果てなき輪舞曲を死神と

杏仁霜

文字の大きさ
上 下
24 / 47
第四夜

生贄の美術館

しおりを挟む
昼 13:00

 あれから関連の記事を読みふけり、執事さんに呼ばれて昼食を取った後。とりあえずあちこちの仕掛けを探して見ることにした。

 目星をつけたのは、まず図書館。例の石弓で狙いをつけられた隠し扉の他に、不自然な場所をもう一つ見つけたのだ。書棚が並ぶ最奥で、妙に分厚い壁がある。他は全て左右対称な部屋だったが、そこだけは不自然な突起のようになっていた。まさか、ここにも隠し扉か? 
 周囲に罠らしいものがないか確認しながら少し書棚をずらして隙間を作り、身を滑り込ませる。壁を軽くノックして探って見ると、空洞になっているような音がする箇所を見つけた。やっぱりか…。後は入り口だが、その辺りを探って見ると一つ、奇妙なものを見つけた。

 山羊をかたどったデザインのレリーフ。どこかで見覚えがあると思ったが、すぐに思いだした。
 最初の晩に修理した大時計から出て来た、あの山羊の鍵だ! まさかこんなところにあるなんて…。
 鍵穴は…と周囲を調べると、レリーフそのものを上にずらすと鍵穴が現れた。無駄に凝った作りだ。懐から取り出した鍵を差し込んで回せば、重い音と共に分厚い壁の側面に通路が現れている。今までになかった仕掛けに驚きつつも、俺は息を殺して進むことにした。ここまできたら、後戻りなどできるはずもない。

 数歩進むと通路は階段に切り替わり、螺旋状に下っていく。さほど降りた感覚もなかったが、そこにはもう一つの扉があった。

『生贄の美術館』

 悪趣味な赤い扉に刻まれたプレートには、こんな不吉な文字が掲げられている。
 何とは無しに俺は、執事さんとは別の者が作った場所だろうと推測した。無論、シュゼット嬢のものでもない。それなら、誰が…? 
 不吉な予感に逆らいながら扉をそっと開くと、無数の展示ケースが並んだ、博物館のような作りになっている。壁にはランプが等間隔に並んで、灯りに困ることもない。
 
 好奇心に任せて手近なケースを覗くと、壊れた人形が展示されているようだった。
 精巧な人形だが首が取れて、赤いインクにまみれている。
 どういうことだろうか? 次々と展示ケースを見ると、どれもこれも似たような人形が展示されている。
 日付と名前、場所などが明記されたプレートが添えられた人形は、もれなくどこかが壊れて傷つき赤い色にまみれている。

 そばにあったケースの中にいた人形は、

 血溜まりに沈み、胸に刺し傷と短剣が刺さったままの精巧な人形。
 
 血を吐き、同じように短剣を心臓に突き立てられたもの。

 壁にもたれかかった体勢で、脇腹から血を流し短剣に貫かれた人形。

「…まさか…これは…!」

 見覚えがあって当然だ…これは、今まで俺の辿って来た死に様だ。
 周囲の人形も似たような展示の仕方で飾られているが、その状態は多岐に渡った死に様を示していた。

 手足がもがれ刃物が刺さり潰れて切られて貫かれ焼かれて吊るされ吹き飛ばされ…!

 俺は壁に手をつき、荒い呼吸で吐き気を押さえ込んだ。
 間違いない、この部屋は執事さんのものではあり得ない!

 あの時の霊廟の内部は死者への深い敬意と鎮魂の祈りに満ちていた。
  だが、ここはどうだ? ただ死者を嬲り、面白おかしく展示した…ただ弄ぶ為のものにすぎない!

「『第三者』の…部屋ということか…?」

 それ以上は耐えられなかった。元きた螺旋階段を戻り、隠し扉を背中で閉めると大きく息をつく。
 壁伝いにズルズルと座り込むと、俺は目を閉じた。
 
 そうだ、執事さんは言っていた。俺からの質問に対して、
『その答えは、許可されていません』と。それなら『許可』を出す何者かが居る、その存在はほのめかされていたじゃないか!

 その体勢のまま、ふと書棚の下に何かが光っているのが見えた。さっき隠し扉を探したときに動かした棚だ。
「これは…!」
 そこに手を入れて探ると、何か硬いものがあった。つまみあげて見ると、予想外のものだ。

 オルゴールの、ネジ部分。

 これは一体、どういうことだ? シュゼット嬢のご主人は、ここで殺されたということだろうか? もしくは…執事さんがヒントを設置した上で、俺をここに誘導したということだろうか? 
  彼の言動を思い出して、ふと納得した事がある。そうだ、彼は言ったじゃないか。『南の方角にあるかもしれません』と。自室の方角から見たら、ここは南に当たる方角だ。
 ということは、これはここに俺が来ることを見越して設置された、執事さんのヒントだったということだ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

