16 / 47
第三夜
美しき女主人 ~三巡目~
しおりを挟む
朝 7;00
ああ、また…だ…。
十二時の死神に、また…殺されてしまった…。
しかも、止めの短剣以外は…どうやって攻撃されたのかわからないままに…。
そして、また…動機がよくわからないままに…。
……………………。
………………。
………。
……激しい風と、雨の音……。
… 相変わらず、外は嵐のままのようだ…。
…不快な風雨の音に、意識が浮上していく…。
「気がつかれましたか?」
見覚えのある天井、聞き慣れた美しい声。
目を開けると、相変わらず儚げなシュゼット嬢が 微笑みを浮かべて俺を覗き込む。
未だ口の中は、さっき大量に吐いた血の味がするように思えた。
喉はカラカラに乾ききり、頭の奥はズキズキと脈打つように痛む。
「ご気分でもお悪いのですか?」
慎重に起き上がると、心配そうな声で額に手が当てられる。ひどく冷たい手だ。そういえば、彼女に触れるのは初めてな気がする。
そう自覚して彼女を見ると、どうも顔色が前より悪いように思えた。儚げな印象が、さらに強くなる。見ているうちに消えそうに思えて、思わず質問が口をついて出た。
「貴女は…?」
「え?」
「貴女は、大丈夫なのですか? ひどく顔色が悪い…!」
俺の問いかけをどう解釈したのか、彼女は微笑みを深める。
「あら、わかってしまいましたか…。私、少々身体が強くないので…。お優しい方、ご自分よりも私の心配をしてくれるなんて」
そこから先は、また同じようなやり取りを繰り返し。あとは綺麗にして掛けられた俺の服に袖を通して、部屋を見て回った。俺の命を一時守ってくれた手帳に写真は、懐のポケットに忍ばせておく。お守りがわりだ。
ねじまきのゼンマイのみが欠けた、修理し終わったオルゴールは作業机の上。何事もなかったかのように鎮座している。
さっき俺が死んだ部屋の片隅には、相変わらず血の跡一つもない。執事さんとの質問の応酬で何故か苦しみ抜いた上で大量に血を吐き、その挙句に短剣で『楽にされた』はずなのだが。
これからは、執事さんに対する質問は慎重にするべきだろう…。未だに頭の隅がズキズキと脈打つように痛む。奇妙なことだ、この頭痛があるおかげで生きていると実感できるなんて。
めまいや頭痛、そして激烈な痛みに襲われたのはいずれも執事さんに質問して答えが返ってきた時。それも、ぼかした答えではなくはっきりとした答えほど苦痛が激しくなっていた。
つまり『執事さんは嘘をつけない』というのは本当のことだろう。そして、他の質問も同じということが当てはまる。
その時、控えめなノックが部屋に響く。ああ、今回もまた繰り返すのか…。
開いた扉の向こうには、全く同じように軽食を持った執事さんがピシリとした姿勢で立っている。
「お屋敷の中はご自由にご覧ください。ただ…」
「執事さん」
今までに二度繰り返された説明を俺は遮った。
「シュゼット嬢に頼まれたオルゴールの部品は他にあるんですか?」
必要な質問とはいえ、再び激烈な苦痛を覚悟しながら慎重に言葉を選んで問う。
「ああ、それなら…南の方向、かもしれませんね」
予想された苦痛は襲ってこない。驚いて執事さんを見返すと彼は静かな表情で軽食を置き、頭を下げて去っていった。
俺が苦しむことがないように、回答を選んでくれたということ、か?
『お嬢様を救うなら味方に、仇なすなら敵に』
そんなことを彼が言っていたのを思い出した。
今は味方、と認めてくれているということなのだろうか?
