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第二夜
再びの朝
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朝 10:00
再び俺は、作業台の引き出しを開けて底のメッセージを読んでみた。何かのヒントになるかも知れない。
どれも生々しい叫び声のように刻まれている。これまでここに来て、殺されていった人々の叫びなのだろうか?
これを見た人もいるかもしれないし、見なかった人もいるかも知れない。前までの俺なら、馬鹿馬鹿しいと信じなかっただろう。だが、今の俺にとっては生々しい事実と思えた。なにせ、自分も一度殺されているのだから。
文字の上を指先でなぞる。
『十二時になったら、全……わる』
『屋敷を徘徊する………に、殺られる…』
『あと何回殺す気だろう………は……』
重なり合った文字で読めない箇所も所々ある。
やはり…。あれは夢ではなかった、という事か…。
そこまで考えて、俺はふと思い至った。
『殺されては生き返る…。それなら、今までこのメッセージを書いた人たちは…今どこにいるというんだろうか?』
答えを出すのに、さほど時間はいらなかった。少なくとも、この世には居ないのだろう。それなら自分は? 自分も彼らと同じ道を辿るというのか?
答えは、否。
ここを脱出して帰るすべが全くないわけでもない筈だ。
そうでなければ、前回息絶える寸前の執事の懇願はどう説明する?
『どうか次回は、解き明かして下さい』
となれば…解き明かすべき何かを見つければ、光明は見えるはずだ。
現在、作業台の上にはオルゴールと修理ツール、ランプに三本に増えた鍵束がある。
三本目の鍵…これはおそらく、玄関前の時計から出てきたものだろう。覚えがある特徴的な山羊の刻印が入っている。
図書室にはフクロウの刻印、自室の鍵にはネコが刻印されていた。まずはこのヤギの刻印の鍵がどこのものなのか探してみようか?
…とはいえ。この広すぎる三階建てのお屋敷で…どの部屋がそれに該当するのか、探すだけでも一苦労だ。とりあえずは図書室に行ってみよう。
まず探すのは、新聞かこの屋敷の由来について書かれた書物。ここで何があったのかがわかれば、解き明かすべき謎も見えてくるだろう 。
書棚を見て回り、少しずつ奥に進む。いちばん手前に小説、その奥には言語学に芸術、生物に料理に医学書と科学書…。かなり奥まったところまで進み、棚の背表紙を見て回る。地理に歴史…この辺りはもう一度見るために、場所を覚えておく…まずは新聞だ。
いちばん奥に、新聞記事を綴じた分厚いファイルが大量にあった。執事さんの仕事か、埃一つない。大したものだ。
「まずは…五十年前の記事だな」
五十年前とは…あの玄関の脇にあった、あの肖像画に記されていた時のもの。あの日付は、重要だと思えてならないのだ。
ページをめくることを繰り返し、どこかに鍵となる出来事が記されていないか探し続け…。
途中で執事さんに見つかり昼食に連行されつつも、再び戻って捜し続けた。
「…これは…!」
どういうことなのか? 新聞記事を繰り続け、あの日付の前後三年分ほどの開きで読み続けると一つの記事に突き当たった。
『百五十年ぶりに発見された魔女、異端審問にて果てる』
五十年前の記事の見出しには、物騒な文字が踊っている。魔女…だって? まさか、あの絵の中にいたシュゼット嬢のお身内の方が?
昔話ならともかく今では魔女なんて話、笑い話のネタでしかない。それも実際に異端審問なんて…!
俺が知っている限りの異端審問の手順は…魔女と疑われた女性をあらゆる方法で拷問にかけ、無理やり自白を取る。その挙句に最終的には生きながら焼かれる苦しみと屈辱に泣き叫ぶことになり、十字架の柱共々焼き殺されてしまう。さらに名誉は永続的に剥奪される事となり、事実上、いかなる弁明も弁護も受け付けられはしない。悪魔と契約を結んだとも、悪魔の子を宿したとも言いがかりをつけられて行われる、程のいい私刑だ。
五十年前の事とはいえ、なんという不愉快な悪習で…。
その記事に、魔女とされた女性の写真が掲載されている。やはり、あの絵画の女性だ。つられるようにして、合わせて記載されている名前を見ると…瞬間、息が止まった。
『シュゼット・ランカスター』
再び俺は、作業台の引き出しを開けて底のメッセージを読んでみた。何かのヒントになるかも知れない。
どれも生々しい叫び声のように刻まれている。これまでここに来て、殺されていった人々の叫びなのだろうか?
