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第三夜
美しき女主人 ~三巡目~
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朝 7;00
ああ、また…だ…。
十二時の死神に、また…殺されてしまった…。
しかも、止めの短剣以外は…どうやって攻撃されたのかわからないままに…。
そして、また…動機がよくわからないままに…。
……………………。
………………。
………。
……激しい風と、雨の音……。
… 相変わらず、外は嵐のままのようだ…。
…不快な風雨の音に、意識が浮上していく…。
「気がつかれましたか?」
見覚えのある天井、聞き慣れた美しい声。
目を開けると、相変わらず儚げなシュゼット嬢が 微笑みを浮かべて俺を覗き込む。
未だ口の中は、さっき大量に吐いた血の味がするように思えた。
喉はカラカラに乾ききり、頭の奥はズキズキと脈打つように痛む。
「ご気分でもお悪いのですか?」
慎重に起き上がると、心配そうな声で額に手が当てられる。ひどく冷たい手だ。そういえば、彼女に触れるのは初めてな気がする。
そう自覚して彼女を見ると、どうも顔色が前より悪いように思えた。儚げな印象が、さらに強くなる。見ているうちに消えそうに思えて、思わず質問が口をついて出た。
「貴女は…?」
「え?」
「貴女は、大丈夫なのですか? ひどく顔色が悪い…!」
俺の問いかけをどう解釈したのか、彼女は微笑みを深める。
「あら、わかってしまいましたか…。私、少々身体が強くないので…。お優しい方、ご自分よりも私の心配をしてくれるなんて」
そこから先は、また同じようなやり取りを繰り返し。あとは綺麗にして掛けられた俺の服に袖を通して、部屋を見て回った。俺の命を一時守ってくれた手帳に写真は、懐のポケットに忍ばせておく。お守りがわりだ。
ねじまきのゼンマイのみが欠けた、修理し終わったオルゴールは作業机の上。何事もなかったかのように鎮座している。
さっき俺が死んだ部屋の片隅には、相変わらず血の跡一つもない。執事さんとの質問の応酬で何故か苦しみ抜いた上で大量に血を吐き、その挙句に短剣で『楽にされた』はずなのだが。
これからは、執事さんに対する質問は慎重にするべきだろう…。未だに頭の隅がズキズキと脈打つように痛む。奇妙なことだ、この頭痛があるおかげで生きていると実感できるなんて。
めまいや頭痛、そして激烈な痛みに襲われたのはいずれも執事さんに質問して答えが返ってきた時。それも、ぼかした答えではなくはっきりとした答えほど苦痛が激しくなっていた。
つまり『執事さんは嘘をつけない』というのは本当のことだろう。そして、他の質問も同じということが当てはまる。
その時、控えめなノックが部屋に響く。ああ、今回もまた繰り返すのか…。
開いた扉の向こうには、全く同じように軽食を持った執事さんがピシリとした姿勢で立っている。
「お屋敷の中はご自由にご覧ください。ただ…」
「執事さん」
今までに二度繰り返された説明を俺は遮った。
「シュゼット嬢に頼まれたオルゴールの部品は他にあるんですか?」
必要な質問とはいえ、再び激烈な苦痛を覚悟しながら慎重に言葉を選んで問う。
「ああ、それなら…南の方向、かもしれませんね」
予想された苦痛は襲ってこない。驚いて執事さんを見返すと彼は静かな表情で軽食を置き、頭を下げて去っていった。
俺が苦しむことがないように、回答を選んでくれたということ、か?
『お嬢様を救うなら味方に、仇なすなら敵に』
そんなことを彼が言っていたのを思い出した。
今は味方、と認めてくれているということなのだろうか?