「南の方向? こちら側か…?」
ぼかした答えで苦痛を遮断してくれたのはありがたいが、まるで占いのように具体性のない答えは少し困る。
「ちょうど玄関の、反対側か…」
そういえば、玄関の逆側に何かあるのだろうか? 今までは雨に降り込められたのもあって、こっち側しか見ていない気がする。
早速部屋を出て、行ってみることにしようか。
ああ、また…だ…。
十二時の死神に、また…殺されてしまった…。
しかも、止めの短剣以外は…どうやって攻撃されたのかわからないままに…。
そして、また…動機がよくわからないままに…。
……………………。
………………。
………。
……激しい風と、雨の音……。
… 相変わらず、外は嵐のままのようだ…。
…不快な風雨の音に、意識が浮上していく…。
「気がつかれましたか?」
見覚えのある天井、聞き慣れた美しい声。
目を開けると、相変わらず儚げなシュゼット嬢が 微笑みを浮かべて俺を覗き込む。
未だ口の中は、さっき大量に吐いた血の味がするように思えた。
喉はカラカラに乾ききり、頭の奥はズキズキと脈打つように痛む。
「ご気分でもお悪いのですか?」
慎重に起き上がると、心配そうな声で額に手が当てられる。ひどく冷たい手だ。そういえば、彼女に触れるのは初めてな気がする。
そう自覚して彼女を見ると、どうも顔色が前より悪いように思えた。儚げな印象が、さらに強くなる。見ているうちに消えそうに思えて、思わず質問が口をついて出た。
「貴女は…?」
「え?」
「貴女は、大丈夫なのですか? ひどく顔色が悪い…!」
俺の問いかけをどう解釈したのか、彼女は微笑みを深める。
「あら、わかってしまいましたか…。私、少々身体が強くないので…。お優しい方、ご自分よりも私の心配をしてくれるなんて」
そこから先は、また同じようなやり取りを繰り返し。あとは綺麗にして掛けられた俺の服に袖を通して、部屋を見て回った。俺の命を一時守ってくれた手帳に写真は、懐のポケットに忍ばせておく。お守りがわりだ。
ねじまきのゼンマイのみが欠けた、修理し終わったオルゴールは作業机の上。何事もなかったかのように鎮座している。
さっき俺が死んだ部屋の片隅には、相変わらず血の跡一つもない。執事さんとの質問の応酬で何故か苦しみ抜いた上で大量に血を吐き、その挙句に短剣で『楽にされた』はずなのだが。
これからは、執事さんに対する質問は慎重にするべきだろう…。未だに頭の隅がズキズキと脈打つように痛む。奇妙なことだ、この頭痛があるおかげで生きていると実感できるなんて。
めまいや頭痛、そして激烈な痛みに襲われたのはいずれも執事さんに質問して答えが返ってきた時。それも、ぼかした答えではなくはっきりとした答えほど苦痛が激しくなっていた。
つまり『執事さんは嘘をつけない』というのは本当のことだろう。そして、他の質問も同じということが当てはまる。
その時、控えめなノックが部屋に響く。ああ、今回もまた繰り返すのか…。
開いた扉の向こうには、全く同じように軽食を持った執事さんがピシリとした姿勢で立っている。
「お屋敷の中はご自由にご覧ください。ただ…」
「執事さん」
今までに二度繰り返された説明を俺は遮った。
「シュゼット嬢に頼まれたオルゴールの部品は他にあるんですか?」
必要な質問とはいえ、再び激烈な苦痛を覚悟しながら慎重に言葉を選んで問う。
「ああ、それなら…南の方向、かもしれませんね」
予想された苦痛は襲ってこない。驚いて執事さんを見返すと彼は静かな表情で軽食を置き、頭を下げて去っていった。
俺が苦しむことがないように、回答を選んでくれたということ、か?
『お嬢様を救うなら味方に、仇なすなら敵に』
そんなことを彼が言っていたのを思い出した。
今は味方、と認めてくれているということなのだろうか?
