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第四夜
美しき女主人 〜四巡目〜
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朝 7:00
………。
もう、死ぬのも三度目か…。
…これで時間は戻るのだろう。
穏やかな朝を迎えて、何事もなく時を過ごし夜を迎え…。
日付が変われば、また地獄へ逆戻る繰り返し。
確かに執事さんからしたら、たまったものじゃないだろう。同じ立場なら、俺はどうしただろうか?
かと言って、俺もただ殺され続ける訳にはいかないんだ…悪い、執事さん…。
不意に、目の前に陰惨な光景が広がった。薄暗い部屋の中、一目で拷問道具とわかる器具が並んでいる。その中心で、目を覆いたくなるよう行為が繰り広げられていた。
『ワシに逆らった報いだ。どうだ? 今からでも悔い改め、ワシの物になる気にはならんか?』
二人の男が、金髪の娘を水に沈めている。椅子に腰掛けた中年の男が、ワインのグラスを片手に嫌な笑いで娘に語りかけた。
答えない娘は苦しさにもがく。それを引き上げては再び沈める。彼女の爪は全て剥がされ、傷だらけになっていた。
『強情な…もう少し素直になれば楽になれるものを…』
『異端審問とは、いい口実になりましたな』
聖職者風の男が、また手に力を込める。
やめろ…やめろ…もう見ていられない…!
やめろ!
ようやくのことでそう叫んだ時、視界が暗転した。
…………。
「…う…」
「気がつかれましたか?」
屋敷の光景は、朝のそれに戻っていた。俺が横たわるベッドのそばには、変わらずシュゼット嬢が微笑んでいる。
俺は、なぜか胸をなでおろした。夜中の彼女と、さっきの夢を思い出したせいだろうか? 背中は嫌な汗で冷たくなっていた。
「大丈夫ですか? 随分とうなされていましたよ?」
伸ばされた手には綺麗な爪がちゃんとあって、ふんわりとした笑みで俺を案じている。
ああ 、良かった…。
自分は何度も殺されていると言うのに、そう思うのはおかしいだろうか?
決まり切ったやり取りで三度目の自己紹介を済ませると、自分の服に袖を通した。懐にはお守り代わりの写真が入った手帳とペンを仕込む。作業机の引き出しに手をかけたところで、いつものノックの音が響いた。
全く同じように軽食と鍵束を持って現れた執事さんは、少し様子が違うであろう俺を見て訝しむ。
「…何か?」
「おかしな夢を見た。シュゼット嬢が、男二人に拷問されている夢を…。異端審問というより、ただの私刑にしか見えなかった」
彼は答えない。だがその手には怒りのせいか、力が込められ細かく震えているのが見て取れた。
「ここで数日過ごされますと、よくおかしな夢を見るという方がおられました。カシアン様もでございますか…」
平静を装って彼はようやく答えると、トレイごと軽食を置いて退出して行った。そのすぐ傍で三本の鍵束が鈍く光っている。
おそらくその夢は事実なのだろう。
異端審問を口実に、シュゼット嬢は…。彼女にどんな罪があったというのだ?
これは、関連した領主と聖職者を洗う必要がありそうだ。となれば、図書館での調べ物か? それとも、そこには公の文書しかないのだろうか?
知りたい事は、領主の人となり。ならば精度は悪くなりがちだが、もっと俗っぽいゴシップ誌などの情報があればいいかもしれない。
当てになるかはわからない。虚偽取り混ぜて、真実は希薄かもしれない。だが今はどんな物でも情報は欲しかった。
一応…探して見るか。
………。
もう、死ぬのも三度目か…。
…これで時間は戻るのだろう。
穏やかな朝を迎えて、何事もなく時を過ごし夜を迎え…。
日付が変われば、また地獄へ逆戻る繰り返し。
確かに執事さんからしたら、たまったものじゃないだろう。同じ立場なら、俺はどうしただろうか?
かと言って、俺もただ殺され続ける訳にはいかないんだ…悪い、執事さん…。
不意に、目の前に陰惨な光景が広がった。薄暗い部屋の中、一目で拷問道具とわかる器具が並んでいる。その中心で、目を覆いたくなるよう行為が繰り広げられていた。
『ワシに逆らった報いだ。どうだ? 今からでも悔い改め、ワシの物になる気にはならんか?』
二人の男が、金髪の娘を水に沈めている。椅子に腰掛けた中年の男が、ワインのグラスを片手に嫌な笑いで娘に語りかけた。
答えない娘は苦しさにもがく。それを引き上げては再び沈める。彼女の爪は全て剥がされ、傷だらけになっていた。
『強情な…もう少し素直になれば楽になれるものを…』
『異端審問とは、いい口実になりましたな』
聖職者風の男が、また手に力を込める。
やめろ…やめろ…もう見ていられない…!
やめろ!
ようやくのことでそう叫んだ時、視界が暗転した。
…………。
「…う…」
「気がつかれましたか?」
屋敷の光景は、朝のそれに戻っていた。俺が横たわるベッドのそばには、変わらずシュゼット嬢が微笑んでいる。
俺は、なぜか胸をなでおろした。夜中の彼女と、さっきの夢を思い出したせいだろうか? 背中は嫌な汗で冷たくなっていた。
「大丈夫ですか? 随分とうなされていましたよ?」
伸ばされた手には綺麗な爪がちゃんとあって、ふんわりとした笑みで俺を案じている。
ああ 、良かった…。
自分は何度も殺されていると言うのに、そう思うのはおかしいだろうか?
決まり切ったやり取りで三度目の自己紹介を済ませると、自分の服に袖を通した。懐にはお守り代わりの写真が入った手帳とペンを仕込む。作業机の引き出しに手をかけたところで、いつものノックの音が響いた。
全く同じように軽食と鍵束を持って現れた執事さんは、少し様子が違うであろう俺を見て訝しむ。
「…何か?」
「おかしな夢を見た。シュゼット嬢が、男二人に拷問されている夢を…。異端審問というより、ただの私刑にしか見えなかった」
彼は答えない。だがその手には怒りのせいか、力が込められ細かく震えているのが見て取れた。
「ここで数日過ごされますと、よくおかしな夢を見るという方がおられました。カシアン様もでございますか…」
平静を装って彼はようやく答えると、トレイごと軽食を置いて退出して行った。そのすぐ傍で三本の鍵束が鈍く光っている。
おそらくその夢は事実なのだろう。
異端審問を口実に、シュゼット嬢は…。彼女にどんな罪があったというのだ?
これは、関連した領主と聖職者を洗う必要がありそうだ。となれば、図書館での調べ物か? それとも、そこには公の文書しかないのだろうか?
知りたい事は、領主の人となり。ならば精度は悪くなりがちだが、もっと俗っぽいゴシップ誌などの情報があればいいかもしれない。
当てになるかはわからない。虚偽取り混ぜて、真実は希薄かもしれない。だが今はどんな物でも情報は欲しかった。
一応…探して見るか。
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