「南の方向? こちら側か…?」
ぼかした答えで苦痛を遮断してくれたのはありがたいが、まるで占いのように具体性のない答えは少し困る。
「ちょうど玄関の、反対側か…」
そういえば、玄関の逆側に何かあるのだろうか? 今までは雨に降り込められたのもあって、こっち側しか見ていない気がする。
早速部屋を出て、行ってみることにしようか。
ああ、また…だ…。
十二時の死神に、また…殺されてしまった…。
しかも、止めの短剣以外は…どうやって攻撃されたのかわからないままに…。
そして、また…動機がよくわからないままに…。
……………………。
………………。
………。
……激しい風と、雨の音……。
… 相変わらず、外は嵐のままのようだ…。
…不快な風雨の音に、意識が浮上していく…。
「気がつかれましたか?」
見覚えのある天井、聞き慣れた美しい声。
目を開けると、相変わらず儚げなシュゼット嬢が 微笑みを浮かべて俺を覗き込む。
未だ口の中は、さっき大量に吐いた血の味がするように思えた。
喉はカラカラに乾ききり、頭の奥はズキズキと脈打つように痛む。
「ご気分でもお悪いのですか?」
慎重に起き上がると、心配そうな声で額に手が当てられる。ひどく冷たい手だ。そういえば、彼女に触れるのは初めてな気がする。
そう自覚して彼女を見ると、どうも顔色が前より悪いように思えた。儚げな印象が、さらに強くなる。見ているうちに消えそうに思えて、思わず質問が口をついて出た。
「貴女は…?」
「え?」
「貴女は、大丈夫なのですか? ひどく顔色が悪い…!」
俺の問いかけをどう解釈したのか、彼女は微笑みを深める。
「あら、わかってしまいましたか…。私、少々身体が強くないので…。お優しい方、ご自分よりも私の心配をしてくれるなんて」
そこから先は、また同じようなやり取りを繰り返し。あとは綺麗にして掛けられた俺の服に袖を通して、部屋を見て回った。俺の命を一時守ってくれた手帳に写真は、懐のポケットに忍ばせておく。お守りがわりだ。
ねじまきのゼンマイのみが欠けた、修理し終わったオルゴールは作業机の上。何事もなかったかのように鎮座している。
さっき俺が死んだ部屋の片隅には、相変わらず血の跡一つもない。執事さんとの質問の応酬で何故か苦しみ抜いた上で大量に血を吐き、その挙句に短剣で『楽にされた』はずなのだが。
これからは、執事さんに対する質問は慎重にするべきだろう…。未だに頭の隅がズキズキと脈打つように痛む。奇妙なことだ、この頭痛があるおかげで生きていると実感できるなんて。
めまいや頭痛、そして激烈な痛みに襲われたのはいずれも執事さんに質問して答えが返ってきた時。それも、ぼかした答えではなくはっきりとした答えほど苦痛が激しくなっていた。
つまり『執事さんは嘘をつけない』というのは本当のことだろう。そして、他の質問も同じということが当てはまる。
その時、控えめなノックが部屋に響く。ああ、今回もまた繰り返すのか…。
開いた扉の向こうには、全く同じように軽食を持った執事さんがピシリとした姿勢で立っている。
「お屋敷の中はご自由にご覧ください。ただ…」
「執事さん」
今までに二度繰り返された説明を俺は遮った。
「シュゼット嬢に頼まれたオルゴールの部品は他にあるんですか?」
必要な質問とはいえ、再び激烈な苦痛を覚悟しながら慎重に言葉を選んで問う。
「ああ、それなら…南の方向、かもしれませんね」
予想された苦痛は襲ってこない。驚いて執事さんを見返すと彼は静かな表情で軽食を置き、頭を下げて去っていった。
俺が苦しむことがないように、回答を選んでくれたということ、か?
『お嬢様を救うなら味方に、仇なすなら敵に』
そんなことを彼が言っていたのを思い出した。
今は味方、と認めてくれているということなのだろうか?
「南の方向? こちら側か…?」
ぼかした答えで苦痛を遮断してくれたのはありがたいが、まるで占いのように具体性のない答えは少し困る。
「ちょうど玄関の、反対側か…」
そういえば、玄関の逆側に何かあるのだろうか? 今までは雨に降り込められたのもあって、こっち側しか見ていない気がする。
早速部屋を出て、行ってみることにしようか。
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