果てなき輪舞曲を死神と

杏仁霜

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第四夜

黒の領主

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朝 9:30

 図書室の書物はとにかく数が多い。歴史書に天文学、医学に経済…。その最奥に、目的のものはあった。

「ゴシップ関連の記事…これか?」

 奥まったところに、切り抜き記事がちゃんと綴じてあるスクラップブックが置いてあった。題名は『黒の章』とある。試しに開いてみると、いきなりあの夢で出てきた男の片割れが写った写真が出てきた。

『黒い領主の疑惑・社交界の花アリアドネ嬢と密会か? 強硬な取材拒否』

『ルモアーナ商会との、収賄疑惑! 脅迫・圧力の有無は? 』

『テセリウス男爵の死の真相は黒の領主による謀殺の可能性? 浮かび上がる人間関係』

『黒の領主、暗殺未遂! 犯人は自害、可能性の高い依頼主は? 水面下の殺意か?』

『領主の爛れた女性遍歴! お相手は美しき子爵夫人か?』

 ページを繰るごとに続々と表れる、疑惑の数々。この中の全てが真実とは言えないだろうが、いくらか真実が含まれているのだろうか? 少なくとも、火のない所に立った煙ばかりではないだろうと仮定するが…それにしても相当な数だ。やはり、領主ブランドンは…。

 しかしここで、新たな謎が浮上する。
 いかにでっち上げだとしても、それなりの地位にあるであろうシュゼット嬢が公然と異端審問と言う名の拷問をされるものだろうか?

 さらに絵から読み取るに…すでに結婚していたシュゼット嬢に、領主が一方的に横恋慕して脅迫していたということか?
  ならその間、ご主人は何をしていたのか? 先に殺されたのか留守を狙われたのか? 
 そしてシュゼット嬢は潔白を訴えるよりも最後まで抵抗したというのは、どういうことだろうか? ご主人の助けを待っていたのか? 潔白の証拠を運んで来る予定だったのか?

  現段階ではまだ断定はできないことだらけだ。まさか、謎を解きに来て新たな謎が増えるとは思わなかった。

 俺はちらりと天井近くで不気味な存在感を示すスリットを眺めた。こっちの謎もまだ残っている。そのスリットの奥では同じように鈍い輝きを放つ弓の仕掛けが装填されているのだろう。そしてそれが狙う壁の向こうにある隠し部屋には、何があるのか? …わからないことだらけだ。
 
 もしかしたら、他にも仕掛けがあるのかも知れない。そしてそれは、この屋敷やシュゼット嬢の謎に直結しているとしたら? 
 探してみる価値はありそうだ。

 ふと俺は、手元の記事に再び目を落とす。その最後の記事に、俺は瞠目した。

『黒の領主ブランドン・ウォルター氏、失踪。関係者各位に捜索願い』

『異端審問官ポール・ノーズ司祭  行方不明?』

 異端審問に関わった二人が揃って失踪している、だと?
 この奇妙な出来事は、後に陰惨な結末をもたらすことになろうとは…この時は思いもよらなかった。
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