17 / 47
第三夜
知るべき悲劇
しおりを挟む
朝 10:00
オルゴールを直すため、部品があるであろう南の方角を探す。今日の予定は、そこから始めよう…そう思ったが、もう一つやっておいたほうがいいことをふと思い立った。作業机の引き出しを開けて中にある紙片を取り除き、ペンで引っかいたような文字を確認する。
このメッセージを残した、先人たちに倣おうと思ったのだ。ここの書き付けには随分と助けられた。それに少しでも報いたいと思ってのことだ。
引き出しの底に、俺からのメッセージとして今まで掴んだ情報を上乗せして書いていこう。万が一にもあって欲しくないことだが、もし俺に何かあった場合の保険になるかとも思ったので。俺がダメでも、次に繋げられる。これを書いた先人たちも、少なからずそう思ったんじゃないだろうか?
『執事さんは決して嘘は言わない』
『彼は決して敵ではない。お嬢様に仇なすなら敵に、救うなら味方になる』
『夜十二時の殺害は、彼の意に沿ったことではない。シュゼット嬢のために、止むを得ずの様子』
『玄関の肖像画は、シュゼット嬢を描いたもの。その日付には意味があるようだ』
『質問に対して重大な手がかりをもらう事は激烈な苦しみを伴い、最終的には死に至る事もある』
『軽度の手がかりは、めまいを伴う』
『図書室にある新聞の切り抜きは、必ず目を通すべし』
『謎を解かない限り、無事に朝を迎えることはできない。数回殺害されることは、ほぼ確定事項』
とりあえず、わかっているだけでもこれだけ。前回…血を吐くほどの激烈な苦痛の末に一度死んで、やっと得られた貴重な手がかりだ。残しておくことには意味があると思いたい。
しかしここに書き残して、却ってこちらの情報も整理できたかもしれない。まず知るべきなのは、ここの屋敷で起きた悲劇について。まだまだ俺は、その事について知らないことが多すぎる。
もう一度、行ってみようか。図書室で資料を見て新しく発見することがあるかもしれない。はっきりしなかったので書かなかったが、シュゼット嬢の『異端審問による死亡記事』が気になってきた。
異端審問。
歴史を紐解いても、こんな理不尽な暴力なんて他では見られない。歴史学者たちの後の調べでは魔女とされた女性たちは、つまらない言いがかりや誤解に起因する異端審問を強いられたという説が有力なのだ。さらにひどい時には裕福な女性を魔女として訴えて、財産没収の隠れ蓑にしていたという話だってある。
魔女裁判というのは、腐敗した旧教会による悪意と暴力の象徴なのだ。宗教改革などで腐敗が糺されて悪習は一掃されたというのに、忘れた頃に異端審問の儀式を蒸し返した犯人がいるということか。そして、その犯人に協力した教会の有力者も。
ましてやあの儚げな少女が魔女だなんて、なんらかの悪意があったと考えて然るべきだろう。そこに至った経緯をまず知るべきなのでは、という気になってきた。
それともう一つ気がかりなことがある。
シュゼット嬢の、健康状態だ。明らかに前よりも顔色が悪く弱っているように思える。俺が死んだ回数が一回分増えたせいか、それとも他に何かあるのか?
執事さんに聞くと、さらにもう一回死にかける事になりそうだ…質問の仕方にもよるかもしれないが。
とりあえずは図書室で調べ物をし直そう。今度こそ徹底的に、余す事なく探してみよう。
シュゼット嬢の、潔白を証明するために。
オルゴールを直すため、部品があるであろう南の方角を探す。今日の予定は、そこから始めよう…そう思ったが、もう一つやっておいたほうがいいことをふと思い立った。作業机の引き出しを開けて中にある紙片を取り除き、ペンで引っかいたような文字を確認する。
このメッセージを残した、先人たちに倣おうと思ったのだ。ここの書き付けには随分と助けられた。それに少しでも報いたいと思ってのことだ。
引き出しの底に、俺からのメッセージとして今まで掴んだ情報を上乗せして書いていこう。万が一にもあって欲しくないことだが、もし俺に何かあった場合の保険になるかとも思ったので。俺がダメでも、次に繋げられる。これを書いた先人たちも、少なからずそう思ったんじゃないだろうか?
『執事さんは決して嘘は言わない』
『彼は決して敵ではない。お嬢様に仇なすなら敵に、救うなら味方になる』
『夜十二時の殺害は、彼の意に沿ったことではない。シュゼット嬢のために、止むを得ずの様子』
『玄関の肖像画は、シュゼット嬢を描いたもの。その日付には意味があるようだ』
『質問に対して重大な手がかりをもらう事は激烈な苦しみを伴い、最終的には死に至る事もある』
『軽度の手がかりは、めまいを伴う』
『図書室にある新聞の切り抜きは、必ず目を通すべし』
『謎を解かない限り、無事に朝を迎えることはできない。数回殺害されることは、ほぼ確定事項』
とりあえず、わかっているだけでもこれだけ。前回…血を吐くほどの激烈な苦痛の末に一度死んで、やっと得られた貴重な手がかりだ。残しておくことには意味があると思いたい。
しかしここに書き残して、却ってこちらの情報も整理できたかもしれない。まず知るべきなのは、ここの屋敷で起きた悲劇について。まだまだ俺は、その事について知らないことが多すぎる。
もう一度、行ってみようか。図書室で資料を見て新しく発見することがあるかもしれない。はっきりしなかったので書かなかったが、シュゼット嬢の『異端審問による死亡記事』が気になってきた。
異端審問。
歴史を紐解いても、こんな理不尽な暴力なんて他では見られない。歴史学者たちの後の調べでは魔女とされた女性たちは、つまらない言いがかりや誤解に起因する異端審問を強いられたという説が有力なのだ。さらにひどい時には裕福な女性を魔女として訴えて、財産没収の隠れ蓑にしていたという話だってある。
魔女裁判というのは、腐敗した旧教会による悪意と暴力の象徴なのだ。宗教改革などで腐敗が糺されて悪習は一掃されたというのに、忘れた頃に異端審問の儀式を蒸し返した犯人がいるということか。そして、その犯人に協力した教会の有力者も。
ましてやあの儚げな少女が魔女だなんて、なんらかの悪意があったと考えて然るべきだろう。そこに至った経緯をまず知るべきなのでは、という気になってきた。
それともう一つ気がかりなことがある。
シュゼット嬢の、健康状態だ。明らかに前よりも顔色が悪く弱っているように思える。俺が死んだ回数が一回分増えたせいか、それとも他に何かあるのか?
執事さんに聞くと、さらにもう一回死にかける事になりそうだ…質問の仕方にもよるかもしれないが。
とりあえずは図書室で調べ物をし直そう。今度こそ徹底的に、余す事なく探してみよう。
シュゼット嬢の、潔白を証明するために。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
神送りの夜
千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。
父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。
町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
呪配
真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。
デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。
『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』
その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。
不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……?
「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
(表紙絵/山碕田鶴)
※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「59」まで済。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
ミコトサマ
都貴
ホラー
神座山並町でまことしやかに囁かれる、白い着物に長い黒髪の女の幽霊ミコトサマの噂。
その噂を検証する為、綾奈は高校の友人達と共に町外れの幽霊屋敷を訪れる。
そこで彼女達は、背筋が凍えるような恐ろしい体験をした。
恐怖はそれで終わらず、徐々に彼女達の日常を蝕みはじめ―…。
長編の純和風ホラー小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる