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第三夜
知るべき悲劇
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朝 10:00
オルゴールを直すため、部品があるであろう南の方角を探す。今日の予定は、そこから始めよう…そう思ったが、もう一つやっておいたほうがいいことをふと思い立った。作業机の引き出しを開けて中にある紙片を取り除き、ペンで引っかいたような文字を確認する。
このメッセージを残した、先人たちに倣おうと思ったのだ。ここの書き付けには随分と助けられた。それに少しでも報いたいと思ってのことだ。
引き出しの底に、俺からのメッセージとして今まで掴んだ情報を上乗せして書いていこう。万が一にもあって欲しくないことだが、もし俺に何かあった場合の保険になるかとも思ったので。俺がダメでも、次に繋げられる。これを書いた先人たちも、少なからずそう思ったんじゃないだろうか?
『執事さんは決して嘘は言わない』
『彼は決して敵ではない。お嬢様に仇なすなら敵に、救うなら味方になる』
『夜十二時の殺害は、彼の意に沿ったことではない。シュゼット嬢のために、止むを得ずの様子』
『玄関の肖像画は、シュゼット嬢を描いたもの。その日付には意味があるようだ』
『質問に対して重大な手がかりをもらう事は激烈な苦しみを伴い、最終的には死に至る事もある』
『軽度の手がかりは、めまいを伴う』
『図書室にある新聞の切り抜きは、必ず目を通すべし』
『謎を解かない限り、無事に朝を迎えることはできない。数回殺害されることは、ほぼ確定事項』
とりあえず、わかっているだけでもこれだけ。前回…血を吐くほどの激烈な苦痛の末に一度死んで、やっと得られた貴重な手がかりだ。残しておくことには意味があると思いたい。
しかしここに書き残して、却ってこちらの情報も整理できたかもしれない。まず知るべきなのは、ここの屋敷で起きた悲劇について。まだまだ俺は、その事について知らないことが多すぎる。
もう一度、行ってみようか。図書室で資料を見て新しく発見することがあるかもしれない。はっきりしなかったので書かなかったが、シュゼット嬢の『異端審問による死亡記事』が気になってきた。
異端審問。
歴史を紐解いても、こんな理不尽な暴力なんて他では見られない。歴史学者たちの後の調べでは魔女とされた女性たちは、つまらない言いがかりや誤解に起因する異端審問を強いられたという説が有力なのだ。さらにひどい時には裕福な女性を魔女として訴えて、財産没収の隠れ蓑にしていたという話だってある。
魔女裁判というのは、腐敗した旧教会による悪意と暴力の象徴なのだ。宗教改革などで腐敗が糺されて悪習は一掃されたというのに、忘れた頃に異端審問の儀式を蒸し返した犯人がいるということか。そして、その犯人に協力した教会の有力者も。
ましてやあの儚げな少女が魔女だなんて、なんらかの悪意があったと考えて然るべきだろう。そこに至った経緯をまず知るべきなのでは、という気になってきた。
それともう一つ気がかりなことがある。
シュゼット嬢の、健康状態だ。明らかに前よりも顔色が悪く弱っているように思える。俺が死んだ回数が一回分増えたせいか、それとも他に何かあるのか?
執事さんに聞くと、さらにもう一回死にかける事になりそうだ…質問の仕方にもよるかもしれないが。
とりあえずは図書室で調べ物をし直そう。今度こそ徹底的に、余す事なく探してみよう。
シュゼット嬢の、潔白を証明するために。
オルゴールを直すため、部品があるであろう南の方角を探す。今日の予定は、そこから始めよう…そう思ったが、もう一つやっておいたほうがいいことをふと思い立った。作業机の引き出しを開けて中にある紙片を取り除き、ペンで引っかいたような文字を確認する。
このメッセージを残した、先人たちに倣おうと思ったのだ。ここの書き付けには随分と助けられた。それに少しでも報いたいと思ってのことだ。
引き出しの底に、俺からのメッセージとして今まで掴んだ情報を上乗せして書いていこう。万が一にもあって欲しくないことだが、もし俺に何かあった場合の保険になるかとも思ったので。俺がダメでも、次に繋げられる。これを書いた先人たちも、少なからずそう思ったんじゃないだろうか?
『執事さんは決して嘘は言わない』
『彼は決して敵ではない。お嬢様に仇なすなら敵に、救うなら味方になる』
『夜十二時の殺害は、彼の意に沿ったことではない。シュゼット嬢のために、止むを得ずの様子』
『玄関の肖像画は、シュゼット嬢を描いたもの。その日付には意味があるようだ』
『質問に対して重大な手がかりをもらう事は激烈な苦しみを伴い、最終的には死に至る事もある』
『軽度の手がかりは、めまいを伴う』
『図書室にある新聞の切り抜きは、必ず目を通すべし』
『謎を解かない限り、無事に朝を迎えることはできない。数回殺害されることは、ほぼ確定事項』
とりあえず、わかっているだけでもこれだけ。前回…血を吐くほどの激烈な苦痛の末に一度死んで、やっと得られた貴重な手がかりだ。残しておくことには意味があると思いたい。
しかしここに書き残して、却ってこちらの情報も整理できたかもしれない。まず知るべきなのは、ここの屋敷で起きた悲劇について。まだまだ俺は、その事について知らないことが多すぎる。
もう一度、行ってみようか。図書室で資料を見て新しく発見することがあるかもしれない。はっきりしなかったので書かなかったが、シュゼット嬢の『異端審問による死亡記事』が気になってきた。
異端審問。
歴史を紐解いても、こんな理不尽な暴力なんて他では見られない。歴史学者たちの後の調べでは魔女とされた女性たちは、つまらない言いがかりや誤解に起因する異端審問を強いられたという説が有力なのだ。さらにひどい時には裕福な女性を魔女として訴えて、財産没収の隠れ蓑にしていたという話だってある。
魔女裁判というのは、腐敗した旧教会による悪意と暴力の象徴なのだ。宗教改革などで腐敗が糺されて悪習は一掃されたというのに、忘れた頃に異端審問の儀式を蒸し返した犯人がいるということか。そして、その犯人に協力した教会の有力者も。
ましてやあの儚げな少女が魔女だなんて、なんらかの悪意があったと考えて然るべきだろう。そこに至った経緯をまず知るべきなのでは、という気になってきた。
それともう一つ気がかりなことがある。
シュゼット嬢の、健康状態だ。明らかに前よりも顔色が悪く弱っているように思える。俺が死んだ回数が一回分増えたせいか、それとも他に何かあるのか?
執事さんに聞くと、さらにもう一回死にかける事になりそうだ…質問の仕方にもよるかもしれないが。
とりあえずは図書室で調べ物をし直そう。今度こそ徹底的に、余す事なく探してみよう。
シュゼット嬢の、潔白を証明するために。
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