「南の方向? こちら側か…?」
ぼかした答えで苦痛を遮断してくれたのはありがたいが、まるで占いのように具体性のない答えは少し困る。
「ちょうど玄関の、反対側か…」
そういえば、玄関の逆側に何かあるのだろうか? 今までは雨に降り込められたのもあって、こっち側しか見ていない気がする。
早速部屋を出て、行ってみることにしようか。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
人の目嫌い/人嫌い
木月 くろい
ホラー
ひと気の無くなった放課後の学校で、三谷藤若菜(みやふじわかな)は声を掛けられる。若菜は驚いた。自分の名を呼ばれるなど、有り得ないことだったからだ。
◆2020年4月に小説家になろう様にて玄乃光名義で掲載したホラー短編『Scopophobia』を修正し、続きを書いたものになります。
◆やや残酷描写があります。
◆小説家になろう様に同名の作品を同時掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
視える私と視えない君と
赤羽こうじ
ホラー
前作の海の家の事件から数週間後、叶は自室で引越しの準備を進めていた。
「そろそろ連絡ぐらいしないとな」
そう思い、仕事の依頼を受けていた陸奥方志保に連絡を入れる。
「少しは落ち着いたんで」
そう言って叶は斗弥陀《とみだ》グループが買ったいわく付きの廃病院の調査を引き受ける事となった。
しかし「俺達も同行させてもらうから」そう言って叶の調査に斗弥陀の御曹司達も加わり、廃病院の調査は肝試しのような様相を呈してくる。
廃病院の怪異を軽く考える御曹司達に頭を抱える叶だったが、廃病院の怪異は容赦なくその牙を剥く。
一方、恋人である叶から連絡が途絶えた幸太はいても立ってもいられなくなり廃病院のある京都へと向かった。
そこで幸太は陸奥方志穂と出会い、共に叶の捜索に向かう事となる。
やがて叶や幸太達は斗弥陀家で渦巻く不可解な事件へと巻き込まれていく。
前作、『夏の日の出会いと別れ』より今回は美しき霊能者、鬼龍叶を主人公に迎えた作品です。
もちろん前作未読でもお楽しみ頂けます。
※この作品は他にエブリスタ、小説家になろう、でも公開しています。
ミコトサマ
都貴
ホラー
神座山並町でまことしやかに囁かれる、白い着物に長い黒髪の女の幽霊ミコトサマの噂。
その噂を検証する為、綾奈は高校の友人達と共に町外れの幽霊屋敷を訪れる。
そこで彼女達は、背筋が凍えるような恐ろしい体験をした。
恐怖はそれで終わらず、徐々に彼女達の日常を蝕みはじめ―…。
長編の純和風ホラー小説です。
禁踏区
nami
ホラー
月隠村を取り囲む山には絶対に足を踏み入れてはいけない場所があるらしい。
そこには巨大な屋敷があり、そこに入ると決して生きて帰ることはできないという……
隠された道の先に聳える巨大な廃屋。
そこで様々な怪異に遭遇する凛達。
しかし、本当の恐怖は廃屋から脱出した後に待ち受けていた──
都市伝説と呪いの田舎ホラー
日高川という名の大蛇に抱かれて【怒りの炎で光宗センセを火あぶりの刑にしちゃうもん!】
spell breaker!
ホラー
幼いころから思い込みの烈しい庄司 由海(しょうじ ゆみ)。
初潮を迎えたころ、家系に伝わる蛇の紋章を受け継いでしまった。
聖痕をまとったからには、庄司の女は情深く、とかく男と色恋沙汰に落ちやすくなる。身を滅ぼしかねないのだという。
やがて17歳になった。夏休み明けのことだった。
県立日高学園に通う由海は、突然担任になった光宗 臣吾(みつむね しんご)に一目惚れしてしまう。
なんとか光宗先生と交際できないか近づく由海。
ところが光宗には二面性があり、女癖も悪かった。
決定的な場面を目撃してしまったとき、ついに由海は怒り、暴走してしまう……。
※本作は『小説家になろう』様でも公開しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる