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第三夜
残虐なる記事
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昼 13:00
再び図書室にこもって五分後。もしやと思って以前来た時に書棚につけていた目印を頼りに、俺は目的の書物と記事をを見つけ出した。五十年前の、新聞記事…あった。前に見つけた記事だ。
『百五十年ぶりの魔女、異端審問にて果てる』
何度見ても、胸が悪くなる内容だ。
『シュゼット・ランカスター。貴族の家に生まれるも、悪魔と通じた罪で当地の領主であるブランドン・ウォルター氏によって告発される。異端審問官は空席にて急遽ポール・ノーズ司祭が就任し、任務に当たっていた。正式な作法に則り異端審問はなされていたが、その中途にて死亡が確認された』
…なるほど。このブランドンという領主とポールという司祭について調べればいいんだな。何を根拠に、何をもって魔女と断定したのか? それがわかればいいというわけか。
俺は持参した手帳にその名を書き込む。さらに場所や日付など、わかる限りの情報を書き込んでいく。ふつふつと湧いた怒りが頭をもたげる。ここに掲げられた絵画を見る限り、結婚して少し経ったあたりで何かあったと考えるべきだろう。その幸せな日々を、この領主は壊した事になる。
執事さんでなくとも、許すことはできない。
一歩。これで進んだと思ってもいいだろうか? 細い糸を手繰り寄せる感覚で、ゆっくりと真相に近づいていく。
まずは領主、ブランドン・ウォルターについて調べを進めよう。
当時の貴族名鑑などがあれば助かるが、そうそう都合よくいくと思えない。 それに、そういう書物ではどんな人間かは載っているはずがない。
それなら、どうやって調べるか? それなら。ここの屋敷の関係者…例えばシュゼット嬢のご両親なり、もしくは執事さん自身が書き残した日記などを探すしかない。手掛かりとしてはかなり正統派な部類に当たるだろう。そう考えるなら、寝室や書斎あたりが定石か。だが…プライベートな場所なだけに、物理的にも心情的にも難しいことは間違いない。図書室にあるのなら最も楽ではあるんだが、現実はそうそう楽に行かないだろう。
ふと思案にふけって天井を仰ぎ見ると、その一部に不自然なスリットと思しき隙間が三列ほど空いている箇所が見えた。
妙に気になり、もっとよく見ようと場所を移る。 やはり、細長い穴というか、隙間というか…。空気抜きの穴というには外に通じていない不自然な位置だし、装飾というほど飾り気もない。何となく正面に回ってみても、スリットの向こうは何も…いや。よく見るとその奥には物騒な輝きが宿っていた。
「なんだ、あれ…?」
ぞくりと悪寒が這い上る。これは…設置式の罠、だろうか?
遠目にもうっすら見えたのは、連射式の石弓のように見える。歴史学の教授の付き合いで見た物に酷似しているそれは、狙いを正面に回った俺に向けている。
この位置に何かあるのだろうか? そう思って背後を見ても、一見無機質な壁しかない。軽く叩いてみると、何か空洞があるかのような響きの音が聞こえた。別の箇所の音と、明らかに違う。
「この位置に、こうまでして隠したい何かがあるのか…?」
壁の中に、どうやら隠し部屋があるようだ。そして、入る者を容赦なく殺傷するであろう罠まで設置して待ち構えている。背後の石弓の位置から考えて、出入り口の当たりをつけると再び天井のスリットを振り返った。
間違いない、ここだ。
よくみると、うっすらと壁に継ぎ目が見える。ここを押すか引くかで開くのだろうか? そして開いた瞬間、背後からの狙撃で石弓の矢が飛んでくるということか。これは、厄介だ…こんな高い天井に近い位置だと安全に解除できるはずもない。ここの部屋には、重要なものがあるはずなのに。もしかしたら、この屋敷の謎の中核があるかもしれないのに。
ここの位置には、罠付きの隠し部屋がある。
それがわかっただけでも僥倖だろうか?