これを見た人もいるかもしれないし、見なかった人もいるかも知れない。前までの俺なら、馬鹿馬鹿しいと信じなかっただろう。だが、今の俺にとっては生々しい事実と思えた。なにせ、自分も一度殺されているのだから。
文字の上を指先でなぞる。
『十二時になったら、全……わる』
『屋敷を徘徊する………に、殺られる…』
『あと何回殺す気だろう………は……』
重なり合った文字で読めない箇所も所々ある。
やはり…。あれは夢ではなかった、という事か…。
そこまで考えて、俺はふと思い至った。
『殺されては生き返る…。それなら、今までこのメッセージを書いた人たちは…今どこにいるというんだろうか?』
答えを出すのに、さほど時間はいらなかった。少なくとも、この世には居ないのだろう。それなら自分は? 自分も彼らと同じ道を辿るというのか?
答えは、否。
ここを脱出して帰るすべが全くないわけでもない筈だ。
そうでなければ、前回息絶える寸前の執事の懇願はどう説明する?
『どうか次回は、解き明かして下さい』
となれば…解き明かすべき何かを見つければ、光明は見えるはずだ。
現在、作業台の上にはオルゴールと修理ツール、ランプに三本に増えた鍵束がある。
三本目の鍵…これはおそらく、玄関前の時計から出てきたものだろう。覚えがある特徴的な山羊の刻印が入っている。
図書室にはフクロウの刻印、自室の鍵にはネコが刻印されていた。まずはこのヤギの刻印の鍵がどこのものなのか探してみようか?
…とはいえ。この広すぎる三階建てのお屋敷で…どの部屋がそれに該当するのか、探すだけでも一苦労だ。とりあえずは図書室に行ってみよう。
まず探すのは、新聞かこの屋敷の由来について書かれた書物。ここで何があったのかがわかれば、解き明かすべき謎も見えてくるだろう 。
書棚を見て回り、少しずつ奥に進む。いちばん手前に小説、その奥には言語学に芸術、生物に料理に医学書と科学書…。かなり奥まったところまで進み、棚の背表紙を見て回る。地理に歴史…この辺りはもう一度見るために、場所を覚えておく…まずは新聞だ。
いちばん奥に、新聞記事を綴じた分厚いファイルが大量にあった。執事さんの仕事か、埃一つない。大したものだ。
「まずは…五十年前の記事だな」
五十年前とは…あの玄関の脇にあった、あの肖像画に記されていた時のもの。あの日付は、重要だと思えてならないのだ。
ページをめくることを繰り返し、どこかに鍵となる出来事が記されていないか探し続け…。
途中で執事さんに見つかり昼食に連行されつつも、再び戻って捜し続けた。
「…これは…!」
どういうことなのか? 新聞記事を繰り続け、あの日付の前後三年分ほどの開きで読み続けると一つの記事に突き当たった。
『百五十年ぶりに発見された魔女、異端審問にて果てる』
五十年前の記事の見出しには、物騒な文字が踊っている。魔女…だって? まさか、あの絵の中にいたシュゼット嬢のお身内の方が?
昔話ならともかく今では魔女なんて話、笑い話のネタでしかない。それも実際に異端審問なんて…!
俺が知っている限りの異端審問の手順は…魔女と疑われた女性をあらゆる方法で拷問にかけ、無理やり自白を取る。その挙句に最終的には生きながら焼かれる苦しみと屈辱に泣き叫ぶことになり、十字架の柱共々焼き殺されてしまう。さらに名誉は永続的に剥奪される事となり、事実上、いかなる弁明も弁護も受け付けられはしない。悪魔と契約を結んだとも、悪魔の子を宿したとも言いがかりをつけられて行われる、程のいい私刑だ。
五十年前の事とはいえ、なんという不愉快な悪習で…。
その記事に、魔女とされた女性の写真が掲載されている。やはり、あの絵画の女性だ。つられるようにして、合わせて記載されている名前を見ると…瞬間、息が止まった。
『シュゼット・ランカスター』
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