人の目嫌い/人嫌い

木月 くろい
ホラー
ひと気の無くなった放課後の学校で、三谷藤若菜(みやふじわかな)は声を掛けられる。若菜は驚いた。自分の名を呼ばれるなど、有り得ないことだったからだ。 ◆2020年4月に小説家になろう様にて玄乃光名義で掲載したホラー短編『Scopophobia』を修正し、続きを書いたものになります。 ◆やや残酷描写があります。 ◆小説家になろう様に同名の作品を同時掲載しています。

ゾンビマニア

ショー・ケン
ホラー
ゾンビ作品のオマージュ的な短編です。

逢魔ヶ刻の迷い子

naomikoryo
ホラー
夏休みの夜、肝試しのために寺の墓地へ足を踏み入れた中学生6人。そこはただの墓地のはずだった。しかし、耳元に囁く不可解な声、いつの間にか繰り返される道、そして闇の中から現れた「もう一人の自分」。 気づいた時、彼らはこの世ならざる世界へ迷い込んでいた——。 赤く歪んだ月が照らす異形の寺、どこまでも続く石畳、そして開かれた黒い門。 逃げることも、抗うことも許されず、彼らに突きつけられたのは「供物」の選択。 犠牲を捧げるのか、それとも——? “恐怖”と“選択”が絡み合う、異界脱出ホラー。 果たして彼らは元の世界へ戻ることができるのか。 それとも、この夜の闇に囚われたまま、影へと溶けていくのか——。

逢魔ヶ刻の迷い子2

naomikoryo
ホラー
——それは、封印された記憶を呼び覚ます夜の探索。 夏休みのある夜、中学二年生の六人は学校に伝わる七不思議の真相を確かめるため、旧校舎へと足を踏み入れた。 静まり返った廊下、誰もいないはずの音楽室から響くピアノの音、職員室の鏡に映る“もう一人の自分”——。 次々と彼らを襲う怪異は、単なる噂ではなかった。 そして、最後の七不思議**「深夜の花壇の少女」**が示す先には、**学校に隠された“ある真実”**が眠っていた——。 「恐怖」は、彼らを閉じ込めるために存在するのか。 それとも、何かを伝えるために存在しているのか。 七つの怪談が絡み合いながら、次第に明かされる“過去”と“真相”。 ただの怪談が、いつしか“真実”へと変わる時——。 あなたは、この夜を無事に終えることができるだろうか?

オカルティック・アンダーワールド

アキラカ
ホラー
とある出版社で編集者として働く冴えないアラサー男子・三枝は、ある日突然学術雑誌の編集部から社内地下に存在するオカルト雑誌アガルタ編集部への異動辞令が出る。そこで三枝はライター兼見習い編集者として雇われている一人の高校生アルバイト・史(ふひと)と出会う。三枝はオカルトへの造詣が皆無な為、異動したその日に名目上史の教育係として史が担当する記事の取材へと駆り出されるのだった。しかしそこで待ち受けていたのは数々の心霊現象と怪奇な事件で有名な幽霊団地。そしてそこに住む奇妙な住人と不気味な出来事、徐々に襲われる恐怖体験に次から次へと巻き込まれてゆくのだった。

海淵巨大生物との遭遇

ただのA
ホラー
この作品は、深海をテーマにした海洋ホラーで、未知なる世界への冒険とその恐怖が交錯する物語です。 潜水艦《オセアノス》に乗り込み、深海の神秘的で美しい景色に包まれながらも、 次第にその暗闇に潜む恐ろしい存在とも 遭遇していきます。 ────────────────── オセアノスは、最先端技術を駆使して設計された海底観覧用潜水艦。 乗客たちは、全長30メートルを超えるこの堅牢な潜水艦で、深海の神秘的な世界を探索する冒険に出発する。 艦内には、快適な座席やラウンジ、カフェが完備され、長時間の航行でも退屈することはない。 窓からは、光る魚や不思議な深海生物が観察でき、乗客たちは次々と目の前に広がる未知の景色に驚き、興奮する。 しかし、深海には未だ解明されていない謎が数多く存在する。 その暗闇に包まれた世界では、どんな未知の生物がひそんでいるのか、人々の想像を超えた巨大な影が潜んでいるのか、それは誰にも分からない。 それに故に人々は神秘性を感じ恐怖を体験する^_^

出来損ないの世界

dadadabox
ホラー
朝目が目を覚まして見える景色は皆全く違う。 全員で同じ景色を見た時見える景色は同じだろうか。 もし、一人だけ違う景色を見るものがいれば人はその人をどう捉えるのだろうか。 人と違うかもしれない少年の物語です。 途中で修正が多々入ります。 この作品は一万字ちょっとの短編の予定です。

田舎のお婆ちゃんから聞いた言い伝え

菊池まりな
ホラー
田舎のお婆ちゃんから古い言い伝えを聞いたことがあるだろうか?その中から厳選してお届けしたい。

処理中です...