どうしても困った時に、ここの扉を開いてみることにしよう…相当な覚悟が必要だろうけれど。
再び図書室にこもって五分後。もしやと思って以前来た時に書棚につけていた目印を頼りに、俺は目的の書物と記事をを見つけ出した。五十年前の、新聞記事…あった。前に見つけた記事だ。
『百五十年ぶりの魔女、異端審問にて果てる』
何度見ても、胸が悪くなる内容だ。
『シュゼット・ランカスター。貴族の家に生まれるも、悪魔と通じた罪で当地の領主であるブランドン・ウォルター氏によって告発される。異端審問官は空席にて急遽ポール・ノーズ司祭が就任し、任務に当たっていた。正式な作法に則り異端審問はなされていたが、その中途にて死亡が確認された』
…なるほど。このブランドンという領主とポールという司祭について調べればいいんだな。何を根拠に、何をもって魔女と断定したのか? それがわかればいいというわけか。
俺は持参した手帳にその名を書き込む。さらに場所や日付など、わかる限りの情報を書き込んでいく。ふつふつと湧いた怒りが頭をもたげる。ここに掲げられた絵画を見る限り、結婚して少し経ったあたりで何かあったと考えるべきだろう。その幸せな日々を、この領主は壊した事になる。
執事さんでなくとも、許すことはできない。
一歩。これで進んだと思ってもいいだろうか? 細い糸を手繰り寄せる感覚で、ゆっくりと真相に近づいていく。
まずは領主、ブランドン・ウォルターについて調べを進めよう。
当時の貴族名鑑などがあれば助かるが、そうそう都合よくいくと思えない。 それに、そういう書物ではどんな人間かは載っているはずがない。
それなら、どうやって調べるか? それなら。ここの屋敷の関係者…例えばシュゼット嬢のご両親なり、もしくは執事さん自身が書き残した日記などを探すしかない。手掛かりとしてはかなり正統派な部類に当たるだろう。そう考えるなら、寝室や書斎あたりが定石か。だが…プライベートな場所なだけに、物理的にも心情的にも難しいことは間違いない。図書室にあるのなら最も楽ではあるんだが、現実はそうそう楽に行かないだろう。
ふと思案にふけって天井を仰ぎ見ると、その一部に不自然なスリットと思しき隙間が三列ほど空いている箇所が見えた。
妙に気になり、もっとよく見ようと場所を移る。 やはり、細長い穴というか、隙間というか…。空気抜きの穴というには外に通じていない不自然な位置だし、装飾というほど飾り気もない。何となく正面に回ってみても、スリットの向こうは何も…いや。よく見るとその奥には物騒な輝きが宿っていた。
「なんだ、あれ…?」
ぞくりと悪寒が這い上る。これは…設置式の罠、だろうか?
遠目にもうっすら見えたのは、連射式の石弓のように見える。歴史学の教授の付き合いで見た物に酷似しているそれは、狙いを正面に回った俺に向けている。
この位置に何かあるのだろうか? そう思って背後を見ても、一見無機質な壁しかない。軽く叩いてみると、何か空洞があるかのような響きの音が聞こえた。別の箇所の音と、明らかに違う。
「この位置に、こうまでして隠したい何かがあるのか…?」
壁の中に、どうやら隠し部屋があるようだ。そして、入る者を容赦なく殺傷するであろう罠まで設置して待ち構えている。背後の石弓の位置から考えて、出入り口の当たりをつけると再び天井のスリットを振り返った。
間違いない、ここだ。
よくみると、うっすらと壁に継ぎ目が見える。ここを押すか引くかで開くのだろうか? そして開いた瞬間、背後からの狙撃で石弓の矢が飛んでくるということか。これは、厄介だ…こんな高い天井に近い位置だと安全に解除できるはずもない。ここの部屋には、重要なものがあるはずなのに。もしかしたら、この屋敷の謎の中核があるかもしれないのに。
ここの位置には、罠付きの隠し部屋がある。
それがわかっただけでも僥倖だろうか?
どうしても困った時に、ここの扉を開いてみることにしよう…相当な覚悟が必要だろうけれど。
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