ふと書棚の下に何かが光っているのが見えた。さっき隠し扉を探したときに動かした棚だ。
「これは…!」
そこに手を入れて探ると、何か硬いものがあった。つまみあげて見ると、予想外のものだ。
オルゴールの、ネジ部分。
これは一体、どういうことだ? シュゼット嬢のご主人は、ここで殺されたということだろうか? もしくは…執事さんがヒントを設置した上で、俺をここに誘導したということだろうか?
彼の言動を思い出して、ふと納得した事がある。そうだ、彼は言ったじゃないか。『南の方角にあるかもしれません』と。自室の方角から見たら、ここは南に当たる方角だ。
ということは、これはここに俺が来ることを見越して設置された、執事さんのヒントだったということだ!
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